しばらく前に、「欧米諸国からの制裁に直面したロシアで、民航各社が使用する旅客機が共食い整備を余儀なくされている」という話が出ていた。そこで改めて過去記事の元原稿を遡ってみたところ、意外にも共食い整備の話をちゃんと書いたことはなかったようだ。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
共食い整備に関するおさらい
共食い整備、英語では「カニバライズ(cannibalize)」という。普通、整備・交換で使用するパーツや機器は予備品を単品で取得・在庫しておくものだが、それができない場合に、他の同型機から同じ部品をはぎ取ってきて使うことをいう。
例えば、ロシアのエアラインであれば、制裁によって欧米メーカー製の旅客機、あるいはそこで使用するエンジンのパーツが入手できなくなる。すると、手持ちの機体のいずれかから部品をはぎ取って、それを必要とする機体に回す。といっても、供給元は限られるから、共食い整備を繰り返していれば、可動機は徐々に減ってくる。
だから、パーツや機器の入手が間に合わないときの一時しのぎとして共食い整備を行うならまだしも、制裁みたいな事情で継続的に入手不可能な状態が続くと、共食い整備もいずれ限界が来る。
米軍では、用途廃止になった機体をアリゾナ州ツーソン近くのデビスモンサン空軍基地にある309AMARG(Aerospace Maintenance and Regeneration Group)の管理下に置いて保管していることがある。この “ボーンヤード” に送られた機体は、そのままということもあるし、部品取りに使われることもある。たまに、何かニーズが発生してラザロのごとくに蘇り、再び空を舞うこともある。
ツーソン界隈は気温こそ高いが、空気が乾燥しているので機体を傷めずに済むらしい。そういう意味で高温多湿の日本は分が悪い。