2016年10月12~15日にかけて、東京ビッグサイトで「国際航空宇宙展2016」(Japan Aerospace 2016)が開催された。基本的にはトレードショーだが、パブリックデーも設定され、誰でも行くことができる。今回は、このイベントの展示品の中から、過去に本連載で取り上げた話題に関連しそうなものをいくつか紹介しよう。

ファスナー

のっけからマニアックな話だが、飛行機の世界では機体構造材同士をつなぐ留め金具のことを「ファスナー」という。洋服に付いているあれとはまったくの別物だ。

「航空宇宙展」というからには、完成品の機体だけでなく、さまざまな部品を手掛けているサプライヤーもたくさん出展している。いや、出展者の数ならサプライヤーのほうが多い。なぜなら、この種のイベントはメーカーとサプライヤーの「お見合い」の場でもあるからだ。最初の3日間が「トレードデー」とされているのは、メーカーとカスタマー、あるいはメーカーとサプライヤーが商談をまとめるのが主目的だからである。

さて。アメリカのアルミ製品大手・アルコア社が、航空機の機体構造で使用するファスナーの見本やその他の機体構造用部品をいろいろ展示していた。こういうイベントでもなければ、なかなかファスナーの現物を見る機会はない。

アルコア社が展示していた、ファスナーをはじめとする各種の機体構造用部品。整備工場の見学に行ったとしても、ここまでのものはまず出てこない

ブレーキ

カヤバが展示していたのは、スポイラーを作動させるためのアクチュエータ、脚収容室扉を開閉させるためのアクチュエータ、アクチュエータを作動させる力の源泉となる油圧ポンプ、そして海上自衛隊のP-1哨戒機と航空自衛隊のXC-2輸送機で使っているホイール/ブレーキ・アセンブリ。

脚収容室扉の開閉に使うアクチュエータ。周囲が黒いのは、炭素繊維を周囲に巻いて補強しているため。こうすると金属製のシリンダを薄くできるので、軽量化につながる

ブレーキについては第30回で取り上げた。ディスクブレーキだが、クルマのそれと違って複数のディスクを組み合わせた構成になっている。その現物を目の当たりにできるのも、こういうイベントの魅力。

P-1哨戒機のブレーキ・アセンブリ。回転部と固定部が交互に並んでいて、それを右手からまとめてシリンダで押しつける構造が分かる。左手に少し映っている白い物体は、タイヤを組み付けるホイールの部分

減速ギアとベアリング

第20回で取り上げた、プラット&ホイットニー社のギアード・ターボファン。実物ではなく模型をIHIが展示していた。もっとも、実物を持ってきても大きすぎるから、模型のほうがかえって見やすいかもしれない。

ギアード・ターボファンでは、ファンの回転数を落とすために、遊星歯車装置を使った減速ギアボックスをファン付け根の部分に組み込んである。手前にある低圧圧縮機の羽根に邪魔されて見づらいが、その遊星歯車装置が、この模型ではキチンとと再現されていた。

右手に3列並んでいるのは圧縮機のブレード。その左手、ファンの羽根が取り付いているハブの中に遊星歯車機構が収まっている

そのギアード・ターボファンの一員、PW1200Gエンジンで使用しているベアリングを展示していたのがNTN(4年前のJA2012でも見た記憶があるが……)。

ベアリングというのはとても高い精度が求められるもので、「1つのベアリングを地球に見立てた場合、許容される誤差は大仏様ぐらい」というから気が遠くなる。なにしろ、素手で触っただけで、手の脂で精度が狂うというぐらいのものである。

NTNが展示していたPW1200Gエンジンのベアリング。ジェット・エンジンの軸受は高い回転数に耐えられないといけない上に信頼性の要求水準も高いから、高品質のベアリングでなければ使えない

そのベアリングを構成するボールやローラーは金属製が普通だが、NTNはセラミック製も展示していた。手で持って比べてみると、なるほどセラミック製のほうが軽い。

定速制御装置

川崎重工が展示していたのが、エンジンに取り付けた発電機の回転数を一定に保つ定速制御装置「T-IDG」。面白いのは、一般的な油圧装置を使わず、機械的な機構によって回転数を保つようにしていること。展示されていた模型は実際に手でハンドルを回して動かすことができる、なかなか凝ったものだ。

油圧機構を使わない定速駆動装置。それが川崎重工の「T-IDG」。写真には映っていないが、この展示用モデルは右側にハンドルが付いていて、手で回して動かすことができる

客室とラバトリー

三菱航空機はMRJの客室モックアップを展示していた。そんなに数があるわけではないだろうから、同じモックアップがさまざまな展示会を "巡業" しているのだろう。そのモックアップ、客室前半部は上級クラスという想定で1列-2列配置、後半部は下級クラスという想定で2列-2列配置。

従来のリージョナル機よりも大容量化したというオーバーヘッド・ビンに着目したい。また、限られたシートピッチでできるだけ足元を広くとるため、腰掛の背ズリがとても薄く造られている。

MRJの「売り」の1つが、従来のリージョナル機より大きいオーバーヘッド・ビン。高さはあまりないように見えるが、横倒しにして入れるので大丈夫

このモックアップ、後部にギャレーとラバトリーも設けてある。もちろん絶対的に見れば狭いのだが、リージョナル機のラバトリーとしては、できるだけ広くなるように工夫して造られているという。確かに、なまじの大型旅客機のラバトリーよりも奥行きがあるようだ。これには、バリアフリーへの配慮もあるという。

MRJの客室モックアップ最後部に設けられているラバトリー。写真にはあまり映っていないが、左手には意外と広い空間がとられている。もちろん、モックアップだから、ここで用を足してはいけない

面白いのは、ギャレーの設備一式が出入口の区画に面して設けられていること。つまり、独立したギャレーの区画はない。スペースが限られているリージョナル機だから、こうすればスペースの有効活用になる。それに、搭乗・降機は前方の出入口を使うものだから、後方の出入口を別の用途に使っていても、実用上の問題は何もない。非常脱出時に邪魔にならなければよいのだ。

ラバトリーはモックアップ最後部の左側半分を占めており、右側半分にはギャレーの機器が収まっている。下に3台並んでいるカートが飛び出さないように、赤いストッパーが出ている様子がおわかりいただけるだろうか?