舗装道路だけを走っていると気にならないが、非舗装路や軟弱地をクルマで走ると、タイヤが地面にめり込んで動けなくなってしまうことがある。積雪路も同様で、堅く締まった圧雪路面ならまだしも、柔らかい状態では、やはり動けなくなってしまうことがある。履帯がタイヤと比べて有利なのは、接地する面積が広く、その分だけ面積あたりの圧力が減るからだ。
重い機体には相応に強固な路面が必要
その辺の事情は、実は航空機でも変わらない。重い機体を発着させる飛行場では、相応に強固な路面が求められる。その辺の話は以前にも触れた。アスファルト舗装ならすべて同じというわけではなく、軽い機体しか発着させない場合と、大形で重い機体を発着させる場合とでは、滑走路や誘導路や駐機場の舗装構造は違ってくる。
実際、小型で軽い機体しか運用していなかった飛行場で、もっと大きく、重い機体を運用することになり、「滑走路や誘導路や駐機場の舗装を強化する工事が必要になりました」となる話はときどき目にする。
航空自衛隊が、F-104J/DJの後継となる戦闘機の候補選定を実施したとき、F-14やF-15が候補になり、最終的にF-15の採用が決まった。実はこの両者を比較すると、飛行性能や兵装の能力とかいった話とは別に、重量というファクターがある。
F-14Aの離陸重量は25~31t、対してF-15Cの離陸重量は25t前後だから、F-14Aのほうが重いのだ。すると、F-14の採用が決まっていた場合、基地の状況によっては、施設整備だけでなく、舗装の強化工事まで必要になったかもしれない。
もっとも、実際に問題になるのはタイヤ1つあたりの接地圧。機体の重量が同じでも、付いているタイヤの数が多くなれば、タイヤ1つあたりの接地圧は低くなる。だから、不整地運用を想定している軍用輸送機はタイヤがいっぱいついている、という話は以前に書いた通り。
この辺の事情は、鉄道における軸重の問題と似ている。車両の重量が同じでも、軸数が増えれば軸重は減る。そして線路の側で問題になるのは軸重なのだ。
タイヤの種類という問題
さらにややこしいことに、タイヤには空気圧というファクターも絡んでくる。分かりやすい例として、米空軍で使用していた爆撃機がある。
B-58ハスラーという、デルタ翼の超音速爆撃機がある。超音速飛行のために薄いデルタ翼を採用した機体だが、そこに収容する降着装置の構造が変わっていた。直径22in(55.9cm)の小径タイヤ4本を串刺しにした2軸ボギー。つまり、真横から見えるタイヤは2個だが、実はそれぞれが4個ずつ並んでいて、主脚ひとつにつき8個のタイヤがある。
薄い主翼に収容するためにタイヤは小さく、でも接地圧は下げたいので数は増やす、ということで、こんな仕掛けになってしまったのだろう。ところが、速度が同じなら、タイヤの直径が小さくなると回転数が高くなる。着陸の際には、ゼロからいきなり2,800rpmに加速したというから、タイヤにかかる負荷の大きさは推して知るべし。
このタイヤは窒素ガスを充填したチューブレスタイヤで、圧力はなんと240psi(ポンド/平方インチ。10.113kg/cm2相当)。低圧・大直径のタイヤが接地するのと、高圧・小径のタイヤが接地するのと、どちらが滑走路に大きな影響を与えるかといえば、答えは明白だろう。
そのB-58を開発したコンベア社は、後にゼネラル・ダイナミクス社になった後で、F-111アードバークを開発する。こちらは「不整地でも運用できるように」という要求があったため、低圧・大径のタイヤが使われた。
F-111が備えるタイヤの数は、左右の主脚にそれぞれ1つずつで、直径119.4cm、厚さ45.7cm、圧力は115~175psiだからB-58の半分以下だ。大きく、幅広で、(比較の問題だが)柔らかいタイヤを使用することで、不整地でもタイヤがめり込んで動けなくなってしまわないように配慮したわけ。もっとも、実際にF-111を不整地の飛行場から運用した事例はなかったようだが、路面にかかる負担は少ないに越したことはない。
面白いことに、陸上機と艦上機を比較すると、後者のほうがタイヤが高圧になるのが普通だ。F-111も例外ではなく、開発途上でボツになった艦上型のF-111Bだけはタイヤの仕様が違う。すなわち、直径106.7cm、厚さ33cm、圧力は不明だが陸上型よりも高圧になっていたという。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。