航空機、とりわけ民航機のエンジンを手掛けるメーカーにとって、燃費効率の良い(そして結果として、CO2排出も減る)エンジンの開発は終わりのない課題。今回は、アメリカのGEエヴィエーションが手掛けている2件の研究開発プログラムを紹介したい。

GEのハイブリッド実証機開発計画

まず1件目は、ハイブリッド推進システムの実証機開発計画。2021年10月1日に発表があったもので、米航空宇宙局(NASA : National Aeronautics and Space Administration)のEPFD(Electric Powertrain Flight Demonstration)計画による。ハイブリッドだから、ジェット燃料を使用するエンジンと電動システムの組み合わせということになる。投下する費用は2億6,000万ドル。

航空機用のハイブリッド推進システムは、以前に第247回で紹介したように、イギリスのロールス・ロイスも手掛けている。実証機を作るのに、エンジンから新規開発するのは費用も手間もかかりすぎるので、既存のエンジンを利用しているところは、GEとロールス・ロイスの両社に共通する。GEの場合、エンジンはCT7-9Bターボシャフトを、それを搭載する機体はサーブ340Bを利用する。CT7というと馴染みが薄いかも知れないが、軍用ヘリコプターのH-60シリーズやAH-64アパッチ攻撃ヘリが搭載しているT700のことだ。

そこに、電動機とそれを制御するコンバータ、そして発電機を組み合わせて、ハイブリッド推進システムを仕立てた上で、実機による試験を実施するのがEPFD計画。出力はメガワット級を目指すとしている。電動機を活用することでエンジンの負担を減らせば、その分だけCO2排出量を削減できる理屈となる。

実は、NASAは2009年にボーイングと組んで、SUGAR(Subsonic Ultra Green Aircraft Research)という、CO2排出削減のための研究プログラムを走らせていた。また、電動推進システムのコンポーネントを手掛けるため、2013年にオハイオ州デイトンにEPISCenter (Electrical Power Integrated Systems Center)を開設。2015~2016年にかけて、メガワット級の出力を持つハイブリッド推進システムの地上試験も実施している。それに対して今回は、実機に載せて飛行試験まで行うのが相違点。

  • EPFD計画で開発しているハイブリッド推進システムを搭載する航空機のイメージ。今後5年間で、少なくとも2回の飛行試験を行う予定 引用:NASA

GEの高効率コア開発計画

一方、燃料を燃やして推進力を発揮させる従来型のエンジンについても、さらなる効率改善を図る研究開発計画がある。それが、2021年10月に発表したHyTEC(Hybrid Thermally Efficient Core)で、これもNASAの案件。ここでいうコアとは、ジェット・エンジンを構成する中核部分、すなわち「圧縮機~燃焼室~タービン」といった部分のまとまりを指す。

  • NASAによるエンジンの効率改善を図る研究開発計画「HyTEC」のアプローチ 引用:Pratt & Whitney

GEは以前から、フランスのSNECMA(現在はサフラン・エアクラフト・エンジンズ)と組んでCFMインターナショナルを設立、CFM56やLEAPといったエンジンを手掛けてきている。そのCFMインターナショナルでは現在、CFM RISE(Revolutionary Innovation for Sustainable Engines)計画の下、コンパクトなコアの開発を進めている。そして、燃料にはSAF(Suatainable Aviation Fuel)や水素を使用する考え。

GEは以前から、耐熱性に優れたCMC(Ceramic Matrix Composite)素材を手掛けている。タービン・ブレードのような、ホット・セクションで使用する部品の耐熱性能が向上すれば、その分だけタービン入口温度を上げられるので、効率改善につながると期待できる。せっかく燃料を燃やしてエネルギーを作り出しても、部品の耐熱性能の制約から温度を下げなければならないのでは、無駄が生じる。その無駄を減らすためには、耐熱性能の向上が求められるというわけ。

そして、高効率でコンパクトなコアができれば、それをハイブリッド推進システムと組み合わせることもできるし、別口で研究開発が進められているオープン・ファン(ナセルの中でファンを回すのではなく、多数の羽根を持つファンをむき出しで回転させる)との組み合わせも考えられる。

オープン・ファンの再浮上?

もっとも、オープン・ファンの考え方自体は、意外と昔からある。筆者がまだ大学生だった1980年代の半ばにはすでに、この手の話が出てきていた。ただし当時は、プロップファンと呼ぶ場面が多かったと記憶している。当時からGEはこの手のデバイスを研究していて、同社ではUDF(Unducted Fan)と称してGE36エンジンを試作するところまで話が進んでいた。

なぜ一般的なプロペラではいけないのかというと、大径のプロペラを高速回転させると羽根の先端速度が音速を超えてしまうから。そこで、より小径の羽根を多数用意して、かつ、反トルクの影響を避けるために二重反転式にする、という話になる。

1980年代には、一般的な高バイパス・ターボファンの性能が上がったためにオープン・ファンの開発計画は大半が沙汰止みになってしまったが、最近になって再び注目度が上がってきているようである。ただ、多数の羽根がむき出しで回転するとなると、安全対策の面で新たなアプローチが必要になるかもしれない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。