前回は主翼の構造を取り上げたので、今回は胴体の構造を取り上げてみよう。ただし、機体の用途によってかなりの違いがあるので、まずは身近な輸送機の話から始めることにする。
輸送機の胴体は茶筒である
ここでいう輸送機には、軍用輸送機と、いわゆる民航機(旅客機・貨物機の両方)を含む。要は、「大きな筒状の胴体内に人やモノを積む飛行機」である。
登山をする方なら御存じの通り、高度が上がると気圧や気温が下がる。そのままでは人が過ごすには具合が悪いので、機内は温度と圧力を高めて、特別の装備がなくても普通に過ごせる程度の環境を維持している。機内の気圧を高める操作あるいは仕組みのことを与圧という。
ところが、与圧をかけると機体の内外で圧力差が生じて、それに起因する負荷が胴体の構造部にかかってくることになる。そこで、輸送機の動体は円筒形、あるいはそれに近い断面形状にするのが一般的だ。四角い断面形状にすると、角の部分に負荷が集中してしまうから、円筒形にする方が軽さと強度の両立という点から見て有利だ。
胴体の断面形状がどうなっているかは、旅客機に乗ってみれば容易に理解できる。外から見れば胴体断面が円筒形になっているのは一目瞭然だし、機内でも窓側の席に座っていると、側壁が湾曲している様子が分かる。
その胴体の内部構造はどうなっているか。
まず、前後方向に走る骨組み(縦通材)と円周方向に走る骨組み(フレーム)を組み合わせており、その外側に外板をリベット止めした構造である。ただし、リベットが外に突出していると凸凹になって空気抵抗を増やすので、外板の中にリベットの頭を埋め込んだ、いわゆる沈頭鋲を使用するのが普通だ。
つまり、輸送機の胴体は「内側に縦横の骨組みを入れて強度を持たせた、巨大な茶筒」である。鶏卵だと殻だけで強度を維持しており、内側に骨組みはついていないが、飛行機の胴体だと卵の殻のようにはいかないので、骨組みを加えて強度を持たせている。
ただし、茶筒といっても前端部と後端部はそれぞれ絞り込んだ形にしないと空力屋から文句が出るし、そもそも強度を維持していない。そこで、半球ないしはそれに近い形状にして強度を持たせている。ちなみに、1985年の日航ジャンボ機墜落事故で問題になった圧力隔壁とは、この半球形の後端部のことである。実際にはその後ろまで胴体構造は続いているが、圧力隔壁より後ろは与圧の対象になっていない。
旅客機だと内装材が取り付けられているので、胴体の内部構造を見ることはできない。そこで現物を見る機会としてお薦めしたいのが、自衛隊や在日米軍の基地公開。たいてい、何かしらの輸送機が来て一般公開されるが、そのときには機内も見せてくれることが多い。
そして、軍用輸送機の機内は実用本位で、内装パネルはなく断熱材だけだ。だから、胴体を構成する縦通材やフレームがそのまま見える部分がある。
余談だが、この辺の考え方は潜水艦も似ている。前後を半球ないしはそれに近い形にした筒で構成するところは、まるで同じだ。ただし潜水艦の場合、圧力は中からではなく外からかかる。
胴体の断面形状いろいろ
強度を持たせることを考えると、胴体の断面形状は真円にするのが一番いい。そして、大きくなるほど強度面の要求が厳しくなるから、必要なスペースを確保しつつも、最小限の直径で済ませたい。
しかし、輸送機として使うことを考えると機内スペースの確保という課題もついて回る。少なくとも、機内で人が立って歩ける程度の高さはないと困るから、これで高さの最小値は決まってしまう。
これが問題になるのは、どちらかというと小型の機体ではないかと思われる。大型機なら必然的に直径が大きくなるから、機内で人が立てるぐらいの高さは確保できる。例えば、ボーイング747の胴体外径は6.49メートル、エアバスA330/340の胴体外径は5.64メートルもある。
しかし、機体を小型にまとめるために直径を小さくして、かつ真円にすると、幅もさることながら、高さが足りなくなってくる。だから、縦長の楕円形胴体断面にする機体も結構ある。三菱MRJがこれだ。小型の単通路機になると、この手の胴体断面が増えてくる。
また、ボーイング707みたいに上半分と下半分で異なるサイズの円筒形にして、両者をつなぐこともある。境界部分に角ができるので強度の面では不利だが、過度に大きくしないで、かつ所要のスペースは確保する、という観点から導き出された手法。
ボーイング747の前半部やエアバスA380みたいに客室を2層構造にすると、真円では大きくなりすぎるので、こちらも楕円形あるいは2つの円筒を組み合わせた構造になる。この場合にはもちろん、上のほうが小さい断面になる。
ちなみに、規模が異なる複数の機種をラインアップしているメーカーでは、胴体の断面を共通化することがある。例えば、ボーイングの707/727/737、エアバスのA300/A330/A340が、そういう関係に当たる。
機体構造の寿命とサイクル数
前述した与圧の関係で、機体が上昇して周囲の気圧が下がると、胴体には内側から外側に向かう圧力がかかるので、いくらか膨張する。機体が下降すると逆になる。つまり、1回のフライトごとに「延び」と「縮み」の変化が1回ずつかかることになる。
だから、フライトを多く繰り返した機体は、それだけ胴体の構造材が傷んでいることになる。そこで注意しないといけないのは、製造から経過した年数とフライトの回数が必ずしも一致しないことだ。
例えば、長距離国際線の機材では、胴体の伸縮は1日1~2回程度で済む。しかし、短距離国内線やLCCの機材は1日に何フライトもするから、胴体の伸縮は1日に何回も発生する。もちろん後者のほうが、胴体の構造材にかかる負荷は増えるし、金属疲労が起きやすい。針金を手でポキポキと曲げたり伸ばしたりしていると、そのうちポキンと折れてしまうが、それと似ている。
だから、ボーイング747には「-100SR」という日本国内線専用モデルがあった。通常の「-100」よりも機体構造や降着装置を強化して、頻繁な離着陸に起因する負荷繰り返しの増大に耐えられるようにしたモデルである。