筆者は早寝してしまったので見なかったのだが、東京五輪の開会式で、多数の小型無人機(いわゆるドローン)を使った出し物があったと聞いた。無人機には、こうした「善用」が可能な一方で、「悪用」が可能な一面もある。例えば、爆発物、有毒物質、放射性物質といったものを積み込んで、ターゲットに向けて突っ込ませるような使い方だ。

  • 東京五輪のドローンを使った出し物はインテルの協力によって行われた。上の写真は、インテルのドローンを活用した米空軍士官学校でのプライベートパフォーマンスの様子 写真:米インテル

C-UASの手段いろいろ

もともと、小型無人機はサイズが小さい上に速度が遅いので、レーダーによる探知が難しいな難点がある。しかも、それが1機あるいは数機だけならまだしも、数が増えてくると対処が大変だ。そこでどのように撃退するかということで、さまざまなアイデアが試されている。

そこで、「航空機のメカニズム」という観点から、C-UASについて考えてみる。

真っ先に思いつくのは「物理的な破壊」で、ミサイル、機関砲、レーザーといった手段が考えられる。レーザーなら、電源の供給が続く限り「弾切れ」の心配はないが、ミサイルや機関砲だとそうは行かない。すると、相手の数が多くなってきたときの対処手段としては不安が残る。それに、ミサイルは値段が高い。

もうちょっとエレガントな(?)方法として、無人機に組み込まれている電子機器を高出力のマイクロ波で物理的に破壊してしまう方法もある。

ただ、撃墜でも電子機器の破壊でも、交戦した後に、無人機がどういう動きをするかが読めない。街中でやったら、人が歩いているところに頭上から無人機が降ってくるかも知れない。それでは付随的被害の元である。

もっと大人しいところで、「とにかく無力化できれば良い」という考え方もある。分かりやすい事例としては、電波妨害がある。遠隔操作で飛んでいる機体なら、必ずオペレーターと機体の間で無線通信が行われているはずだから、それを妨害する。一定の範囲をカバーするように妨害電波を出せば、その範囲内にいる複数の機体をまとめて始末できるのは、この方法の利点。

そして無線通信の妨害により、少なくともオペレーターの意のままに機体を操ることはできなくなる。「無線通信が使えなくなったら、とにかくその場に着陸する」という挙動をとる機体なら、普通に降着してくれるから、制御不能になって降ってくるよりは怪我人を出さないだろう。

しかし、自律飛行している機体が相手になると、通信妨害は効果がない。自律飛行する場合、GPS(Global Positioning System)をはじめとするGNSS(Global Navigation Satellite System)で自機の位置を知り、事前にプログラムされた場所、あるいはその場の判断で決定した場所に向けて機体を飛ばす。それなら、GNSSによる測位を妨害すれば、機体は迷子になってしまうと期待できる。

ただし、世の中の至るところでGNSSが使われているから、迂闊に妨害を仕掛けると付随的被害が大きい。たとえば、妨害装置の近所にあるスマートフォンやカーナビの位置情報は、みんな狂ってしまう。また、迷子になった機体の挙動が読めなくなる、というリスクも考えられる。

このように、対処方法はいろいろあるのだが、どれも一長一短。手駒をいろいろ用意しておいて、市街地か郊外か、相手の機体はどんな仕組みで動いているか、といったデータに基づいて、最適な方法を選択するしかないかもしれない。

ただしもうひとつの問題がある。たとえば、マイクロ波送信装置や妨害装置を地上に据え付けていたのでは、カバーできる範囲が限られてしまう。重要施設を護れば良いということならそれでも問題ないが、もっと機動的な対処が必要になることもあるのでは?

無人機で無人機を撃退する

といったところで、レイセオン・テクノロジーズ傘下のレイセオン・ミサイル&ディフェンスが7月21日に出したリリースに話が行き着く。同社は以前から、コヨーテというチューブ発射型の無人機を手掛けているが、それの最新型、コヨーテ・ブロック3に、C-UASの機能を組み込んで実証試験を実施したという内容だ。

  • 米国空軍基地で、コヨーテを手にするコヨーテのチーフサイエンティストであるJoe Cione博士 写真:米国海洋大気庁

場所はアリゾナ州のユマ実験場で、サイズや機能に違いがある10機の小型無人機を相手に、”non-kinetic” な対処手段を組み込んだコヨーテ・ブロック3を飛ばして、撃退に成功したというのが発表の概要。

“non-kinetic” というからには、物理的な破壊を行う手段ではない。具体的な内容は公にされていないようだが、電波妨害装置か高出力マイクロ波の、いずれかであろう。キモは、それを無人機に積み込んで飛ばしたことで、これにより機動的な展開が可能になる。また、コヨーテ・ブロック3は回収・再利用が可能だから、使い捨てと比べると機体の経費は安上がりになる。

ただし「航空機のメカニズム」という観点からすると、課題も見えてくる。妨害装置を積み込むのはいいとして、それを作動させるため電源の容量や持続時間は大丈夫だろうか。すると、多数の機体を用意して交代で飛ばすしかないかも知れない。「無人機の群れを撃退するために無人機の群れを飛ばす」という、矛盾の故事を地でいくような話になりかねない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。