前回、「降着装置はできるだけ、自然落下を妨げない向きに振り上げて収納する」と書いた。この基本原則に間違いはないのだが、取り付け位置と脚収納室を確保できる場所の位置関係をはじめとするさまざまな理由から、原則から外れる場面も出てくる。そして、畳む向きも構造もさまざまなバリエーションができる。これがメカ好きを楽しませてくれるところでもある。

ひねって畳む

民航機の降着装置は大抵の場合、どの向きであれ、脚柱の付け根に取り付けられたヒンジを使って振り上げて収納するだけ、というシンプルな形態だ。ところが軍用機、とりわけ戦闘機では、シンプルに振り上げるだけでは済まないことが往々にしてある。

例えば、F-16。この機体は胴体下面にエンジン用の空気取り入れ口があり、その後方に首脚が付いている。当然、首脚収納室の上には空気取り入れ口からエンジンに伸びるダクトが走っているから、そこに漫然と首脚収納室を設けたら、ダクトの中に首脚収納室がボコンと突出してしまう。

そこでF-16の首脚は、90度ひねって車輪を横に寝かせた状態にして収納するようになっている。こうすると首脚収納室の幅は増えるが、シングルタイヤだから幅は狭く、高さは抑えられる。よって、空気取り入れ口からエンジンに伸びるダクトへの食い込みは抑えられる。

米空軍のアクロバットチーム「サンダーバーズ」のF-16が離陸したところ。エンジン排気でカゲロウになっていて見づらいが、右端の2番機を見ると首脚が横向きにひねられている様子が分かる。他の機体と見比べてみよう Photo:DoD

ちなみに主脚は、胴体の左右それぞれ斜め下に取り付いており、付け根の耳金も斜めに取り付けてある。だから、真上ではなく斜め上に向けて振り上げられて、無事に胴体内に納まるようになっている。

伸びてひねって畳む

面白いのがF/A-18ホーネットの一族で使っている主脚。地上にいるときはこんな状態である。

F/A-18Eスーパーホーネットの主脚。脚柱の途中にヒンジを設けて曲げている

別の場面だが、ホーネットの主脚を裏側から見た様子。これだと構造がわかりやすい

一般的な降着装置のイメージと違うのは、頑丈な脚柱の途中にヒンジが付いていて、下半分が後方に曲がった状態になること。そして、ヒンジを挟んで上半分と下半分を結ぶ形でショックアブソーバーが付いている。

これは、空母にドカンと着艦する時にかかる負荷に耐えられるように、高い衝撃吸収能力を持たせたため。脚柱を途中から曲げて独立したショックアブソーバーを設けることで、ストロークを長くとれるようにしている。

だから、機体が空中に浮いている時、あるいは設置した瞬間だと、まだ脚柱は伸びた状態になっている。下の写真はEA-18Gグラウラー電子戦機だが、機体の部分はF/A-18Fスーパーホーネットと同じで、降着装置も同じだ。

着艦する直前のEA-18Gグラウラー。まだ脚柱が伸びた状態になっている Photo:US Navy

上の写真のすぐ後に、機体が飛行甲板にドカンとたたき付けられて、それとともに脚柱が曲がり、ショックアブソーバーが衝撃を吸収する仕組みになっている。

なお、空中に浮かび上がって荷重が抜けると主脚は下にだらんと伸びるが、その状態で90度ひねって後方に振り上げて収容するようになっている。だから、先に示した地上での写真を見ると、左側(後方)に主脚収容室扉が付いている。

ボギーだけ角度を変える

戦闘機だと、1つの脚柱に取り付くタイヤの数は1個か2個ということがほとんどだ。民航機でも小型の機体だと同様である。しかし、1つのタイヤで支えられる重量には限りがあるから、機体が大型になると、1つの脚柱に取り付くタイヤの数はもっと増える。

大型の民航機だと、首脚はダブル、主脚は2軸ボギーにしてそれぞれにダブル(つまり4輪)という形態が多い。ところがボーイング747の場合、その2軸4輪ボギーの主脚が主翼と胴体から2本ずつ生えていて、主脚は4本脚である。

そして、地上を走っている時にスムーズに旋回できるように、胴体側の主脚は主翼側の主脚よりも少し後ろにずれて付いている。では、この4本脚をどう収容するか。

まず胴体の主脚だが、これは単純に前方に振り上げて収容する。だから収納室の高さは必要だが、幅はそれほどでもない。そして、その胴体側主脚収納室の前方に、内側振り上げ式になっている主翼側主脚の収納室が陣取る。

実は、漫然と主翼側の主脚を内側に振り上げて収容すると、胴体側主脚収容室と重なってしまう。そこで主翼側の主脚に取り付けられたボギーは、脚柱との結合部にシャフトを入れて、角度を変えられるようになっている。

空中に浮いている状態では、主翼側主脚の4輪ボギーは前上がりになっていて、その角度は53度だ。着陸して機体重量がかかると、前上がりの状態は解消する。こうすることで、主脚収納室の前後方向の幅を縮めることができる。その分だけ幅は広がるが、胴体側主脚の収容室は内側ではなく後ろ側に隣接しているから、干渉しない。

着陸進入中のボーイング747。主翼側の主脚を見ると、4輪ボギーが前上がりになっている様子がわかる

エアバスA380も4本脚だが、こちらは主翼側の主脚が2軸の4輪ボギーなのに対して、胴体側主脚は3軸の6輪ボギーだ。やはり胴体側主脚の方が少し後ろにずれて付いている。747と違うのは、そのボギーが空中にいるとき、前のめりになっていることだ。もちろん、着陸して機体重量がかかると、前のめりの状態は解消する。

ちなみに、3軸6輪ボギーの主脚はボーイング777でも使っている。これが777と767を見分けるポイントの1つ。重い脚柱の数を増やさずに、タイヤだけ増やしたわけだ。

タイヤを3列に並べているのが、C-17AグローブマスターIII。軍用輸送機の常で胴体両側面に主脚収納用のバルジを張り出させているから、幅が広くなるのはあまり問題にならない。むしろ、長さを抑えたかったということだろう。大きな機体重量を支えるために主脚が四本脚になっているが、高翼だから主翼に脚柱を取り付けることはできない。すると胴体両側面のバルジに4本の主脚を取り付ける必要があるので、長さが増えては困る。

3列にタイヤが並んだC-17Aの主脚。写真の上の方を見ると分かるが、降ろした降着装置の上端が胴体側面にはみ出しているのも珍しい Photo:DoD

C-17を下から見たところ。胴体両側面のバルジに四本脚が取り付いている様子が明瞭に分かる Photo:USAF