前回は、航空機の機体表面にいろいろと突出している「ひっつきもの」のうち、最もメジャーな存在である、アンテナ(空中線)がらみのものを取り上げた。今回は、光学機器など、アンテナ以外のものを取り上げてみる。

F-35の機首下面にはEOTS

民間機ではあまり縁のないデバイスだが、軍用機だと電子光学センサーを機内に組み込んでいることがある。

その一例が、F-35が機首下面に備えているAN/AAQ-40 EOTS (Electro-Optical Targeting System)。普通はポッド式にして胴体あるいは主翼の下面にぶら下げているターゲティング・ポッドの機能を、F-35は内蔵している。

電子光学センサーの機能を妨げてはいけないので、EOTSのフェアリングは透明素材の光学窓を使用している。機内に完全に収めてしまえばフェアリングが突出することはないが、それでは視界が妨げられるので突出せざるを得ない。しかし一方で、空気抵抗とレーダー電波反射は抑制しなければならないので、それに配慮した楔形の形状になっている。曲面ではなく平面の組み合わせになっているのは、レーダー電波の反射方向を限定するため。

  • F-35の機首を側面から見ると、下面に付いているEOTSのフェアリングが明瞭にわかる

EOTSは電子光学/赤外線センサーの機能とレーザー目標指示機の機能を一体化したデバイスだが、赤外線センサーを単体で組み込んでいる事例もある。ロシアのSu-27一族が有名だが、サーブJAS39Eグリペンも搭載可能だ。前方向きに半球型の光学窓があり、その中にセンサーが収まっている。

  • グリペンEのコックピット直前には、赤外線センサーのフェアリングが突出する。余談だが、左のほうのカナード(先尾翼)直前に付いている「ひっつきもの」は、レーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)のアンテナと思われる

この手の「ひっつきもの」は、アンテナ・フェアリングと比べるとサイズが大きくなる傾向があるので、空気抵抗を少なくするための配慮は欠かせない。

「ひっつきもの」が多い機体、少ない機体

軍用機は民間機と比べると、さまざまなセンサー機器や通信機器を備えている分だけ「ひっつきもの」の数が増える傾向にある。

特に、センサー機材が任務の生命線となる哨戒機、それと生残性を高めるためにセンサー機器や電子戦装備を充実させる必要がある特殊作戦機は、「ひっつきもの」だらけとなる。スマートさとは縁遠いが、その武骨さもまた魅力のひとつだ。

  • スウェーデン軍のNH90哨戒型。機体の表面は「ひっつきもの」だらけだ。電子光学センサーを機首下面に配置しているから上方視界は良くなさそうだが、海面の監視がメインなら、これでよいのだろう

  • 米空軍のHH-60G救難ヘリコプターは敵地に乗り込んで搭乗員を救出する前提なので、自衛装備が充実している。ミサイル避けの囮を射出するためのディスペンサーは、なんと機体表面に直付けだ

ステルス機にはRCSエンハンサー

EOTSは当初から機体の設計に織り込まれているデバイスだから、当然、ステルス性を妨げないような設計になっているはずだ。ところが、意図的にステルス性を妨げる「ひっつきもの」も存在する。

それが、いわゆるRCSエンハンサー(レーダー・リフレクターと呼ぶこともある)。その名の通り、わざとレーダー反射断面積(RCS : Radar Cross Section)を増やすもの。これを機体外部に装着することで、ステルス機でもレーダーに大きく映るようになる。

こうすると、本来のステルス性を秘匿する役に立つ。第一、他の機体と同じ空域を飛行している時は、ちゃんとレーダーに映ってくれないと危険だ。ニアミスあるいは空中接触の危険性につながるからだ。

分かりやすいのはF-35で、後部胴体の上面と下面にふたつずつ、俵型(?)のRCSエンハンサーを取り付ける設計になっている。外見から見る限り、ボルトで固定しているように見えるが、専用の止め金具かも知れない。一般人の目の前で飛んでいるF-35なら例外なく、これを装着しているはずだ。

  • F-35の垂直尾翼直前の胴体背面に2個、突出しているのがRCSエンハンサー。下面にも同じものがある

空の上ではなくて海の上の話だが、似たような話があった。スウェーデン海軍のステルス・コルベット、ヴィズビュー級がフランスの近海を航行していたときのことだ。規定通り、船舶自動識別システム(AIS : Automatic Identification System)のスイッチをオンにしていたので、AISの画面を見ると艦の存在が分かる。

ところがこのフネはステルス設計だから、レーダーで捜索しても明瞭に現れない。つまり「レーダーに映っていないフネがAISの画面上に存在する」という珍事が起こり、フランス当局が近隣にいるフネに注意喚起する羽目になったのだという。

そんな経験があったので、ヴィズビュー級は円筒形のRCSエンハンサーを用意して、ステルス性が求められない場面で装着するようにしたそうだ。スウェーデン海軍の方に直に聞いた話である。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。