ここまでは集中的に「吊るしもの」の話を取り上げてきた。それが一段落したところで、「ひっつきもの」の話に移ろう。平滑、スマートであってほしい機体の表面にいろいろと突出している、凸凹の話である。これはもちろん、しかるべき理由・事情があって存在しているものだ。
なぜ「ひっつきもの」が出現するのか
実は、「ひっつきもの」の大半はアンテナ(空中線)を覆うものである。アンテナは電磁波の送受信を行うために、外部に面していなければならない。
無指向性のアンテナならブレード・アンテナにする方法があり、実際、VHFやUHFの無線機で使用するアンテナはブレード・アンテナを立てることがほとんどだ。しかし、指向性のアンテナになると事情が違ってくる。
その典型例が、第63回でも取り上げた、機内インターネット接続サービス用の衛星通信アンテナ。使用する通信衛星が赤道上・高度は約36,000kmの軌道上にいる静止衛星で、しかも使用するビームの幅は狭い。だから、機体がどこにいて、どちらを向いていても通信衛星に向けて指向し続けられるように、可動式のリフレクター・アンテナを用意する必要がある。
そんなアンテナが外部に露出していたのでは空気抵抗を増やすもとだし、アンテナが気流や天候などの影響で損傷すると具合が悪い。そこで、可動式のアンテナにぶつからないようにフェアリングを被せると、必然的に外部に突出した「ひっつきもの」ができる。
もちろん、突出物があれば空気抵抗の源になるが、可能な限り空気抵抗は抑えたいので、フェアリングは流線型にする必要がある。しかし実機を見ると意外と角張った形のフェアリングが突出していることも、ままある。
機体が比較的小型で、そこに衛星通信用のアンテナを格納してフェアリングを被せると、第249回~250回で取り上げたシーガーディアン無人機のような形になる。こうなると、もはや「ひっつきもの」ではなく、形状の面では機体の一部になっているが、フェアリングは強度を受け持つ機体構造部材ではない。
通信用のアンテナというと、F-35が備えているデータリンク、MADL(Multifunction Advanced Data Link)のアンテナもある。ただしこれは、ステルス性の見地から機体の表面に埋め込まれているので、「ひっつきもの」といえるかどうかは微妙。分かりやすい設置場所としては、機首のキャノピー直前が挙げられる。
アンテナ関連の「ひっつきもの」は多種多様
通信以外の分野でも、アンテナ関連の「ひっつきもの」が出現することがある。その一例がGPS(Global Positioning System)みたいなGNSS(Global Navigation Satellite System)の受信用アンテナ。これも頭上の周回軌道を回っている衛星からの電波を受けなければならないので、必然的に機体の上面に取り付くことになる。
もうひとつ、アンテナ関連のひっつきものというと、敵味方識別装置(IFF : Identification Friend-or-Foe)のアンテナが外部に突出することがある。IFFのアンテナはレーダーのアンテナとワンセットにすることが多いデバイスだが、何事にも例外はあるものだ。
よくあるのは4枚のブレード・アンテナを横に並べたタイプで、これは我が国のF-2戦闘機も装備している。外国まで行かなくても見られるのは助かる(何が?)。ちなみにF-2では、このIFFのアンテナ、それと背面のブレード・アンテナが灰色になっているのでよく目立つ。
そのF-2のうち単座型のF-2Aでは、空気取入口の左右や下面などに黒い小さなアンテナ・フェアリングが見て取れる。これはレーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)など、自衛用電子戦装置に関連するアンテナ群。複座のF-2Bには付いていないものだ。こんなところで、F-2AとF-2Bの機能的な差異が分かる。
第2次世界大戦の頃の爆撃機だと、航法士が六分儀を使って天測を行い、機位を出すために、天測用の透明ドームを備えている事例がけっこうあった。同じ航法用だから、機体背面に取り付いたGPSアンテナは、天測用ドームの現代版といえるだろうか。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。