前回に引き続き今回も、航空機における「画像情報の活用事例」を取り上げる。ただし今回の対象は機体そのものではなく、付帯設備に属する分野の話。お題は「空中給油」である。

フライング・ブームとブーマー

本連載の第89回で空中給油について取り上げたが、そこでも述べたとおり、空中給油の手段には「フライング・ブーム方式」と「プローブ&ドローグ方式」の2種類がある。「プローブ&ドローグ方式」の場合、給油機は後方にドローグホースを繰り出して、後はまっすぐ飛ぶだけである。そこに受油プローブを接続するのは、給油を受ける側の機体(レシーバーという)の仕事だ。

それに対して「フライング・ブーム方式」では、逆にレシーバーは給油機の後下方につけて、給油機と同じ速力・針路を維持することに専念する。そこで給油機のブーム・オペレーター(ブーマー)が、フライング・ブームを操り、レシーバーの機体背面に取り付けてある受油リセプタクルに、ブームの先端を突っ込む仕組み。

昔の給油機では、ブーマー席は給油ブームとともに尾部に設けてあり、レシーバーとブームの両方を目視しながらブームを操作していた。

  • KC-10エクステンダー給油機の尾部下面にあるブーマー席の窓。右上に見える張り出しが、フライング・ブームの付け根 撮影:井上孝司

    KC-10エクステンダー給油機の尾部下面にあるブーマー席の窓。右上に見える張り出しが、フライング・ブームの付け根

  • ブーマー席からの眺め。B-1Bの機首上面にある空中受油リセプタクルにブームを突っ込んでいる様子がわかる 写真 : USAF

    ブーマー席からの眺め。B-1Bの機首上面にある空中受油リセプタクルにブームを突っ込んでいる様子がわかる 写真 : USAF

ところが最近の給油機では、ブーマー席をコックピットの直後に移し、生映像ではなく、尾部に設けたカメラからの映像を見ながらブームを操るタイプが主流になっている。ボーイングのKC-767やKC-46A、エアバスのA330-200MRTTがそれだ。距離感がつかめないと仕事にならないので、ステレオカメラを使って立体的に見えるようにしている。

ところが、これを自動的にやろうと考えたのがエアバスである。

フライング・ブームを操るエアバスのA3R計画

計画名称はA3R(Automatic Air-to-Air Refuelling)。ステレオカメラの立体映像があれば、ブーム操作を自動化できるのではないかというわけだ。これがうまく機能すれば、筆者がKC-46Aのブーム・オペレーター向けシミュレータでやってしまったような「給油ブームでレシーバーの背中をガリガリひっかく」という事態は避けられる。

これは現在進行形の案件で、初めてA3Rという名前が出てきたのは2017年のこと。ステレオカメラからの映像を画像処理システムに送り込み、レシーバーと空中受油リセプタクルの位置を認識した上で、適切な位置に来るように給油ブームを操ろうというわけだ。しかもその際に、レシーバーとなる機体には何の改造も必要としない。

まず、2018年6月20日にスペイン南岸上空で実施した2時間の飛行試験で、7回のコンタクト(ブームをリセプタクルに接続する操作のこと)を実施した。ただしこのときには、まだ完全自動というわけではなかった。翌月にはオーストラリアでも試験を実施していた。

完全自動コンタクトを実現したのは、2020年4月に大西洋上で、ポルトガル空軍のF-16をレシーバーとして実施した試験のとき。この試験を実施するまでに、45回の飛行試験で120回のドライ・コンタクト(接続はするが給油はしない)を実施していた。

このA3Rはすでに、シンガポール空軍向けのA330-200MRTTで導入を決めており、2021年から実用化に向けた認証試験を始めることになっている。現時点で具体的な発表は出てきていないが、COVID-19の影響だろうか。

プローブ&ドローグ方式は?

一方、プローブ&ドローグ方式で自動空中給油を目指した事例もある。それが米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)のAARD(Autonomous Airborne Refueling Demonstration)計画で、2007年8月にプログラムを完了した。

先にも述べたように、プローブ&ドローグ方式ではレシーバーが自らプローブをドローグにコンタクトしないといけないので、レシーバーに何の改造も要らない、というわけにはいかない。そこで、GPS(Global Positioning System)と慣性航法システム(INS : Inertial Navigation System)による三次元測位、それと画像情報処理の組み合わせを用いた。

AARD計画では、2006年8月に米航空宇宙局(NASA : National Aeronautics and Space Administration)所有のF/A-18をレシーバーとして、707-300給油機との組み合わせで実証試験を実施、さらに10回の試験飛行を実施した。もっともチャレンジングだったのは、有人給油でも限界とされている、ドローグホースが5ft(1.5m)も揺れ動く状況下でのテストだったという。

AARDのデモを撮影した動画をシエラネバダ社が公開していたので、紹介しよう。レシーバーとなって後方から接近しているF/A-18の操縦士が、手放ししてバンザイ状態になっている様子がおわかりいただけるだろうか。

Autonomous Aerial Refueling Demonstration

この技術を確立できれば、理屈の上では無人機がレシーバーになることもできる。また、フライング・ブーム方式を使用していない国や機体は多いから、潜在需要は意外と多そうだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。