第257回で、C-130輸送機を母機として、そこから無人機を空中発進・空中回収する「グレムリン」計画を紹介した。そこで、今回はその「グレムリン」計画と似た案件を紹介したい。
その名はスパローホーク
担当しているメーカーは、すでに本連載では何度も名前が出てきているのでおなじみの、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)。そのGA-ASIが2020年9月25日に、「スパローホーク」というプログラムに関するプレスリリースを出した。
これは「2020年9月16~17日にかけて、スパローホークの拘束飛行試験を実施した」という内容。プレデターBの翼下兵装パイロンに別の無人機を搭載して、それを空中発進させることを目指したプログラムだ。
拘束飛行試験とは、ミサイルをはじめとする航空機搭載兵装の開発ではおなじみのプロセスで、切り離しは行わず、母機に搭載した状態で飛ばしてみるというもの。母機の下に「吊るしもの」が加われば、重量配分、空力特性、荷重条件に変化が生じるから、それによって母機の飛行に悪い影響が生じないことを確認する必要がある。特に振動の発生は怖い。
そこで最初に、問題なく飛行できるかどうかを確認する試験を実施する。風洞試験で検証を実施した後に、実機を用いて、吊るしものを実際に吊るした状態で飛ばしてみる。それが拘束飛行試験である。兵装の投下や無人機の切り離しといった話は、拘束飛行試験で問題が生じないことを確認した後の話となる。
スパローホークに関する、2020年9月25日のプレスリリースとともにリリースされた写真を見ると、母機となるプレデターBが持つ翼下パイロンのうち、右舷の内舷側パイロンにスパローホークを吊るしている。
プレデターBのペイロードは1,700kgあるが、1,700kgのものを吊るせるわけではなく、パイロンごとに決まっている上限の範囲内に収まっていなければならない。プレデターBから派生したMQ-9リーパーの内舷側パイロンは、普段ならGBU-12/B誘導爆弾(重量279kg)を吊るしている場所。すると、スパローホークはGBU-12/Bと同等ないしはそれより軽いはずだ。
スパローホークとはどんな機体?
スパローホークは、角形に近い断面形状を持つ胴体の後部にV尾翼を、胴体下面に主翼を取り付けている。ただし胴体下面の主翼は回転式で、MQ-9の翼下パイロンに吊した状態では、幅をとらないように回転させて、首尾線方向に向けてある。空中発進させるときに、これを回転・展開させてから切り離すということであろうか。
スパローホークの動力源は小型のジェット・エンジン。空気取入口は、機首から少し下がったところの胴体下部側面に、それぞれ三角断面で張り出している。写真では右側しか見えないが、左右非対称ということはないだろう。
こんな「親亀子亀」みたいな構想が出てきた背景には、大型の無人機を上空にとどまらせて、そこから発進させる小型無人機を使ってリーチを拡げたり、危険な場所に突っ込ませたりするという考えがある。「そもそも、撃ち落されても諦めがつくのが無人機ではなかったのか?」とツッコミを入れたくなるのだが、高価で高機能な無人機が出てくると、そうもいっていられないようだ。
なお、「子亀」無人機の管制にはGA-ASIのMetisSoftware Defined Control Stationというソフトウェアを使い、これをラップトップPCで実行する。大がかりな地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)が要らないので、支援面の負担が減るとの触れ込みだ。といってももちろん、母機となるプレデターBを管制するためのGCSは必要になる。
実証試験で使用したArea-IのAltius-600
なお、これより先に、スパローホークに関連する技術実証試験が行われている。
母機となる「親亀」無人機には、MQ-1プレデターの米陸軍向け派生型であるMQ-1Cグレイ・イーグルを使用した。そして、そこから発進させる「子亀」無人機には、Area-I製のAltius-600 ALE(Air Launched Effects)を2機使用した。この試験は、発進・回収と、その際に使用する制御システムの検証が目的ということだろう。
Area-Iは2009年に発足した航空宇宙分野の新興企業で、Altius-600は同社が手掛ける小型無人機だ。全長40in(1.016m)、全幅100in(2.54m)、胴体径6in(152.4mm)、総重量27lb(12.26kg)、ペイロード6lb(2.72kg)。航続時間は4時間あまり、航続距離は440km、巡航速度60kt(111km/h)、最高速度90kt(167km/h)。
Altius-600は展開式の主翼とV尾翼を備えていて、専用の発射筒から撃ち出すことができる。そして、ヘリコプター、固定翼機、地上のいずれからでも発射できるとのことだ。
Altius-600は、名称に「effect」とあり、ペイロードのリストにも「kinetic」 との記述がある。このことからすると、情報収集や偵察、電子戦といった用途に加えて、自爆突入型UAVのような用途も想定している可能性がある。そういう用途だから当然、小型・軽量・安価・シンプルに作られているはずで、それが実験台になった理由ではないだろうか。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。