エアバス・ディフェンス・アンド・スペースが2月1日に、NTTドコモならびにノキアとの間で、太陽電池駆動の無人機「ゼファー」を用いた5G/6G携帯通信向け運用の技術研究に関する覚書を締結した、と発表した。そこで今回は、その太陽電池駆動の無人機を取り上げてみたい。

長く開発と試験が続いているゼファー

まず、エアバスのゼファーから。今はエアバスが扱っている機体だが、もともとはイギリスのキネティック(QinetiQ plc)が手掛けていた。それを2014年にエアバス・ディフェンス&スペースが引き取って現在に至る。

基本的な考え方は、主翼の上面に太陽電池パネルを取り付けて、そこから得られた電力を使ってモーターを回し、プロペラで推進するというものだ。

最初に登場した機体は、翼幅18m、重量30kg。太陽電池駆動システム全体は、United Solar Ovonicという会社が手掛けた。主翼に取り付けたアモルファス・シリコン・アレイ太陽電池からの電力を使い、モーターを回す。しかし夜間は太陽電池から電力を得られないので、昼間のうちにシリコンパワー製のLi-Ion蓄電池に充電しておく仕組み。

機体全体の重量が子供の体重ぐらいしかなく、それを機体構造と太陽電池と蓄電池で分け合うのだから、ペイロードに回せる分はごくごくわずかで、2.5kgしかなかった。機体構造は炭素繊維複合材を使用している。

これが2007年9月に、アメリカのホワイトサンズで連続滞空54時間の非公認記録を達成した。この時、高度58,355ft(17,787m)まで上昇している。続いて2008年に記録を82時間37分に延ばしたが、これも非公認。

これで「いけるのではないか」と判断したようで、次に大型化したゼファー7が登場した。翼幅を18mから22mに、重量を116.8lb(53kg)に増加させており、プロペラやバッテリ、電力管制システムも改良した機体だ。ただしペイロードはほとんど変わっていない。

これがアリゾナ州のユマで、2010年7月9日から2週間にわたって飛び続けて、連続滞空記録を更新した。このときには国際航空連盟(FAI : Federation Aeronautique Internationale)の担当者が立ち会っており、FAI公認記録となった。その内容は以下の通り。

  • UAVの連続飛行時間記録 : 336時間22分
  • ~500kgカテゴリー(U/1.c)のUAVによる連続飛行時間記録 : 336時間22分
  • 50~500kgカテゴリー(U/1.c)のUAVによる高度記録 : 70,740ft (21,561m)

ちなみに、これの前の長時間滞空記録はRQ-4グローバルホークが記録した30時間24分だから、いきなり11倍になった計算。

ゼファー7はその後、2014年に南半球の某所で、新しい衛星通信リンク経由の管制システムを搭載して、寒冷地環境下で11日間のノンストップ飛行を実施した。また、同じ年にアラブ首長国連邦(UAE : United Arab Emirates)のドバイでも飛行試験を実施、高度61,696ft(18,805m)に到達した。

何に使うつもりなの?

さて。確かに長時間飛行ができることは立証されたが、ペイロードはそんなに大きくない。その機体を何に使うつもりなのか。そこで出てくるのが、イギリスのHAPS(High Altitude Pseudo-Satellite)計画。直訳すると「高高度を飛行する衛星モドキ」である。

人工衛星は開発・製作・打ち上げのいずれにも費用がかかる。太陽電池駆動のUAVなら、ずっと安いコストで高高度の長時間滞空が可能であり、ペイロードが小さくても通信中継ぐらいならできるのではないかというわけだ。

そこで2015年9月に、英国防省が改良型のゼファー8を、1,060万ポンド(1,520万ドル)で2機調達することになった(翌年に1機を追加)。ゼファー8(後にゼファーSと改称)の運用高度は65,000ft(19,812m)、数ヶ月間の連続滞空が可能で、ゼファー7と比べて30%の軽量化を実現するとしていた。

このゼファーSは、2018年7月にアメリカのアリゾナ州で実施した飛行試験で、25日23時間57分という連続飛行記録を作った。さらに2016年には、翼幅を33mに拡大してペイロードも20kgに増やした改良型、ゼファーTの飛行試験がスタートした。Tはツインテール(双尾翼)の意。ツインテールといっても髪型の話ではない。

このように飛行時間記録を達成しながら徐々に概念実証を進めている段階で、2018年には西オーストラリアに飛行試験の拠点を開設した。今後はここで、異なる複数のカスタマーと組んで、さまざまな飛行試験を実施していく計画だという。西オーストラリアにしたのは、広大な空域を使えるからだそうだ。

このほか、2020年11月に3週間がかりで、アメリカのアリゾナ州でゼファー7の飛行試験を実施した。ただ、試験の詳細な内容は明らかにされていないようだ。

  • 2020年11月から、アメリカのアリゾナ州で飛行試験を実施したゼファー7。低高度の飛行や成層圏への早期移行などを成功させたという 写真:米エアバス

新顔「PHASA-35」も参入

ここまではゼファー・シリーズの話だが、これまたイギリスを拠点とするBAEシステムズも、太陽電池駆動無人機への参入を表明した。

それが2018年5月のことで、機体はPHASA-35という。PHASAはPersistent High Altitude Solar Aircraftの略、つまり高高度に常駐する太陽電池駆動機という意味だ。35は翼幅の数字で、その名の通りに35mある。重量は150kg。

PHASA-35についてBAEシステムズでは、1年間の連続飛行を行えるポテンシャルがあるとしている。BAEシステムズではこれに先立ち、2017年に四分の一スケールのデモンストレーター・PHASA-8を飛ばしていた。

  • BAEシステムズの太陽電池駆動無人機「PHASA-35」の構造。2020年2月に初飛行に成功した 資料:米BAEシステムズ

当初の予定では、まず2機を製作して2019~2020年から飛行試験を進めることになっていた。2020年2月に、オーストラリアのウーメラ試験場で初飛行に成功したとの発表はあったが、その後の続報がない。おそらく、COVID-19のせいで飛行試験に従事するスタッフがオーストラリア入りできなくなっているのではないだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。