これまで取り上げてきた話は、その大半がジェット・エンジンに関するものだった。航空機用エンジンの主流がジェット・エンジン(ターボファンやターボプロップも含む)だから、そういう話になるのは必然だ。しかし最近では、別の流れもある。

小型UAVは電動式が多い

ゼネラル・ダイナミクス社(現在はロッキード・マーティン社)の戦闘機・F-16ファイティングファルコンは、登場した時に「エレクトリック・ジェット」と呼ばれた。操縦操作にフライ・バイ・ワイヤ(FBW)を使うところを筆頭に、電気仕掛けの機能がいろいろ盛り込まれたためだ。

そのF-16は動翼を動かすのに油圧を使っていたが、同じロッキード・マーティン社のF-35ライトニングII、あるいはボーイング787みたいに、動翼を電気仕掛けで動かす機体も出てきている。その話は本連載第12回で書いた。

しかし今回のテーマは、同じ「電動」でも別の話で、動力源が電動という意味である。

「電動飛行機」と聞くと、おもちゃのようなものを想像してしまいそうだ。その辺で売られている空撮用マルチコプターも電動だが、あれでできることはタカが知れている。

ところが、その空撮用マルチコプターに限らず、小型のUAV(Unmanned Aerial Vehicle、無人機)では案外と、電動化した機体がある。特に軍用の機体だと、前線の小規模部隊が「ちょっと先」の偵察に使用するような、ミニUAVとかマイクロUAVに分類されるような機体はそうだ。

理由は簡単だ。電動の方が構造が簡単で取り扱いが容易になる。充電池と電動機で動く機体なら、充電するだけで飛ばすことができる。これがガソリン・エンジンだと、燃料に加えてオイルを補給しなければならない上に、構造が複雑になって整備が面倒だ。また、ガソリン・エンジンだと騒音が大きいが、電動式なら騒音が小さいから見つかりにくい。

もちろん、小型の機体に搭載する充電池や電動機のサイズは知れているから、性能は大したものではない。例えば、米軍を初めとして多くの国で使われている、エアロヴァイロンメント社製RQ-11レイヴンの仕様はこうだ。

全長 0.9m
全幅 1.4m
重量 1.9kg
動力源 電動機×1
速度 32~81km/h
行動半径 10km
航続時間 60~90分
ペイロード 6.5オンス(184g)

近距離偵察以上の能力を求めるのは無理がありそうだが、その分だけ安上がりかつコンパクトに作れる。それに、撃ち落とされても比較的、懐は痛まずに済む。これは軍用としては重要な性能だ。

電動式ミニUAVの例・RQ-11レイブン。手に持っている兵士との対比から、さほど大きな機体ではないことが分かる Photo:DoD

長時間飛行のための電動化

RQ-11をはじめとするミニUAVやマイクロUAVとは別に、高々度・長時間滞空を目的とした電動化事例も出てきている。

地上で暮らしているとピンと来ないが、成層圏まで上昇すれば雲の上だから、昼間は常に晴れている。だから、機体の表面に太陽電池パネルを取り付ければ太陽光による充電が可能だ。もちろん、夜になれば太陽電池は機能しないが、明るい間に充電しておいた電力を使って電動機でプロペラを回せば、夜間も飛行を継続できる。

ちょうど昨年から今年にかけて、ソーラー・インパルスという飛行機が世界一周飛行にチャレンジしている。これがまさに、太陽電池と充電池と電動機の組み合わせて飛ぶ飛行機だ。

今年6月に大西洋横断に成功したソーラー・インパルス

主翼と水平安定板の上面に、厚さ150μmの単結晶シリコン太陽電池を1万2000個並べている。それが発生した電力の一部は、主翼下面に合計4基ある推進用電動機(7.5kW=10馬力)を回すために使い、残りはリチウムイオンポリマー充電池の充電に回す。そして、太陽電池が使えなくなる夜間には、充電池からの電力を使い、さらに滑空しつつ飛行を継続する。

この手の機体を実用的なモノにするには、以下の要素が必要になる。

  • 軽く、エネルギー密度が高い充電池
  • 軽く、かつ十分な出力を得られる電動機
  • 軽い機体構造(ソーラーインパルスは炭素繊維複合材を使用)
  • 大きな揚抗比(抗力に対する揚力の比)
  • 大きな滑空比(飛行した水平距離と降下した高度との比)

揚抗比が高ければ、同じ揚力を得るのに少ない抵抗で済むから、電動機の所要出力を抑えられる。滑空比が大きければ、電動機の推進力だけに頼って飛行を維持するのではなく、緩やかに滑空しながら飛行を続けることができる。夜が明けたら、太陽電池の電力を使って再度上昇すればよい。

理屈の上では、夜間の飛行を完遂できるぐらいの充電池容量があり、かつ、昼間の間に充電池を満タンにできれば、無限に飛び続けることができる。

しかし、ソーラーインパルスは有人機だから、動力源を確保できたとしても、今度は乗っている人間が問題になる。機体を軽く造ることを優先すれば、居住性は決してよくならない。そして、ソーラーインパルスのキャビンは与圧していないから、飛行可能な高度は比較的低い。すると、雲の上に出られるほど上昇できない場面もあり得る。

人が乗っていなければ長く飛べる

ということは、人が乗っていないUAVなら長時間連続滞空のための障壁がひとつ取り除かれることになる。また、キャビンの空間を確保する必要がないから、機体を小さく、軽く造ることもできる。

そして実際に、太陽電池と充電池と電動機を組み合わせて長時間滞空が可能なUAVを造った事例もある。それが、キネティック社(QinetiQ plc)の「ゼファー」だ。キネティックというのは、イギリス国防省の研究開発部門をスピンオフして民間企業にしてしまった、面白い会社だ。軍事関連の研究開発・試験・評価が主な業務だが、民間向けの仕事もしており、F1レースに関わったこともある。

そのキネティック社が造った「ゼファー」は、段階的に改良を図ってきた。2010年に登場した「ゼファー7」は翼幅22.5mもある案外と大きな機体。これが同年7月9~23日にかけて、アメリカ陸軍のユマ実験場で試験飛行を行い、連続滞空2週間という記録を作った。その翌月にキネティック社が世界航空連盟(FAI)に申請した記録は、こうなっている。

  • UAVの連続飛行時間記録 : 336時間22分
  • 50-500kgカテゴリー(U/1.c)UAVの連続飛行時間記録 : 336時間22分
  • 50-500kgカテゴリー(U/1.c)UAVの高度記録 : 70740ft (21561m)

なお、これより先の2008年に、旧型のゼファーが82時間の非公認連続滞空記録を作っていた。

このプログラムは現在、エアバス・ディフェンス&スペース社が引き継いでいる。そして登場する次世代モデルが「ゼファー8」で、翼幅22.5m、重量53kg、運用高度70,000ft(約21,000m)、ペイロード5lb(2.27kg)というスペックを持つ。

太陽電池パネルと充電池に重量を食われるため、ペイロードは大した数字ではない。しかし滞空時間だけは長いので、これを人工衛星より安上がりな代用品にできるのではないか、という考えがある。だから、英国防省がゼファーを使って実施する研究計画の名称は、HAPS(High Altitude Pseudo-Satellite、高々度・疑似人工衛星)という。

例えば、通信中継はHAPSに向いた任務である。通信衛星は、衛星の数も、そこに搭載するトランスポンダーの数も限られており、貴重な資源だ。ゼファーのようなHALE (High-Altitude, Long-Endurance) UAVなら、お望みの場所の上空に何日も連続滞空させられる。

英国防省は、2016年2月に1060万ポンド(当時の相場で1520万ドル)で2機のゼファー8を発注した。有人のソーラーインパルスともども、今後の動向に注目したい。