ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(以下GA-ASI)は、10月15日から海上自衛隊の八戸航空基地を拠点として、洋上哨戒用無人機「シーガーディアン」の実証飛行試験を実施している。これまで取り上げてきている実験機・実証機とは毛色が違うが、話題になっている機体だから取り上げてみることにしよう。
シーガーディアンとガーディアンの違い
GA-ASIは2018年5月に、長崎県の壱岐空港を拠点として洋上哨戒用無人機「ガーディアン」の実証飛行試験を実施した。この機体については、本連載の第134回~第142回にかけて取り上げている。無人機そのもののメカニズムやシステムについては、重複を避けるため、そちらを参照してい|ただければと思う。なお、GA-ASIが公表しているシーガーディアンの主要諸元は以下の通り。
翼幅 | 79ft (24m) |
全長 | 38ft (11.7m) |
エンジン | ハネウェルTPE331-10ターボプロップ×1 |
最大離陸重量 | 12,500lb (5,670kg) |
燃料搭載量 | 6,000lb (2,721kg) |
航続時間 | 30時間超 |
搭載量 | 4,800lb (2,177kg)。うち機内搭載分は800lb(363kg) |
ハードポイント | 9ヶ所(うち1カ所は胴体下面センターライン) |
発電能力 | 45kVA |
今回、八戸航空基地に持ち込まれた機体(登録記号N190TC)を、2018年に壱岐空港に持ち込まれたガーディアン(登録記号N308HK)と比較すると、外見上の違いとしては以下が挙げられる。
- 機首の形状がスッキリしている
- 前部胴体の上下に突き出ているCバンド・データリンクのアンテナ・フェアリングが大型化
- 翼端に付いているウィングレットの形状が異なる
外見が別機のように異なるわけではない。しかし、中身は無視できない大きな相違がある。
STANAG 4671
第137回と第138回で「無人機と有人機の空域共有」について取り上げた。実は、ガーディアン(米軍の制式名称でいうところの、MQ-9A系列の機体)とシーガーディアン(同じく、MQ-9B系列の機体)における最大の違いがこの分野で、シーガーディアンはNATOの無人機向け耐空性基準、STANAG 4671に対応している。STANAGとはStandardization Agreementの略で、NATO加盟国向けに規定している共通化規格のこと。複数の国が連合作戦を実施するためには、規格や手順を統一しておかないと具合が良くないので、こういう仕組みがある。
そのひとつとして、無人機について有人機と同様の耐空性基準を定めるとともに、無人機と有人機が同じ空域で混在飛行できるようにするための土台を作る規定ができた。それにつけられた文書番号がSTANAG 4671だ。なお、耐空性基準とは、航空機の強度・構造・性能について、安全性や環境保全のために定めた技術上の基準のことである。
有人機と無人機の混在飛行を実現するには、無人機の側に、他機との接近を知る仕組みと、接近が生じた時に回避する仕組みが必要になる。そこでシーガーディアンは、以下の機材を用意している。
- TCAS(Traffic Collision and Avoidance System) : 旅客機で使われているのと同じ衝突回避システム
- DRR(Due Regard Radar) : 衝突回避用レーダー
- ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast) : 自機の位置や識別情報を発信する
- IFF(Identification Friend or Foe) : 軍用レーダー向けの識別手段
ADS-Bによって自機の位置・高度・針路・速力を周囲に触れて回るとともに、もしも接近する機体がいればTCASやDRRで検知して、規定通りの回避機動を取る。また、軍用レーダーによる捜索がなされていた時は、誰何されたら「私は味方機です」と知らせるため、IFFトランスポンダーを備える。
シーガーディアンでできること
無人機は大抵そうだが、ドンガラ(機体)とアンコ(ペイロード)は独立しており、カスタマーの求めに応じてさまざまなペイロードを搭載できるようにするものだ。
シーガーディアンが搭載するセンサー機器の陣容は以下の通りで、武装はしていない。
AN/APS-148 SeaVueレーダー | 洋上を行き来する艦船を捜索・追跡するレイセオン・テクノロジーズ製のXバンド・レーダー。逆合成開口レーダー(ISAR : Inverse Synthetic Aperture Radar)モードにより、鮮明なレーダー映像を得られる |
船舶自動識別システム(AIS : Automatic Identification System)受信機 | 艦船が発信する識別/情報を受信。名前、所属、現在位置、目的地などが分かる |
電子光学/赤外線センサー | 可視光線あるいは赤外線映像を撮影。動画も可能 |
MQ-9B一族の場合、洋上監視用のシーガーディアンに加えて、陸上で使用する「スカイガーディアン」というモデルもある。これはイギリス空軍が「プロテクターRG.1」という名称で採用を決めており、9月25日に初号機が初飛行したところ。イギリス空軍では、これをMQ-9Aリーパーの後継機とする。リーパーと違ってSTANAG 4671に対応しているから、空域割り当ての面で制約が少なくなる利点がある。
プロテクターRG.1は、電子光学/赤外線センサーで地上を監視するだけでなく、ペーブウェイIV誘導爆弾やブリムストーン空対地ミサイルを搭載して対地攻撃任務を実施できる。一方で、洋上捜索は想定していないから、洋上捜索用のレーダーやAIS受信機は持たない。
つまり、母体となる機体が同系列でも、そこに組み合わせるペイロードによって、まるで性格が異なる機体ができるわけだ。有人機でもそうだが、ドンガラよりアンコが主役になることの多い無人機の分野では、その傾向がさらに顕著になる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。