市販の乗用車は、同一車種でも複数のエンジンを選択できるようになっていることが多い。ただし、それは同じメーカーのエンジンで、排気量や馬力が違うだけ、ということが大半である。では、飛行機の場合はどうだろうか?
カスタマーがエンジンを希望する
まず自動車業界と航空機業界が異なるのは、「機体屋」と「エンジン屋」が別々にいることだ。例えば、三菱航空機、ボーイング、エアバス、ロッキード・マーティン、BAEシステムズなどといったメーカーは、みんな「機体屋」である。エンジンは別途、プラット&ホイットニー、ゼネラル・エレクトリック、ロールス・ロイスなどといった、専門の「エンジン屋」がいるのが通例だ。
そして、民航機ならエアライン各社、軍用機なら各国の空軍(時には海軍や陸軍ということも)が、主な航空機のカスタマーということになる。そして軍民を問わず、カスタマーによっては「なじみのエンジン屋」が存在する場合がある。
すると、機体を発注する時に「このメーカーのエンジンが欲しい」というリクエストが付いてくる場合がある。例えば、昔は日本航空というとプラット&ホイットニーのエンジンばかりだった。確か、それが変わったのはボーイング747-400を発注した時だったと記憶する。
イギリスのエアラインがボーイング707を発注した時、あるいはイギリスの海・空軍がF-4ファントムを発注した時みたいに、「エンジンは自国製にしたい」というリクエストが付いてくることもある。これはなじみ深いという理由よりもむしろ、プライドというか、政治的理由というか、自国の産業保護というか、そういう理由による。
ともあれ、こういう事情があるので、特に民航機の場合、1つの機体で複数のエンジンを選択できるようにしている場合が少なくない。例えば、ボーイング747のうち「クラシック747」に分類される、-100シリーズや-200シリーズでは、以下のように3社のエンジンを選択できた。
- プラット&ホイットニー : JT9Dシリーズ
- ゼネラル・エレクトリック : CF6シリーズ
- ロールス・ロイス : RB211シリーズ
同じボーイングでも737シリーズは、CFMインターナショナルのCFM56シリーズ、あるいはその後継となるLEAPシリーズの一択で、他の選択肢はない。これはこれで一種の合理化と言える。ライバルのエアバスA320は、CFM56やLEAPだけでなく、国際共同開発のV2500やプラット&ホイットニーのPuerPowerも使える。
しかし、一言で「エンジンを選択可能にする」といっても、簡単な話ではない。
スペックと物理インタフェース
同じ機体を同じような性能で飛ばそうというのだから、性能は近似していないと具合が悪い。もっとも、エンジン屋さんとしても競合他社に推力や燃費の面で負けたくはないから、これは問題にならないと思われる。
まず、物理的なインタフェースはそろっていないと具合が悪い。つまり、エンジンを機体に取り付けるための結合ピンを取り付ける場所が違うのでは、いちいち設計と強度試験をやり直す羽目になるので、具合が良くない。
それだけでなく、エンジンを制御するための索や配線、あるいは燃料供給や抽気のために使用する配管の位置が極端に違っていたり、接続に使用するコネクタのサイズが違っていたりするのでは、これまた具合が良くない。
そして、機体側にあるエンジン関連計器にデータを送るための電気配線も必要になる。物理的な配線の話だけでは済まず、電気的な仕様が揃っていないと困る。例えばの話、同じ電圧の信号が出てきた時に、あるエンジンでは「排ガス温度800度」、別のエンジンでは「排ガス温度1,200度」となっていたのでは困る。データ・フォーマットを決めなければならないのは、デジタル・データでも同じことだ。
そういう、エンジンと機体の間の物理的・電気的なインタフェースがそろってくれないと、機体屋さんとしては困ったことになる。もちろん、機体側でエンジンに合わせることもできるが、そうすると仕様が増えてコストが上がる。
そういう見地からすると画期的なのがボーイング787だ。この機体はロールス・ロイス社製のトレント1000とゼネラル・エレクトリック社製のGEnxを選択できるが、機体とエンジンの間のインタフェース仕様を揃えたので、相互に交換が可能である。ちなみに日本のエアラインでは、日本航空の787はGEnx、全日空の787はトレント1000を使っている。
戦闘機で複数エンジンの事例
それでも、民航機では主翼下にパイロンでエンジンを吊る形態が多いので、主翼と地面の間に十分な空間があれば、異なるエンジンへの対応はまだしもやりやすいと言える。
これが戦闘機になると、エンジンは胴体内部に納まっているから、そこで異なる複数のエンジンに対応しようとすると面倒なことになる。といっても、そういう事例がないわけではない。具体例を挙げると、ボーイングF-15イーグルとロッキード・マーティンF-16ファイティングファルコンである。
F-15は当初、プラット&ホイットニー社製のF100シリーズだけだったが、F-15Eでエンジン・ベイの設計を見直して、ゼネラル・エレクトリック社製のF110も搭載できるようにした。米空軍のF-15シリーズはすべてF100だが、シンガポール空軍のF-15SGや韓国空軍のF-15KはF110を使っている。
F-16も同様に、当初はF100だけだった。F-15と同じエンジンを使えるようにしたのが、F-16が米空軍の採用を勝ち取った一因である。ところが後に設計を見直して、F110にも対応した。米空軍では部隊によってエンジンを使い分けているが、海外カスタマーは国によってF100だったりF110だったりとバラバラだ。ちなみに、F-16をベースにして開発した三菱F-2はF110を使っている。
F-16がF-15と違うのは、空気取入口の設計を途中で変えたこと。これはF100よりF110のほうが空気流量が多いのに合わせたため。当初はNSI(Normal Shosk Inlet)といって、ソラマメみたいな、比較的丸みの強い形状の空気取入口を使っていた。それが1986会計年度発注のF110搭載型(シリアルナンバーでいうと86-0262以降)から、MCID(Modular Common Inlet Duct)に変わり、幅を12インチ(約30cm)拡大した。
といっても、できるだけ機体構造をいじらずに幅を広げるほうが手間がかからないので、MCIDはちょうど、開いた口の両側を指で引っ張って広げたような形状になっている。中国語のサイトだが、ここにNSIとMCIDの比較写真が載っている。