前回は、民間輸送機の分野で「旅客機」と「貨物機」が分かれている理由と、それぞれの構造上の違いについて書いた。今回は時々、民間輸送機の分野に出現する、貨客混載機と貨客転換可能機の話を。
最初からそのつもりで作られた機体もある
旅客と貨物、どちらか一方だけでは1機分の需要を確保できず、採算が取れない。そんな路線のために、貨客混載型(いわゆるコンビ型)を用意する事例もある。
かつて、ボーイング747-200にコンビ型があったが、現時点で身近な機体としては琉球エアコミューター(RAC)が運航しているボンバルディアDHC-8 Q400CCがある。客室配置図でお分かりの通り、後方が貨物室になっている。
この機体は胴体断面が小さいから、床下に貨物室はもともと存在しない。乗客の預託手荷物を受け入れるための貨物室を、客室と同レベルで後方に設けている。
ちょうど、どちらも左側面から撮った写真があるので、見比べてみていただきたい。
ANAウィングスの旅客型の場合、席番が19まであるが、RACのコンビ型は席番が13までしかない。その差6列分が貨物室に回されて、貨客混載のための貨物室拡大に充てられている。貨物の出し入れについては、もともとの貨物室側扉が大きめなので、それで済ませているようである。
ただ、RACの機体とANAの機体を見比べると、窓や扉の配置は変わらないようだ。あくまで機内の変更に留めているので、RACのコンビ型でも、貨物室の部分に側窓が残されている。
747-200のコンビとコンバーチブル
もともと機体が小さいDHC-8 Q400では、搭載できる貨物のサイズも知れているから、これで済む。
しかし747-200のコンビ型になると、胴体断面が大きくなる分だけ大きな貨物を搭載できるから、そこを有効活用したい。
そこで胴体側面に、貨物型と同様の大きな開口部と扉を設けた。この扉の位置より後方を貨物室として使うことになるが、機内の仕切壁を前方に移動すれば、貨物室をさらに拡大できる。
貨物用の扉の位置で、貨物室の最小サイズは決まってしまう(貨物室扉の位置に客室を持ってくることはできないという意味)。そういう制約がある一方で、床下貨物室よりも天井が高いメイン・デッキを使えるから、その分だけ背が高い貨物に対応できる利点もある。
747-200には、コンビに加えてコンバーチブルというモデルがあった。コンバーチブルといっても屋根が開く訳ではない。全貨物型、貨客混載型、旅客型のいずれにも転換できますよ、という機体だ。つまり、エア・カナダの777がやったことを最初から仕様に織り込んだ機体である。
コンバーチブルの特徴は、貨物型と同様に、機首に貨物搭載用の扉を設けていること。つまり、機首が上方にガバッと開いて、そこから貨物を積み込むことができる。
以下の写真は、747-8貨物型(747-8F)の機首側面をアップで撮影したものだが、コックピットの窓から斜めに、下面に向けて延びる線が見えるだろうか。これが機首に付いている貨物室扉(バイザーという)の開口部である。747-200の貨物型やコンバーチブル型にも同じものがあった。
747-200コンバーチブルは、どんな用途にも柔軟に対応できて理想的な選択のように見えるが、実際のところはあまり売れなかった。だからその後のワイドボディ機はおしなべて、コンバーチブル型の設定はない。
結局、「餅は餅屋」であり、「何にでも使えますよ」は「何をやっても中途半端」ということなのだろう。民間輸送機に限らず、他の業界にもいえることである。
たまたまCOVID-19という「非常時」があり、それによって需要構造が急変してしまった中で何かやらないといけない、という切迫した状況があったから、エア・カナダやフィンエアーは緊急避難的に、旅客型777を貨物輸送に改造したのだろう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。