前回は、2020年2月12日に報道公開された747LCFドリームリフターの、構造上の特徴を紹介した。今回は、その747LCFによって運ばれている中身、つまり787の機体構造材とサプライチェーンの話を取り上げてみたい。
名古屋で作ってアメリカに空輸
前回にも述べたように、787の製作には複数の日本企業が参画しており、分担比率は35%。主なところでは、三菱重工が左右の主翼で中核となるウィングボックス、川崎重工が前部胴体、SUBARUがセンターウィングボックスを製造している。
ウィングボックスは、機体を支えて飛ばす際の負荷を引き受けているので、当然ながら頑丈に作られている。しかも、地上にいる時の787と飛行中の787を見比べるとひと目でわかるように、飛行中は主翼がかなり上方に反っている(だから、遠目にも787は容易に区別できる)。つまり、ウィングボックスは柔軟に変型しながらも壊れてはいけないという、とても難しいパートだ。
今回の報道公開は、三菱重工で1,000機目の787に取り付けるウィングボックスが完成して、それを送り出すタイミングに合わせて行われた。前部胴体とセンターウィングボックスはすでに発送済みで、殿となる主翼を送り出したのが2月12日だった。なお、ウィングボックスは単体で空輸しているが、前部胴体とセンターウィングボックスはまとめて空輸している。
787の組み立てラインは、アメリカ本土、ワシントン州エバレットとサウスカロライナ州ノース・チャールストンの2ヶ所にある。エバレットでは787-8と787-9、ノース・チャールストンではそれに加えて787-10の組み立ても行っている。そして、どこの工場で組み立てる、どのモデルに取り付ける構造材かで、送り出す先が変わることになる。
ということは、構造材の製作と、それを輸送する747LCFの運航スケジュールを、エバレットとノース・チャールストンにおける機体の製造スケジュールと正しくリンクさせておく必要がある。さもないと、機体を組み立てようとしたら部材が届いていなかったとか、部材が届いたのに組み立てのタイミングには早すぎて待たされるとかいう、無駄な待ち時間が発生してしまう。
しかも、天候などの要因に左右されるから、常に計画通りに747LCFを運航できるという保証はない。そうした制約がある中で、世界規模のサプライチェーンを適切に切り回す難しさがあるわけで、そこのところはF-35戦闘機とよく似ている。
1,000号機は787-10なので、行先はノース・チャールストン。中部国際空港から16時間ほどのフライトになるという。これがエバレットだと、9時間程度のフライトになる。なお、747LCFの運航は、貨物航空会社としておなじみのアトラスエア(Atlas Air Inc.)が担当している。
今回、搬出されたウィングボックスが使われる1,000号機のカスタマーは、明らかにされていない。果たして日本に姿を見せることはあるのだろうか。
日本で製作した構造材の流れ
今回搬出された1,000号機のウィングボックスは、三菱重工・名古屋航空宇宙システム製作所の複合材主翼センター(愛知県名古屋市港区)で作られている。完成したウィングボックスは船で中部国際空港に運んで陸揚げした後、敷地の南端にあるドリームリフター・オペレーションズ・センター(通称DOC)に搬入する。
川崎重工の名古屋第一工場も、名古屋西方の伊勢湾岸にある。一方、SUBARUの半田工場は知多半島を隔てた東側にある。この両者で作られた前部胴体やセンターウィングボックスも同様に、中部国際空港まで船で運ばれてくる。
なお、DOCについては完成時にレポートしたことがあるので、そちらを参照していただきたい。
先の3社で作られた機体構造はDOCで受け入れて保管しておき、スケジュールに合わせて747LCFに搭載して送り出す。なお、上の記事より後の2016年に、西側に建物が1つ増築されて、中部国際空港のDOCは2棟体制になっている。
ウィングボックスは1機につき左右1つずつ、合計2枚を必要とするから、ウィングボックスの搬出も2枚ワンセットで実施する。ウィングボックスを747LCFに載せて輸送するために専用の土台(前回にも書いたように、超特大のパレットみたいなもの)があり、付根側を前方、翼端側を後方に向けて搭載する。翼端側の方が細くなっているから、そちらを支える骨組みはかなり大きい。
なお、747LCFで輸送する段階ではすっぴんのウィングボックスだけで、前縁と後縁のフラップ、上面のスポイラー、後縁の補助翼といった操縦翼面は、まだ取り付けられていない。また、翼端部(ウィングチップ)も取り付けられていない。だから、ウィングボックス自体の形状が明瞭にわかる。
最後に余談
私事だが、筆者は海外に行くというと、JALの787に乗ることが多い。その筆者の海外旅行を支えている主翼や前部胴体やセンターウィングボックスも、こうして日本で作られて中部国際空港から747LCFで運び出されたものだ。そう考えると、ちょっとした感慨がある。
なお、4機ある747LCFの登録記号は前回に書いた。「Flightradar24」では、機体登録記号を使って追跡することもできるから、それを使えば747LCFの動向は把握できると思われる。中部国際空港で飛来を待ち受ける際の参考になるかもしれない。
なお、その中部国際空港にある「Flight of Dreams」では、1階の「フライトパーク」に行くとシミュレータ体験ができる。787のシミュレータに加えて747LCFのシミュレータもあるので、御興味の向きは訪問をお薦めしたい。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。