ZIPAIR TOKYOの初号機の概要

ZIPAIR TOKYOは新造機を調達する代わりに、日本航空で使用していたボーイング787-8を導入する。まず海外の工場で外部塗装の変更を行い、それを日本にフェリーしてきた後で内装の変更を行った。いずれも、これまで国際線で使われていたコンフィグE03の機体で、1号機は登録記号JA822J、2号機は登録記号JA825Jである。

外部塗装は日本航空と同じ白ベースで、とかく派手になりがちな他のLCCと比べると地味だ。しかし、日本航空の787と同じ地色を使えば、レドームや各所のアクセスパネルを共用できるし、同一機種だから機器やパーツも共用できる。調達に際しても、JALグループの購買力を活用できる。これらもコストダウンにつながる要素である。

  • お披露目されたZIPAIR TOKYOの1号機(JA822J) 撮影:井上孝司

    お披露目されたZIPAIR TOKYOの1号機(JA822J)

  • 日本航空時代のJA822J

もともと、定員が少なめの中型機ながら経済性に優れているのが787のセールスポイント。それをLCC仕様にして定員を増やせば、1席当たりの運航コストはさらに低減できる。そのことと、国内線ではなく中・長距離国際線を手掛けるZIPAIR TOKYOの狙いからすると、787は理に適った選択肢といえる。

当初は2機体制で、2020年5月14日から運航を開始する。1機が成田-バンコク間と成田-仁川間を往復して、他の1機は訓練や整備に充てることになるのだろう。2機がフル稼働したのでは、訓練や整備に充てる機体が残らない。

現行のJALの時刻表を調べると、成田-バンコク間の所要時間は7時間前後、成田-仁川間の所要時間は3時間を切るぐらいだ。すると、ターンアラウンドタイムを1時間程度まで詰めれば、1機でバンコクと仁川にデイリーで1往復ずつできる計算となる。

地上に駐機している旅客機は利益を生まない。使用する機体の数をギリギリまで減らす一方で、ターンアラウンドタイムを最小化して、手持ちの機体をフルに飛び回らせる。それにより、フライトの数を増やして収益につなげるのはLCCの基本だ。ただしこれは、どこかで遅延が発生すると玉突き式に遅延の影響が及んでしまうというデメリットと、表裏一体ではあるけれど。

「エコノミークラス」「ビジネスクラス」ではない

機内は「ZIP Full-Flat」と「ZIP Standard」の二本立て。「ZIP Full-Flat」はリバースヘリンボーン配置で、電動によってフルフラットになる機構を備える(ジャムコ製)。対して「ZIP Standard」は、一般的なエコノミークラスのシート(レカロ製)。

  • 「ZIP Full-Flat」はリバースヘリンボーン配置

  • 「ZIP Full-Flat」の通常状態

  • 「ZIP Full-Flat」をフルフラットにしてテーブルを展開した状態

FSC(Full Service Carrier)だと、シートをはじめとする内装品はメーカーと共同で新規開発して、自社オリジナルのものを用意することが多い。しかし、それではコストがかかってしまうので、ZIPAIR TOKYOでは「既製品を利用した」(代表取締役社長・西田真吾氏)という。

そういえば、「ZIP Standard」のシートには何となく既視感がある。見覚えがある某社のエコノミークラス向けシートも、同じレカロ製だ。さて真相やいかに。

  • 「ZIP Standard」は3-3-3列配置で、これは787では一般的なもの

  • 「ZIP Standard」のシート背面。カップホルダーがある部分は、展開するとスマートフォンやタブレットの置場になる。テーブルはそれより下

常識的に考えると、「ZIP Full-Flat」がいわゆるビジネスクラスで、「ZIP Standard」がいわゆるエコノミークラスということになるのだが、「そういうわけではない」というのが西田社長の説明。

占有スペースが広く、横になって寝られる「ZIP Full-Flat」のほうが高い運賃になるのは当然の話。ところが、いわゆるビジネスクラスと違って、付帯サービスがワンセットになるわけではない。運賃はシートのみが対象で、食事や受託手荷物などの付加サービスはオプションとする。だから、「ZIP Full-Flat」でオプションなしという選択肢と、「ZIP Standard」でオプション満載という選択肢、いずれも可能になる理屈。

FSCのビジネスクラスは、単に設備や食事だけを提供するものではない。チェックインから降機後の荷物受け取りまで、「ストレスのない快適な移動」を提供するというのが本質だと思う。だから、さまざまな付帯サービスあってこそのビジネスクラスだ。ところが、ZIPAIR TOKYOの考え方は違う。だから「○○クラス」ではなく、「ZIP Full-Flat」と「ZIP Standard」は「シートの名前」なのだ。

  • JA822Jのコックピット。「飛行機」としての部分は、LCC向けだからといって違いはないようだ

定員は4割も増えている

日本航空の787-8・コンフィグE03では、ライフラットシート(SHELL FLAT NEO)のビジネスクラスが30席、エコノミークラスが176席、合計206席という配置だ。

JAL 国際線 ボーイング787-8 (E03)の機内配置図(JAL Webサイト)

それを、ZIPAIR TOKYOでは290席に増やした。内訳は、「ZIP Full-Flat」が18席、「ZIP Standard」が272席。実は、「SHELL FLAT NEO」でも同じスペースで18名分のシートを設けていたから、フルフラット化で定員を犠牲にしたわけではない。

キャビン全体のサイズは変わっていないのに、どういうマジックを使うと定員が4割も増えるのか。

それこそ、本連載でこれから追求していくテーマである。

しかし残念ながら、現時点でZIPAIR TOKYOの機内座席配置図は公になっていないようだ。

また、報道公開の席で見ることができたエリアが限られているので、客室全体の座席配置を把握するには至っていない。それでも手がかりになる材料がいくらかあるので、それを基に考えてみようと思う。

また、LCCに独特の事業形態は、当然ながら機体の仕様にも影響する。そういった部分も引き合いに出しつつ、解説・考察する形で話を進めていく。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。