第198回で、機内騒音を低減する対策として、ノイズキャンセリングヘッドホンが使えるのではないかと言及した。そこで、11月に渡米した時に、実際にノイズキャンセリングヘッドホンを機内に持ち込んでみたので、今回はその話を。
機内の騒音とは?
実際に旅客機に乗って旅した経験がある方なら御存じの通り、飛行機の機内騒音はすなわち、エンジンの騒音であるといってよい。降着装置の上げ下ろしやフラップの上げ下ろしでもけっこうな音がするが、それは瞬間的だからどうでもいい。
これが鉄道だと、機器の動作音、あるいは車輪とレールから発生する転動音といったものも加わる。ところが、空中を飛んでいる飛行機の場合、その手の騒音はない。大気中を飛んでいるから風切り音はありそうなものだが、実際には気にならないレベル。
すると、ノイズキャンセリングヘッドホンで期待される機能とはエンジン音を低減する機能である、ということになる。
ところが、このエンジンの騒音というものが一様ではない。空港の近辺で外撮りした経験がある方ならお分かりの通り、機種によって意外と、エンジンの音には違いがあるのだ。
特に目立つのが、CFMインターナショナルのCFM56シリーズ。文字で表現するのは難しいのだが、他のエンジンとは異なる独特の音を発するので、音を聞いただけですぐに「あ、CFM56だな」とわかる。
ちなみに、CFM56を搭載している機体というと、ボーイング737シリーズのうち-300シリーズ以降と、エアバスA320シリーズがメジャーどころ。ところが、なぜかA320シリーズの方が特徴的な音を発するように思える。
その他のエンジンはどうか。どちらかというと、重低音が響き渡る種類のエンジンがある一方で、重低音の成分が少ないな、と感じられるエンジンもある。後者の代表は、エアバスA350のパワープラント、ロールス・ロイスのトレントXWB(注 : 個人の感想です)。
トレント・シリーズにはトレントXWB以外にも、ボーイング787用のトレント1000、エアバスA380のトレント900、エアバスA330のトレント700、エアバスA330neo用のトレント7000といった派生型があるのだが、それぞれで音を聞き比べてみるのも面白いかもしれない。
旅客機でもこんな調子だが、戦闘機のエンジンも事情は似たり寄ったり。やはり機種によって騒音の質には違いがある。
例えば、F/A-18E/Fスーパーホーネットのゼネラル・エレクトリック製F414-GE-400は金切り声のような騒音を発するが、F-35ライトニングIIのプラット&ホイットニー製F135-PW-100は重低音が響き渡る。筆者はいつも「お腹が刺激されて消化促進」といっている。
乗ったのは787-8と767-300ER
おっと、前置きが長くなりすぎた。11月の渡米に際して、筆者がノイズキャンセリングヘッドホンを持って乗り込んだのは、日本航空のボーイング787-8、エンジンはゼネラル・エレクトリックのGEnxである。
これはどちらかというと、重低音が目立つ傾向があるエンジンだ。そこに乗り込んでノイズキャンセリングヘッドホンを作動させてみると、主として重低音の成分を消してくれる。しかし、周波数が高めの領域はそれほどでもないので、さすがに「無音」とはいかない。
それでも、騒音がいくらかでも軽減されるほうが快適だし、寝やすいのではないか、という感触は得られた。ちなみに、座っていた場所は主翼より後方のエコノミークラス、窓側である。どちらかというとエンジンの音に曝されやすい場所だ。
そこで相応の効果があったと思われることから、もっと前方の席であれば、もうちょっと快適に過ごせるのではないかという期待が持てそうだ。もっとも、ビジネスクラスまで行けば最初から、機内備え付けのノイズキャンセリングヘッドホンがあるだろうけれど。
あと、これより先に国内線の767-300ERでもノイズキャンセリングヘッドホンを持ち込んでみたことがある。このときにはL1ドア直後・最前列の席だったので、どちらかというとエンジンの騒音は少ないとされる場所だ。
それでも、「重低音の低減に効果がある」という印象は同じであった。ちなみに、こちらのエンジンもゼネラル・エレクトリック製だが機種は異なり、CF6-80C2B7Fである。
787-8と767-300ERの2機種だけで判断するのは拙速に過ぎるので、今後もいろいろな機体にノイズキャンセリングヘッドホンを持ち込んで、試してみようと思う。持ち込むヘッドホンが常に同じ私物であれば、差分は機種(と、そこに付いているエンジン)の違いだけとなるから、比較しやすいはず。
ちなみに、ノイズキャンセリングヘッドホンというデバイス、飛行機だけでなく、鉄道でも気動車で意外と効果がある。ディーゼル・エンジンの音も重低音が主体で、しかもそれがずっと響き渡っているから、その音を低減してくれれば助かる。するとひょっとして、夜行バスでも役に立ちそう?
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。