F-35Bの話で盛り上がって(?)いる最中ではあるが、先日、日本航空のA350XWB(A350-941)に乗ってきた(念のために書くが、もちろん自腹である)。ちなみに、機材は報道公開のときと同じ、1号機(JA01XJ)であった。基本的なところは報道公開の際に押さえてあるのだが、やはり営業フライトでなければわからない話もいろいろある。ということで今回は急遽、A350の話を。
フライトマップにHUD表示
A350の売りの1つに「全席に個人用画面が付いている」がある。もちろん映画を見ることもできるが、国内線にもかかわらず、フライトマップ表示も可能。「マイフライト」というメニューの下にある。
フライトマップの表示モードは多彩だが、その1つに、(コックピット前方の)窓の外の景色を見せるというものがある。もちろんコンピュータ・グラフィック画面だが、既定値ではそこでHUD(Head Up Display)の表示を重畳している。設定変更で外すこともできるようだが、筆者にとっては必須アイテムだ。
実はこれ、初めてではなかった。3年前にアメリカン航空の787で羽田からロサンゼルスに飛んだ時にも、同じような表示を見ている。
ところが、その後に常用している日本航空の国際線機材は、同じ787であってもタレスの「MAGIC」を使っている。これだとフライトマップにHUD表示がないのだ。A350のIFE(In-flight entertainment)はパナソニック製だが、飛行機好きのツボを良く心得ている。
このHUD表示を見ると、針路(HDG : Heading)、対気速度(Airspeed)、高度(Altitude)が常にわかる。「ああ、いま降下しているな」なんてことは、右側に出ている高度の数字を見ればすぐわかる。
ありがたいのは、対地速度(GSPD : Ground Speed)の表示もあること。これを見ると、本連載の第42回で取り上げたことがある対気速度」と「対地速度」の違いを実地に見ることができる。西に向かうとフライトと東に向かうフライトで、それぞれ対気速度と対地速度の数字を比較してみると面白そうだ。
尾翼カメラの使い道
人によって「あれは面白い」「何が面白いんだ」と評価が真っ二つに割れている尾翼カメラ。垂直尾翼の先端近くに前下方向きのカメラが付いていて、それの映像を個人用画面で見られる。このメニューも「マイフライト」の中にある。
このカメラが面白いと思ったのは、主翼に付いている動翼の動きを見られること。もちろん、他機でも後方窓側の席に座れば見られるのだが、尾翼カメラのミソは「どこの席に座っていても見られる」点にある。
これ、画角の関係で補助翼は見えない。左右のフラップとスポイラーだけである。しかし、着陸進入の際にフラップを降ろす様子や、着陸して接地した途端にスポイラーを立てる様子なんかはわかる。また、俯瞰するようにカメラを取り付けてあるから、高度が低いと、地上の様子も見える。やや鮮明さを欠くうらみはあるが、小さなカメラだから致し方あるまい。
踏むな、つかむな
報道公開の時は下から見上げていたのでわからなかったのが、エンジンナセル上部の標記。パイロンの手前に2カ所「踏むな」という標記があるほか、その手前に生えているフィンには「つかむな」という標記がある。英語で「NO STEP」などと書く代わりにピクトグラムになっているから、誰が見てもわかる。
こうなっている理由は推測できる。構造や強度の関係で、上に人が乗ったり、手でつかんだりして体重がかかると、具合が悪いのだろう。ただ、これまでに乗ったことがある他機種では、この場所にこういう標記があるのを見たことがなかったので、「へええ」と思った。
もっとも、ロールス・ロイスのトレントが付いた機体に乗ったのは初めてだから、他のトレント搭載機も見て、比較してみないと、という部分はある。
エンジンといえば、静粛性はどうかという話になるのだが。
最新鋭のトレントXWBといえども、もちろん大型のジェット・エンジンだから、音がしないわけがない。だが、音質には違いがあるなと思った。重低音で轟音が響き渡るという印象は、確かに薄い。実のところ、機内にいる時よりも、地上から離着陸を撮っている時のほうが、静かだなと感じている。
もっとも、比較的前方の席に座っていたので、後方の席に座るとまた印象が違うかもしれない。今度は普通席でも試してみないと。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。