8月6日に中部国際空港(セントレア)で、エアバスA220-300の報道公開が行われた。これは、エアバスが7月29日からスタートさせたアジア向けデモツアーの殿となるもの。A220といえば、日本のエアラインでは就航させていない機体であり、しかも比較的最近のモデルなのでなじみが薄そうだ。今回は、A220という機体から紹介しよう。

A220とは、こんな機体

なじみの薄い機体だから、まずは実機の写真を御覧いただこう。

  • 今回、来日した機体(FTV8)はボンバルディアがCシリーズCS300として製作した機体で、登録記号はC-FFDO、製造番号は55002。メーカー保有の試験用機なので、エアラインの機体とは仕様が異なるところがある 写真:井上孝司

    今回、来日した機体(FTV8)はボンバルディアがCシリーズCS300として製作した機体で、登録記号はC-FFDO、製造番号は55002。メーカー保有の試験用機なので、機内エンタテイメント設備が付いていないなど、エアラインの機体とは仕様が異なるところがある

  • エンジンはプラット&ホイットニーの「PurePower PW1500G」。騒音の少なさは印象的だった

  • 機内は全席エコノミー仕様で、2列-3列配置。ただしカスタマーによっては、2クラス構成や3クラス構成をとっているところもある

  • オーバーヘッド・ストウェージは、機内持ち込み可能なサイズのトランクを全員が持ち込んでも対応できるだけのキャパがある。開くと下に降りてくるので、荷物の出し入れはしやすい部類

  • 腰掛はゾディアック社製の「Slimplus」といい、上下可動式の枕がついたタイプ

  • 操縦席(フライトデッキ)は、5面の多機能ディスプレイ(MFD : Multi Function Display)を配置している。操縦桿は他のエアバス機と同様のサイドスティック式

  • 737やスペースジェットと同様、A220も主脚収納室のうち、車輪が収まる部分の扉を省略している。だから、飛行中に下から見ると主脚の車輪が露出する。ちなみに、A320は扉が付いている

今回はアジア太平洋地域の5カ国を巡るデモツアーを実施しており、その殿となったのが日本だった。報道関係者などを対象とするデモフライトでは、中部国際空港から小松まで北上して、右回りで糸魚川~長野~松本~中津川と周回する経路をとった。

ちなみにこの機体、2016年11月と2017年9月に羽田空港に立ち寄ったことがあるが、日本国内でのデモ飛行は今回が初めて。今回、中部国際空港に持ってきたのは、ポテンシャル・カスタマーからの要望と、以前に来たことがなかった場所、という事情によるそうだ。

CシリーズからA220に改称

もともと、エアバスの製品ラインにA220という機体はない。実はこれ、カナダのボンバルディア社が手掛けていたCシリーズである。それをエアバスが2018年に自社の製品ラインに組み込み、それに合わせて改称した。

ボンバルディアの旅客機というと、日本ではDHC-8が就航しているほか、過去にはジェイエアがCRJを飛ばしていた。それより上位の機体として開発したのがCシリーズ。CS100(100~135席)と、CS300(130~160席)の2モデルがあり、後者の方が胴体が3.7m長い。もちろん、使用する機器や部品の共通性は高く、操縦資格も共通になっている。

ボンバルディアはCシリーズを手掛ける際に、ケベック州の投資公社も交えて、CSALP(C Series Aircraft Limited Partnership)という事業会社を設立した。そのCSALPの株式のうち、過半の50.1%をエアバスが2018年7月に取得、それに合わせて前述の改称を行った。その結果、CS100がA220-100、CS300はA220-300となった(なぜか-200はない)。

こういう経緯から、A220のICAO(International Civil Aviation Organization, 国際民間航空機関)機種コードは現在も、A220-100が「BCS1」、A220-300が「BCS3」となっている。「Bombardier」「C Series」の「100」または「300」というわけだ。

A220は現時点で、21社から551機を受注している。そのうち、-100は7社・90機、-300は18社・461機。エアラインは大型の-300に魅力を感じているようである。ちなみに、日本の空でもA220を見る機会はあり、大韓航空のA220-300が成田、中部、千歳に飛来している。

A220の位置付け

エアバスはこれまで、ラインナップのボトムをA320シリーズとしていた。その中に、過去には短胴型のA318やA319といったモデルが存在したが、A320neoシリーズからは消えている。それによって生じた隙間を埋めるのがA220。エールフランス-KLMグループのように、A318とA319の後継機としてA220-300を発注したエアラインもある。

先に挙げた定員の数字でおわかりの通り、A220はいわゆるリージョナル機と比較すると、1クラス上の機体となる。リージョナル機というと、三菱MRJ改めスペースジェットがなじみ深いが、これは70~90席級のモデルだけで、100席超のモデルは検討段階にとどまっている。しかしA220は全モデルが100席超である。

そのクラスの違いは、胴体の寸法でも確認できる。同じエアバスの単通路機であるA320、A320と競合するボーイング737、A220と機体規模が近いエンブラエルE190、そして三菱スペースジェットの数字を並べてみよう。

機種 胴体最大幅 客室最大幅
エアバスA220 3.5m 3.28m
エアバスA320 3.95m 3.7m
ボーイング737 3.8m 3.54m
エンブラエルE190 3.01m 2.74m
三菱スペースジェット 2.96m 2.76m

普通席の配置を比較すると、A320や737は3列-3列だが、A220は2列-3列、そしてE190とスペースジェットは2列-2列である。これらは、胴体径の違いを反映した結果だ。普通席における1人分の座席幅は45~46cm前後だから、その分が上記5機種における胴体・客室の最大幅における差分になっている。

航続距離はA220-300で6,204kmあり、これはもうリージョナル機というレベルではない。エアバスでは「A220よりも大型の単通路機と同じ性能を発揮できる」としている。実際、日本でのお披露目を終えたC-FFDOはカナダに向けて帰国の途についたが、その途上、中部国際空港からアラスカのフェアバンクスまで、7時間29分かけて一気に直航した。いくら乗客がいない軽い状態とはいえ、リージョナル機にはできない長距離飛行である。

つまり、A320や737と同等の航続性能を持つが、A320や737ではキャパが大きすぎて採算がとれない路線にA220をどうぞ、というわけだ。180分ETOPS(Extended Twin Engine Operations)の認証を得ているので、洋上飛行を伴う国際線にも投入できる。

エアバスが、このA220を日本に持ち込んだのは、日本のエアラインに対してA220をアピールするためである。ここまで述べてきた機体規模などのデータから、「どのエアラインを想定顧客とみているのか」なんてことを考えてみるのも面白そうだ。

概要はこれぐらいにして、細かなメカニズムの話は次回に譲ることにしよう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。