2019年6月14日、日本航空が導入するエアバスA350-900の初号機(JA01XJ/MSN321)が羽田空港に到着した。その6日後の6月20日に、羽田空港のJALメンテナンスセンター格納庫で、同機のお披露目会が開かれた。

このお披露目には、エアバスのジャン=ピエール・スタイナック上席副社長(シニア・バイス・プレジデント)や、ロールス・ロイス・ジャパンの露久保治彦社長も出席してスピーチした。

  • 中央が日本航空の赤坂祐二社長。その左がロールス・ロイス・ジャパンの露久保社長、右がエアバスのスタイナック上席副社長 写真:井上孝二

    中央が日本航空の赤坂祐二社長。その左がロールス・ロイス・ジャパンの露久保社長、右がエアバスのスタイナック上席副社長

日本航空におけるA350-900

本誌では、1年半ほど前にデモツアーで来日したA350-1000について取り上げたことがある(実機で確認! エアバスA350-1000に見る最新旅客機のメカニズム(1) )と実機で確認! エアバスA350-1000に見る最新旅客機のメカニズム(2)。それとの比較も交えつつ、初めて日本のエアラインで就航させることになったA350XWBという機体について、いろいろ書いてみることにしたい。

なお、エアバスにおける正式名称はA350XWBなので、-900と-1000を総称する場合には「A350XWB」、個別のモデルについて書く時には「A350-900」「A350-1000」と書くことにする。

  • 中央が日本航空の赤坂祐二社長。その左がロールス・ロイス・ジャパンの露久保社長、右がエアバスのスタイナック上席副社長

    6月14日に羽田空港に降り立ったA350-900。接地の直後なのでスラストリバーサが作動している。初号機の後部胴体に描かれたスペシャルマーキングは「赤」

日本航空におけるA350XWBの位置付けは、「老朽化したボーイング777の後継機」である。777は、登場した当初は優れた経済性を有する機体といえたが、今ではもっと経済性に優れた機体がいろいろある。

だから、新型機への置き換えは老朽代替というだけでなく、運航経費の低減というメリットにもつながる。ジェット燃料の価格動向によっても違ってくるが、A350への移行に伴う燃料費の節減効果は、国内線で1機・1年間あたり2億円ぐらいになると見込んでいる由。

日本航空は国内線で777-200と777-300、国際線で777-200ERと777-300ERを飛ばしているが、国内線で使用している機体のほうが導入時期が早く、その分だけ老朽化が進んでいた。そのため、A350-900は最初に、国内線仕様の機体が登場した。

  • 日本航空の国内線向け777-200

そして、これまでの主力である777シリーズに代わる新たな主力ということで、国内線におけるA350XWBは「フラッグシップ機」と位置付けられている。だから、内装も既存の「SKY NEXT」をそのまま引き継ぐのではなく、「日本の空に、新しい快適を」と題して、新たなデザイン、新たな客室設備を持ち込んだ。

赤坂社長の説明では、A350XWBに決めた理由として、燃費をはじめとする性能面だけでなく、納入のタイミングがあったという。民航機に限った話ではないが、欲しい時に欲しい機体が手に入らないのでは、購入候補にならない。

ボーイングでは777シリーズの後継機として777Xの開発が進められているが、こちらはまだ初号機(WH001/N779XW)がロールアウトして飛行試験に向けた準備を進めている段階。これでは、2019年6月の時点でカスタマーに納入するのは無理がある。

日本航空で使用している古い777-200の代替が、どこまで切羽詰まっているのかどうかはわからない。だが、経営計画や現行機の状況を受けて決定した代替スケジュールに見合った時期に納入できない機体では、たとえ性能が優秀であったとしても選択しづらくなるのは無理もない。

この辺は、機体の良し悪しとは別の、「御縁」のようなものもあるということだろうか。

フラッグシップ故の就航路線

たぶん、お披露目されたA350-900の機内については、さまざまなところで書かれているだろうし、それを御覧になった方もいらっしゃることだろう。一言でいうと「モノトーンのSKY NEXTに対して、和の色彩を感じるA350-900」という印象であった。

だから本連載では重複を避けて、違う観点も交えて書いてみたい。

お披露目されたA350-900は、ファーストクラス、クラスJ、普通席の3クラス構成で、総座席数369。777-200の375席より幾分少ないが、クラスJの比率を高めた関係だろうか。

  • A350-900の客室(ファーストクラス)

  • A350-900の客室(クラスJ)

  • A350-900の客室(普通席)

ファーストクラスを設けたからには、基本的にはファーストクラスの設定がある幹線に投入していくことになる。そして、現時点でA350-900の投入が決まっているのは羽田-福岡線だ。ちなみに現在、ファーストクラス付きの機材は、777-200と767-300ERがある。

日本航空の国内線でファーストクラスの設定があるのは、羽田-福岡線以外だと、羽田-伊丹線、羽田-千歳線、羽田-那覇線の3路線がある。だから、まずはこの辺りに順次、A350-900の国内線仕様機が入っていくことになるのだろう。

フラッグシップだから気合の入った設備・内装を備えて、まず幹線に入れて行くという考え方は理に適っている。定量的なデータは知らないが、羽田-伊丹線のごときは「優先搭乗の対象になる上級会員がやたらと多い」なんていう話を耳にする。そういう路線なら、フラッグシップと位置付けた機材を入れることは納得できる。

この先、異なる仕様のA350-900、あるいは利用が多い国内の幹線向けにA350-1000が入るのかどうかは、現時点ではわからない。ちなみに、国内線向けの777は「3クラス構成の777-200」と「2クラス構成の777-300」という組み合わせになっている。

なお、燃費性能に優れた長距離国際線向きの機材を国内線に投入しても、何か問題が生じるわけではない。現に、全日空はボーイング787を普通に国内線で飛ばしている。

ただ、短距離の国内線を長距離の国際線と比較すると、機体の累計飛行時間が同じでも、その間の離着陸の回数はずっと多くなる。だから、その分だけ降着装置などを強化する必要はあるかもしれない。

最後に余談

導入・就航に関わる話はこれぐらいにして、次回からは機体そのもの、あるいは内装といったハードウェアの話を中心に書いていくことにしたい。

といったところで、最後に余談。日本航空の関係者は、A350XWBのことを「エーサンビャクゴジュウ」ではなく「エーサンゴーマル」と呼んでいた。その方が言いやすく、聞き間違いも起きにくいということだろうか。

ちなみに、ボーイング777は、ボーイング社では「セブンセブンセブン」というようである。しかし、これはいかにも言いにくい上に長ったらしい。日本語読みで「ナナナナナナ」では舌を噛みそうだし、1文字ぐらい余計に言ってしまうかも知れない(えっ?)

結局、全日空の登録商標(日本第4080555号)であるところの「トリプルセブン」という言い方が広く使われているし、日本航空の関係者ですら、そう呼んでしまうことがあるのが実情であった。あと、それをさらに縮めた「トリプル」という呼び方もある。

  • A350-900初号機の登録記号は「JA01XJ」

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。