電子機器も事情は同じ

エンジンだけでなく電子機器も、点検・交換・整備が必要になるのは同じ。パーソナルコンピュータだと、ケースを開けると直ちにプリント基板が丸出しだが、航空機の電子機器はどうか。

わかりやすいところで(?)軍用機の電子機器を引き合いに出すと、LRU(Line Replaceable Unit、列線交換ユニット)とSRU(Shop Replaceable Unit、ショップ交換ユニット)という、2重構造になっている。

LRUは回路基板を納めた「箱」で、ケーブルと固定用のネジ、あるいは金具を外して引き抜く。1つの電子機器が複数のLRUでできていることもあり、例えば機首に付いているレーダーだったら、「送受信機」「コンピュータ」など、機能別のLRUになっている。

だから、不具合が発生して交換する時、あるいは定期点検のために交換する時は、個々のLRUが単位になる。全体が一体になっていて、それをまるごと取り替えるよりも、LRU単位で取り替えるほうが合理的だし、手間がかからない。

この方法にはもう1つメリットがあって、不具合対処や能力向上のための改良を行う時に、LRUを単位にできる。場合によっては、旧型LRUを外して新型LRUに交換すれば終わり、となるかもしれない。

そのLRUの中に収まっている個々の回路基板がSRU。LRUを整備工場に持っていって蓋を開けて、中からSRUを取り出す。それを担当者が点検・整備したり、新品と交換したりする。

  • ,F-14DトムキャットやF/A-18ホーネットが使用していた、AN/AYK-14ミッション・コンピュータ。この箱が1つのLRUで、上から顔を出している個々の回路基板がSRU  写真:井上孝司

    F-14DトムキャットやF/A-18ホーネットが使用していた、AN/AYK-14ミッション・コンピュータ。この箱が1つのLRUで、上から顔を出している個々の回路基板がSRU

旅客機みたいな大型機の場合、床下など機内の一角に電子機器室を設けて、そこにLRUを搭載するラックを設ける。戦闘機のような小型機は、機体外板に設けた開口部の点検扉を外せば、外から直接LRUにアクセスできる。

その開口部の位置が高いと、いちいち踏み台に乗って作業しなければならないので面倒だが、地上に立ったまま、無理のない姿勢でアクセスできる場所に開口部があれば、作業性が良い。

面白いのはF-35で、側面に電子機器点検用の開口部があるのはもちろんだが、電子機器の一部は首脚収納室の中に収まっている。だから、首脚収納室の中に頭を突っ込んで、LRUを交換する場面もあるのだろう。どちらにしても、地面に立ったままでアクセスできるので、いちいち踏み台に上がる必要はない。

電子機器の検査装置

純然たる機械であれば、目視検査が主体になるが、内部の亀裂などは外から見てもわからないから、X線検査みたいな手法を使用することもある。では電子機器はどうするか。

もちろん、外から見て明らかにわかるような破損や劣化もあるだろうが、そもそも機械と違って動作が目に見えるものではない。だから、「どういう信号を入れたらどう反応するか」みたいな形で、動作を検査する必要もある。

そこで「電子機器を検査するための検査装置」というものが出現する。ときには「コンピュータの動作を検査するためのコンピュータ」なんてものまで登場する。すると「コンピュータの動作を検査するためのコンピュータを検査するためのコンピュータ」が必要になって無限ループに陥るのでは… …なんてことにはなっていない。

閑話休題。電子機器をはじめとする電装品の検査装置が一般の目に見えるところに出てくる機会は、滅多にない。その滅多にない機会の1つに、昨年、遭遇した。場所はアメリカのメリーランド州南部、パタクセントリバー海軍航空基地(Naval Air Station Patuxent River)のゲート前にある、パタクセントリバー海軍航空博物館。

パタクセントリバー基地は試験・評価部門が陣取る基地だからなのか、ここの博物館は新型機の試験・評価に関わる展示が充実している。その一環ということなのか、電装品の試験機材が展示してあった。筆者は大喜びしたが、これを見て大喜びするおかしな訪問者が、年に何人いるだろうか?

  • パタクセントリバー海軍航空博物館に展示されている試験装置 写真:井上孝司

    パタクセントリバー海軍航空博物館に展示されている試験装置

もちろん、博物館の展示品にして一般公開するようなものだから、用済みになった旧型機材なのであろう。米海軍の現用電子機器試験機材の一例としてはeCASS(electronic Consolidated Automated Support System)があり、これはロッキード・マーティン社が手掛けている。

民航機なら決まった場所で整備・点検を行えばいいが、軍用機だと世界のどこに出張するかわからない。だから、電子機器の整備・検査に必要な機材も、トレーラーやコンテナに入れて世界各地に機動展開できるようにしている場合がある。

これが空母となると、艦内にちゃんと電子機器の整備を行う専用のスペースがある。今の艦ならそんなことはないだろうが、古い艦だと「電子機器の整備スペースだけは空調の効きがいい」なんていうこともあったそうだ。デリケートな電子機器の回路基板をむき出しにする場面で、埃や暑さや湿気でダメになったら困るから。

余談だが、エンジンでも電子機器でも、整備作業を行う場所のことをショップという。同じshopだが、販売店という意味ではない。むしろ「職場」という意味のほうが近い(辞書を見てみたら、ちゃんと「職場」も載っていた)。

前述のSRUも、そういう意味のネーミングである。「ショップでバラしたり交換したりして整備する部位だから、Shop Replaceable Unitというわけ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。