2018年11月27~29日にかけて、東京ビッグサイトで開催された「国際航空宇宙展2018」(JA2018 : Japan International Aerospace Exhibition 2018)。当初は2回にまとめるつもりだったが、予定を変更して3回目をお届けする。

GCSの構成が変わっていた

ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)は、前回のJA2016に引き続いて、同社の無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)と組み合わせて使用する地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)を展示していた。

ただし、ブツは2年前のモノと同じではない。最大の違いは、6面のディスプレイのうち中央下段が、他の画面のような「テレビっぽい」ものではなく、アビオニクスっぽい外見のものに変わっていること。

  • GA-ASIがJA2016に出展していたGCS。6面とも同じタッチスクリーン式ディスプレイを使っている

  • GA-ASIがJA2018に出展していたGCS。中央下部の画面が以前と異なる

単にディスプレイが違うというだけでなく、ディスプレイのサイズが少し小さくなり、捻出したスペースにキーパッドが増設されている。ちょうど、有人機でFMS(Flight Management System)のデータ入力に使用するものと似ている。

それも当然。メーカーはロックウェル・コリンズ社改めコリンズ・エアロスペース社で、キーパッドにはアルファベットや数字のキーとともに、「MAP」「CHART」「FMS」「CHKL」などといったボタンが並んでいる。

「MAP」は地図、「CHART」は航空図。「CHKL」はチェックリストであろう。昔なら紙のチェックリストを備え付けるなり、パイロットが持ち歩くなりしていたところだが、今はEFB(Electronic Flight Bag)みたいな形で電子化する事例が増えている。

そのキーパッドはあくまで、チェックリストの操作や飛行経路の指定など、アビオニクスの操作に関わる部分だけを受け持つもの。それ以外の用途に使用するキーボードは別に、パソコン用のそれと似た感じのものが画面下部に備え付けられていて、これは以前のモデルと変わらない。

米空軍のUAVオペレーターは、無線交信だけでなくチャットによるやりとりも多用しているが、そのチャットをスムーズに行うには、まともなサイズのキーボードが付いているほうがいい。

展示中、この中央下部のディスプレイはEFIS(Electronic Flight Instrument System)、つまりグラスコックピットの中核となる電子計器表示になっていた。だから、姿勢計、方位計、速度計、高度計といった基本的な計器に加えて、エンジンの回転計や排気温度計、燃料系、搭載機器の動作状態表示といったものもあった。

面白かったのは「TOUCHSCREEN INHIBIT」というスイッチ。つまり、これを「OFF」から「ON」に切り替えると、タッチスクリーンの機能を止めることができる。単にディスプレイとして使うのであれば、タッチ操作はいらないから誤操作防止のためにオフにもできる、ということか。

このディスプレイ装置の変化が意味するところは何だろうか。

機体の周囲の映像、あるいは機体が搭載するセンサーからの映像を表示するのであれば、民生品のディスプレイを買ってきて取り付けても差し障りはない。

しかし、UAVが本格的な「飛行機」として有人機と同じ空域を飛ぶようになってくれば、機能の面でも信頼性の面でも既存の有人機と同じ水準が求められる。(無論、従来の無人機が「墜ちても構わない」といっていい加減に作られていたという意味ではない)

すると、機体そのものの制御に関わる部分では、実績がある既存有人機向けのアビオニクス製品を活用するのが最善の選択肢といえる。「飛行機」に違いはないのだから、

アビオニクスに関する展示いろいろ

そのGA-ASIのGCSで使用するアビオニクスを手掛けたコリンズ・エアロスペース社は、自社のブースではCAAS(Common Avionics Architecture System)を展示していた。

2年前にはC-130輸送機向けの新型アビオニクスとグラスコックピット化ソリューションを展示していたが、今回のCAASは用途が違う。これは米陸軍のUH-60MブラックホークとCH-47Fチヌークで使用しているアビオニクス製品である。

UH-60Mはロッキード・マーティン傘下のシコルスキー製、CH-47Fはボーイング製とメーカーが異なり、機体の構成もサイズもまるで違う。しかし、なにかと費用がかかるアビオニクスを共用化することで、取得コストと維持コストの双方を節減している。

グラスコックピット化に関する展示というと、エルビット・システムズのF-15用大画面ディスプレイもあった。

  • エルビット・システムズが展示していた、F-15用の大画面ディスプレイ装置。昨年の「MAST Asia」でも同じものを見かけた

F-15のうち、F-15Eストライクイーグルの一族は4面の多機能ディスプレイ(MFD : Multi Function Display)を備えたグラスコックピットを使用している。しかし、航空自衛隊のF-15J/DJは初期型なので機械式計器がずらりと並んでいる。

その機械式計器の大半を取り払ってしまい、正面パネルに大画面のタッチスクリーン式ディスプレイをデーンと据え付けられますよ、というのがエルビット・システムズの展示。コックピットで使える表示品質を備えた液晶ディスプレイができたおかげで、大画面MFDが実現可能になった。これがCRTだと、奥行きが大きくなりすぎるので大画面化には無理がある。

飛行諸元を表示するだけなら機械式計器でも差し障りはないが、戦闘機はセンサー映像を表示したり戦術状況を表示したりといったニーズがあるので、MFDは不可欠だ。それなら大画面ディスプレイを1つ用意して、必要に応じて切り替えたり分割したりして使い分けるのは合理的である。

エルビット・システムズは、F-15以外の機体でもMFDをはじめとするアビオニクス製品をいろいろ手掛けている会社。ルーマニア空軍のMiG-21を対象とする近代化改修に関わったこともある。航空自衛隊のF-15Jについて、さらなる近代化改修の話が出ているので「商機あり」とみたのだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。