第141回で、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)を遠方まで移動させる方法の1つとして、機体を分解してコンテナに入れて輸送する方法を紹介した。一般的な有人機では、そこまですることはせず、普通は自力で飛んでいくことが多い。

場所を節約したいこともある

だから「簡単に分解・組み立てができるようにする」というニーズはあまりないのだが、駐機スペースを節約したいというニーズが発生することはある。

その典型例が空母搭載機。横須賀などで一般公開された空母の飛行甲板に上がると、誰もが異口同音に「でかい ! 広い !」という感想をもらす。だが、それは機体が置かれていない「がらんどう」の状態だから。

実際の運用では何十機もの搭載機が飛行甲板に並ぶことになるし、発着艦のためのスペースは空けておかなければならないので、駐機している機体が占めるスペースはできるだけ小さくしたい。

そこで、空母搭載機につきものなのが「主翼の折り畳み機構」。主翼の途中にヒンジをつけて、折りたためるようにするものである。大型の機体だと、主翼だけでは足りなくて水平尾翼まで折り畳んでしまうことがある。

さらに、「垂直尾翼が高すぎて格納庫に収まらないので、垂直尾翼も折り畳み式にします」とか(例 : RA-5ヴィジランティやS-3バイキング)、「格納庫に降ろす際にエレベーターのサイズを超えてしまうので、レーダーのレドームを折り畳みます」なんていう機体まである(例 : F-4Kファントム)。

ちなみに、E-2ホークアイ早期警戒機が垂直尾翼を4枚も並べているのは、格納庫の高さなどを考慮して高さを抑える必要があったから。漫然と高さを切り詰めると、垂直尾翼の面積が足りなくなって方向安定性が悪くなるので、代わりに枚数を増やしたのだろう。

どこを折り畳むにしろ、折り畳むためにはヒンジが必要である。また、飛行中に折り畳まれてしまったら一大事だから、ロックする仕組みも必要になる。展開してロックした状態では、一体の翼面と同等の強度を発揮してくれないと困るので、ヒンジを強固に作ったり、ヒンジまわりを補強したりする必要もある。

しかも、折り畳み部分の内側と外側は構造的に独立することになってしまう。もしも翼内に燃料タンクを設けることになれば、折り畳み部分をまたぐことはできず、別々に設置するか、畳まれない内側だけにするとかいう話になる。

大きな機体になると、折り畳みや展開の操作が大変だから、それを機械で行う仕組みも欲しくなる。いまどきのジェット機なら、油圧で畳むのが一般的なスタイルとなる。

折り畳みの方法いろいろ

最もわかりやすいのは、単に途中から上向きに折り畳む方法。日本海軍の零戦21型は翼端から50cmだけを畳むようにして、エレベーターにギリギリで乗るようにした。

折り畳む部分の長さを増やせば駐機時の占有スペースは小さくなるが、畳まれる部分の翼内スペースを使いにくくなるし、設計変更の手間も大きくなってしまう。それで、こういう形にしたようだ。後で出てきた52型みたいに、翼幅を切り詰めて折り畳み機構を省略してしまった事例もある。

それと比べると、同時代のアメリカ海軍機のほうが、折り畳み対象となる部分が大きい傾向がある。特にグラマン社の機体は、ヒンジを前後方向ではなく斜め方向に取り付けることで、主翼を後方に向けて、しかも立てて折りたためるようにする大発明を取り入れた。

  • グラマンTBFアヴェンジャーが、エアショーでのデモフライトを終えて駐機場に戻ってきた。これから主翼を折り畳んで見せる

  • ヒンジは斜めに付いているので、主翼が後ろを向くとともに、上面が機体の外側に向く

  • ほぼ畳み終わった状態。畳まれた主翼が切り欠かれた部分に、斜めに付いたヒンジが見えるだろうか?

こうすれば、主翼を折り畳んだときの占有スペースは劇的に小さくなるが、翼内燃料タンクはあまり確保できなくなる。機関銃は折り畳んだ側の主翼に取り付けてあるが。

ちなみに、この方法は今でもE-2ホークアイの一族が使っている方法である。

単純に上方に向けて折り畳む方式だが、ヒンジが前後方向ではなく、少し斜めになっているのがS-3バイキング。こうすると、折り畳んだ主翼の片方は前寄りに、他方は後ろ寄りに畳まれるので、畳む部分の長さが大きくても、前後に並ぶことでうまく収まる。

以下の動画の1分40秒あたりから、S-3が空母艦上で、畳んでいる主翼を展開する様子が出てくる。

面白いのはグラマンF-14トムキャット。可変後退翼なので、艦上では主翼をめいっぱい後退させることにして、折り畳み機構は省略した。飛行中に使用できる最大後退角よりも、駐機中のそれのほうがいくらか大きいのだ。

A-4スカイホークやF-35Bは、翼幅がもともと小さめなので、折り畳み機構は省略した。やや場所をとるが、機体は軽くシンプルになる。

ヘリコプターやティルトローター機は大変

逆に大変なのは、大きなローターがぐるぐる回っているヘリコプター。そのままでは場所をとって仕方ないので、ローターを折りたためるようにしている。その話は第74回で書いたので、そちらを参照していただければと思う。

同じように、大きなローター(正確にはプロップローターという)がぐるぐる回っているV-22オスプレイも大変だ。

ヘリコプターのローターは胴体の上に付いているから、それを単純に後方に向けて折り畳めばいい。しかしオスプレイのプロップローターは、左右に延びた主翼の端に設けたエンジンナセルに取り付いている。そして駐機時には、そのナセルは上を向いている。

そこで、まずヘリコプターがやるように、プロップローターの羽根を折り畳んで、3枚とも同じ側にまとめてしまう。これだけでは幅を取ることに変わりはないので、続いて、主翼をまるごと、胴体真上にあるピンを中心にしてぐるっと回し、前後方向に向けてしまう。しかもこのとき、ナセルが胴体にぶつからないようにするため、水平方向に向け直すのだから大変だ。

  • 艦上駐機状態のオスプレイ。プロップローターの付根にヒンジが組み込まれていて、そこのロックを解くと折りたためる様子がわかる

オスプレイのプロップローターと主翼の折りたたみについては、ボーイング社の Twitter で分かりやすい動画を投稿している。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。