前回に引き続き、今回も、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)社のガーディアン無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)を取り上げるが、メカニズムの話からはいったん離れ、操縦者、遠隔操作について説明する。
乗っていなければ肉体的負担もかからない
われわれ市井の一般人が乗れる飛行機といえば、旅客機が大半を占める。そして、旅客機は穏やかに操縦するから、操縦するにしろ、お客として乗せてもらうにしろ、肉体的な負担は大したものではない。
ところが、戦闘機は話が違う。急旋回などの機動によってパイロットの肉体には荷重がかかり、最大で9Gに達する。機体の性能だけなら、もっと大きなGをかけられるかもしれないが、パイロットの肉体がついて行けない。ちなみに、小型の空対空ミサイルだと、さらに高いGをかけられるのが普通だ。
閑話休題。いずれにせよ、飛行機の操縦に際して身体に負担がかかるのは、操縦するパイロットが機体に乗っているからである。ことに戦闘機乗りの場合、そのことが年齢面での制約要因になっていて、歳を食ったら戦闘機を降りて他の機種に転換しなければならない、なんていうことも起こり得る。
では、UAVはどうか。地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)から機体を遠隔操作するUAVでは、パイロットの肉体がGによって痛めつけられることがない。だから高齢のパイロットでも操縦できるし、実際、ガーディアンの飛行試験を担当したパイロットの中には、驚くなかれ、年齢が70歳を超えている人がいると聞いた。
もちろん、単純に「歳を食っていてもOK」というわけではない。操縦の技量、機体やGCSをはじめとする各種システムに関する理解と習熟、反射神経などといった要件を満たしていなければならないのは当然のことである。
しかし、年齢や身体的負担「だけ」を理由にコックピットから離れなければならない、という事態を避けられる素地はあるわけだ。それによって優秀な人材を維持できれば、ありがたい話である。
航空身体検査とは
ここで、話はいったんUAVから離れる。
航空法の定めにより、パイロットは定期的に航空身体検査を受けることが義務付けられている。その概要や内容については、以下のWebサイトが参考になるだろう。
航空身体検査|一般財団法人 航空医学研究センター http://www.aeromedical.or.jp/check/
この検査、一度受ければOKというわけではなくて、有効期限がある。期限内に検査を受け直して、基準を満たしていることを確認できなければ、操縦ができなくなってしまう。空の安全を守るための施策の1つとして、こういう仕組みがあるわけだ。
ただし、いったん検査で不合格になったら未来永劫にわたって操縦できなくなるわけではなく、その後の検査で基準を満たしていることが確認できれば復帰も可能であるらしい。
いずれにしても、これは有人機を操縦する場合の話である。実のところ、操縦している最中に倒れられたら困るのはUAVでも同じことだから、なにがしかの健康管理が必要になるのは当然であろう。
ただしUAVでは、Gによる負担がかかるとか、地上より気圧が低い場所で長時間にわたって勤務するとかいうことがない。だから、身体にかかる負担は軽くなると考えられる。
そうした環境の違いを考慮に入れた上で、有人機と比較して「基準を変えてはならない分野」と「基準を変えても差し支えがない分野」を洗い出して、UAVの操縦者に合わせた身体検査の基準を設ける必要があるのではないか、なんていうことを考えた。
「高齢になってもUAVを操縦できるように基準を緩めよう」なんていう方向になれば、それは問題である。結論が先にあって、それに合わせて基準を緩めるのでは話の順番が逆。
しかし、「UAVの運用環境に合わせた新たな基準を策定した結果として、有人機のコックピットを降りた人でもUAVなら操縦できる機会ができる」ということであれば、それはよいのではないか。
もちろん、あれこれ検討した結果として「有人機と同じ基準で行きます」となる可能性もある。ちゃんと検討した結果としてそうなるのならば、それはそれでいいのだ。
遠隔操縦のメリット
すでにアメリカ空軍では、MQ-9リーパーをアメリカ本土から遠隔運用する形が常態化している。もちろん、機体は作戦地域に近い前線飛行場に展開しており、離着陸を担当するための要員と、そのための機材、それと整備員は現地に展開する必要がある。
しかし、いったん機体が離陸して作戦地域への進出経路に乗ると、前線飛行場のGCSは管制を手放して、アメリカ本土にいるオペレーターが引き継ぐ。これは機体の操縦もセンサーの操作も同じである。
ということは、世界各地・異なる複数の場所でMQ-9を運用していても、管制はアメリカ本土の同じ場所でまとめて行える理屈になる。現役部隊であれば、ネバダ州ラスベガス北方にあるクリーチ空軍基地の第432航空団(432WG : 432nd Wing)が担当している。
だから、オペレーターは自宅からクリーチ基地に通勤して任務に就き、任務が終わったらまた自宅に帰ることができる。ただし、戦闘任務を担当するMQ-9の場合、平和な自宅とGCSの中の「戦場」を毎日のように行ったり来たりすることが、かえってメンタル面で大きな負担になっているという。
その点、自分が撃ったミサイルで誰かが吹き飛ばされる光景を高解像度の実況動画で見るようなことがない、民間向けの機体のほうが問題は少なそうだ。
例えば、日本でガーディアンを導入して南西諸島方面、九州西方、日本海、といった具合に複数の哨戒点を設定する場面を想定する。もちろん、機体の整備や離着陸はそれぞれの哨戒点に近い飛行場で担当する方が良いだろう。そうしないと、哨戒点と基地の間の行き来で時間を食ってしまう。
しかし、飛行中の管制を担当するGCSまで各地に分散配備する必要はない。極端な話、東京の街中に置いておいてもいい。
こうすれば、機体の配備・運用場所とオペレーターの勤務場所を分離できる。すると、例えば「家庭の都合で転勤ができません」という場面にも対応しやすくなる可能性が出てくる。
また、十分に人手を確保できれば、勤務時間も柔軟に割り振れると期待できる。機体が飛んでいる最中に、GCSに就くオペレーターが交代することに問題はないし、実際、そういう運用は米空軍で行われている。
衛星経由の遠隔管制には、そんなメリットもある。有人機にはできない芸当である。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。