今回から2回に渡り、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)のガーディアン無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)に関わる、有人機との空域共有の話を取り上げる。「軍事とIT」でも少し取り上げているが、そちらとは切り口を変えてみたい。
米軍機の運用実績だけでは不十分
GA-ASI社が2018年の5月に壱岐空港を拠点としてガーディアンの飛行試験を実施した際は、壱岐島の周囲だけでなく、対馬、雲仙、熊本などにも進出してデータ収集を実施した。その試験が終了した時に掲載された記事が以下である。
ここに「データ収集」というくだりがある。この「データ収集」には2種類の意味がある。1つは、もちろんセンサー機器が吐き出してくるデータと、それの解析。もう1つは、日本国内でUAVを運用すること自体に関わるデータ収集である。
ガーディアンよりも前に、米空軍がRQ-4Bグローバルホークを日本の上空で飛ばしたことがある。2011年3月の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の後で、グアム島から飛来したグローバルホークが福島第一原子力発電所の上空を飛んで偵察を行ったのがそれだ。
その後もRQ-4Bが時々、横田基地や三沢基地に展開して、日本近隣で哨戒飛行を実施している。昨日の三沢基地航空祭でもRQ-4Bが展示されていたと聞く。
グローバルホークもガーディアンと同様に、離着陸や哨戒空域との往来に際しては、民航機をはじめとする他機のニアミスや衝突を防ぐために、必要に応じて航空管制当局とのやりとりを行っている。
そうはいっても、もともと米軍機は日本の航空法による規制の対象からは外れているし、フライトの多くは民間機と異なる空域で行われている。第一、グローバルホークの常用高度は6万フィート(約18,000m)以上と極めて高く、民航機の巡航高度よりもずっと高い。だから、「米空軍のグローバルホークが飛んでいます」というだけでは、「大型のUAVを民間機と共存させながら安全に飛ばせます」と断言するには実績が足りない。
それに対し、GA-ASI社が壱岐島で実施したガーディアンの飛行試験は、同社の社有機(つまり民間籍の機体)を使い、民間空港を拠点として実施した。当然、民間機と同じ空域を飛ぶことになるし、日本の航空法や電波法に起因する制約も受ける。だから、以前に書いたように離着陸を自動ではなく手動で実施するようなことも起きた。その当局との折衝に時間がかかり、実現までには1年あまりの準備期間を要したという。無理もない話だが、最初に何か突破口を開かないと話は先に進まない。
幸い、壱岐空港は朝夕に一往復ずつ、長崎空港との間で定期便が行き来しているだけの「空いている飛行場」である。そのことは、飛行試験を行う場所として壱岐空港が選ばれた理由の1つであった。
ただし「理由のすべて」ではない。UAVの運用に関わるデータ収集ができるとか、センサー機器で適正なデータを集められるとか、地元が協力・支援してくれるとかいう理由もあったのは当然だ。それに、ガーディアンは洋上監視用の機体という触れ込みだから、洋上を飛行できなければ試験にならない。すると内陸部の飛行場よりも海岸部、あるいは離島の飛行場の方が具合がよい。
有人機との衝突回避・運用編
実のところ、日本では同じ空域で有人機とUAVが混在飛行するための環境も制度も整っていない。だから、飛行試験の計画を立てる際は、いきなり完全な「空域共有」に踏み込むわけにもいかず、できるだけ定期便の航路を避ける配慮がなされたという。
そしてもちろん、壱岐空港に設置された地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)に詰める操縦担当者は、必要に応じて管制官とのやりとりを行い、危険な事態にならないようにしていた。
また、ガーディアンが単独で飛ぶのではなく、軽飛行機がチェイス機として随伴していた。チェイス機というと一般には聞き慣れない言葉手も知れないが、要するに「随伴機」である。どんな飛行機でも、初飛行の時はチェイス機が随伴するし、それ以外でも飛行試験に際してチェイス機が随伴することがある。
ガーディアンの場合、先行するガーディアンの後ろから、ある程度の間合いをとって軽飛行機が後を追っていた。こうすれば、機体の状況、あるいは機体の周囲の状況を見る「眼」を現場に置けることになる。
有人機との衝突回避・システム編
実は、ガーディアンには衝突回避のための新兵器が載っている。先日に拙稿「軍事とIT」でも言及したDRR(Due Regard Radar)がそれだ。
報道公開が行われた時、まず壱岐空港内の仮設格納庫で、GA-ASI社のテリー・クラフト副社長が機体について説明してくれた。その時、左右に膨らんだ機首を指して「ここにDRRが入っている」との解説があった。筆者は「おお、予想通りだ」と一人で喜んでいたが、大半の方は「???」となっていたように見受けられた。
DRRとは要するに、衝突回避用の対空捜索レーダーである。機首の内部・前方向きに、上から見てハの字型に2基のフェーズド・アレイ・レーダーを取り付けてあり、前方220度の範囲をカバーする。そのレーダーがもともとの機首からはみ出してしまったため、ガーディアンは機首の両側が膨らんでいる。原型のプレデターB、あるいはそこから派生した軍用型のMQ-9リーパーは、この膨らみがない。
DRRが前方を走査して、自機と交錯しそうな針路をとっている飛行機を発見、さらにそれが自機に向けて接近する状態がが続いたら、自動的に回避行動をとったり、GCSにいるパイロットに回避の勧告を出したりする。その過程で、常に危険領域がどれぐらいの範囲になるかを計算している。
このDRRと回避機動の仕組みは、すでにアメリカで飛行試験を成功裏に実施している。とはいえ、さらにさまざまな条件下で試してみて、実績と経験と知見を積み重ねたいところだろう。
それに、単に回避すればよいというものではない。有人機と同じルールに則って回避機動を取ってくれないと、かえって危険である。他機から見れば、接近している相手が有人だろうが無人だろうが関係なく、「業界のルールに則って回避してくれる」と考えるからだ。
「ドローン」というと一般に想起される、小型の電動式マルチコプターなら、上昇できる高度も速力も行動範囲も、大したことはない。極端なことをいえば、えらく性能の低いVFR(Visual Flight Rules)機みたいなものである。
しかし、ガーディアンは高度10,000mを超える領域まで上昇できる、はるかに本格的な飛行機だ。すると当然ながら、有人機と同じ空域を共用する場面が増える。それに、UAV専用にセパレートした空域しか飛べません、ということでは用途や出番が限られてしまう。
そこで欧米では、UAVと有人機の空域共有に関する研究が進められている。ガーディアンが装備するDRRも、そうした研究から生み出された成果物の1つである。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。