人は乗っていないがカメラはある
本連載の前回に述べたよう、ガーディアンの機首には機体前方のリアルタイム映像を動画で地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)に送るためのカメラがついている。GCSに陣取るオペレーターが遠隔操縦を行う際に、機体の前方がどういう状況になっているかを把握するための手段である。
仕様上は自動的に行える離着陸だが、手動操作で離着陸を行う時は前方の映像が見えていないと困る。また、地上でタキシングする際には、前方向きカメラは必要不可欠だろう。
なお、可視光線用のカメラだけでは夜間、あるいは悪天候の際に困ってしまうので、赤外線センサーも併用している。ガーディアンの場合、2個のカメラ窓が機首に付いていて、上段が可視光線用カメラ、下段が赤外線センサーである。
ただし、前方向きの小さいカメラで、しかも固定設置されているものだから、視界はあまり広くない。望遠鏡というと言い過ぎだが、前方のうち中央とその左右、限られた範囲だけを視界に収めている。
ガーディアンは機首の下面に電子光学センサー・ターレットを備えているから、それをグルグル回せば、真正面以外の様子を観察することができる。実際、飛行中にそういう使い方をすることもありそうだ。
ただし、地上ないしは地上に近いところでは、センサー・ターレットのガラスが粉塵などによって傷ついてしまう可能性がある。だから、そういう場面では大抵ターレットを回してガラスが露出しないような位置にしている。
カメラを補う合成映像
ともあれ、機首のカメラだけでは左右方向の視界が足りない。かといって、左右向きのカメラを増設すると、複数のカメラからの映像をきれいにつなげて見せるという面倒な課題が発生する。
その、複数のカメラからの映像(しかもリアルタイム動画!)をスムーズにつないで表示するという難しい課題にチャレンジしたのがF-35のAN/AAQ-37 EO-DAS(Electro-Optical Distributed Aperture System、電子光学分散開口システム)だが、開発に手こずったのは知られている通り。今はちゃんと機能する製品に仕上がっているが。
そこで、ガーディアンは違う手を使った。最も重要な真正面はカメラのリアルタイム映像を使うこととして、左右の斜め前方については、合成映像で済ませることにした。そのベースになるのはコンピュータに収められた地形情報データベースで、それに基づいて映像をコンピュータ・グラフィックで生成する。
最新のGCSは3面×2段積み、合計6面のタッチスクリーン式ディスプレイを備えている。操縦担当者は、そのうち上段の3面を映像表示に使う。上段中央のディスプレイでは、中央のエリアに例の機首カメラからのリアルタイム映像を表示する。
その周辺と上段左右のディスプレイには、地形情報データベースから生成した合成映像を表示する。だから、上段中央のディスプレイは、合成映像の中心にリアルタイム動画をインポーズするような格好になる。
この方法だと、その場その場で変動する要素、例えば、斜め前方から接近する他の航空機の映像を得ることはできないが、山みたいな不動産の有無は把握できる。だから、地面との意図せざる接触を防ぐことはできる。
さらに、下段にある3枚のディスプレイのうち1枚を地図画面表示に割り当てれば、自機が現在どこにいて、どちらに向かっているかを把握する助けになる。機体の現在位置は機上のGPS(Global Positioning System)受信機で得たデータを無線で送ってくれば把握できるから、それを地図データベースと組み合わせればいい。
こうしてみると、操縦支援の分野で「カメラ」「GPS受信機」「地形情報データベース」「地図データベース」といった複数のシステムを組み合わせた、System of Systemsが構築されているのだとわかる。
しかし実際にやってみると……
以前にも書いた話だが、この6画面構成のGCSと同じ内容のデモンストレーターが、2016年に東京ビッグサイトで開催された「国際航空宇宙展」に出展されていた。そのときに、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)社の御厚意により、そのデモンストレーターを操縦させてもらった。
あいにくと筆者は飛行機の操縦ライセンスを持っていない。もちろん、何をどう操作すると機体のどの部分がどう動くか、という程度のことは知っているが、頭でわかっているということと、それを実際にできるということは別問題。
実際に6面のディスプレイでさまざまな情報を得ながら、左手でスロットル・レバー、右手でサイドスティック式操縦桿、さらに両足でラダーペダルを操るのは、なかなか骨が折れる。
「それでは、エドワーズ基地に降りてみましょうか」というので操縦していたら、あっちにフラフラ、こっちにフラフラという有様だった。たぶん、これが実機だったら1,000万ドル超の無人機が地面との意図せざる接触をして、黒焦げの廃品になっていたことだろう。
壱岐空港で取材した際に伺った話によると、まず飛行機の操縦ライセンスを持っているのは当然の前提条件。そして、300~500時間の飛行経験に加えて、計器飛行の資格を持っている必要があるのだという。そこから養成を始めて、6カ月の養成期間を要するとのことだった。
やはり、ゲームでやるのとは訳が違うから、まず実機を飛ばした経験が十分になければダメなのである。
さて。地形をグラフィック表示する手で地面との意図せざる接触を防ぐのはいいとして、他の航空機との異常接近や衝突を防ぐほうはどうするか。これは事前にデータベースを作っておくわけにはいかないが、どう解決しているのか。という話は次回に取り上げる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。