ここ数回、飛行機の安全対策をテーマとしている。今回は、エンジンの異物吸い込みなど、「モノが当たったり吸い込まれたりする非常事態」の話を取り上げてみようと思う。高いところまで上がればまだしも、地表に近いところを飛んでいると、問題になりやすい。

バードストライクとFOD

その昔、某エアラインの機長さんで「同じ "飛び職" だから焼き鳥は食べません」といった人がいたそうだ。

動力源の喪失と無関係ではない話で、バードストライクがある。エンジンが鳥を吸い込んでしまうと、最悪の場合にはエンジンがオシャカになる。いわゆるFOD(Foreign Object Damage)である。

鳥を追い払うために爆竹を鳴らしたり、エンジンのスピナー部に渦巻きなどを描いたりして「鳥避け」の工夫をする事例はいろいろあるが、それでも鳥がエンジンに吸い込まれたり、機体に衝突したりといった事故は後を絶たない。

昨日、城南島で着陸してくる飛行機を撮っていたら、機首のレドーム先端に血しぶきのようなものが付いた機体がいた。ひょっとして、鳥が直撃したのだろうか? (新幹線でも同じような車両を見たことがある)

そこで、鳥が突っ込んでくるのは致し方ないとして、ぶつかってもある程度は耐えられるように設計している。設計したらテストしなければならないから、窓もエンジンも本物の鳥を撃ち込んでテストする。

鳥だけでなく、ゴミやボルトやナットなども、エンジンに吸い込んだら一大事なのは同じで、これについては第15回で書いた。だから、飛行場で取材をする時は「落とし物をしないように、モノが飛ばされないように」と、とても緊張する。

そこで面白いアイデアを取り入れたのが、ミコヤンMiG-29フルクラム。胴体下面の、かなり地面に近いところに空気取入口がある上に、その直前に首脚がある。すると、路面の状況によってはFODの危険性がある。

そこでMiG-29は、離着陸時には空気取入口に蓋をしてしまい、上面の補助空気取入口を開く方式にした。こうすると、地面から離れたところから空気を取り込むのでFODの危険性は減る理屈だが、あまり吸入効率は良くなさそうである。

スペースが広く、その割に人が少ない陸上の飛行場ならまだしも、狭いところに多数の人と飛行機が入り乱れて行ったり来たりしている空母の艦上だと、鳥ではないものがエンジンに吸い込まれる事故がたまに起きるらしい。

  • ポーランド空軍のMiG-29。胴体下面にあるエンジンの空気取入口が板で塞がれて、その上面にあるルーバーが開いている様子がわかる Photo : USAF

車輪に泥よけをつける

泥よけというと自動車の専売特許みたいだが、さにあらず。旧ソ連製のジェット戦闘機の中には、首脚のタイヤの後ろ側を泥よけで覆っていたものがいくつもあった。

そんな必要が生じるのは、舗装されていない不整地での離着陸を想定していたから。首脚のタイヤが土や砂や石を跳ね上げて、FODの原因になってしまったら一大事。そこで跳ね上げを防ぐために泥よけを設けたわけだ。

もっとも、整備が行き届いた本国の飛行場で運用することが前提の防空軍の戦闘機は、そんなことをする必然性は薄い。一方、他所の土地に出て行って作戦行動を展開する戦闘機は、整備が行き届いていない基地からの運用を想定する必要があった。

エンジンの異物吸い込みだけでなく、胴体下面を傷つけるとか、胴体や主翼の下面に吊した兵装を傷つけるとかいった事態を防ぐ狙いもあったのかも知れない。

昔の戦闘機の防塵フィルター

第2次世界大戦中の戦闘機の写真を見ると、エンジン用の空気取入口に防塵フィルターを取り付けている場合がある。特にこれが目立つのが、ホーカー・ハリケーンやスーパーマリン・スピットファイアといったイギリス空軍の戦闘機で、機首の下面に大きな張り出しが加わっていた。

これは、砂漠地帯で運用する際に登場するもので、張り出しの中には防塵フィルターが入っている。砂漠だから当然のように砂埃が舞い上がるわけで、その砂埃をエンジンが吸い込んだら故障や摩耗の原因になる。そこで防塵フィルターを取り付けた次第。

ただ、機首が太くなるから空気抵抗が増える。また、空気を取り入れる際の抵抗が増えるから、エンジンの馬力が落ちてしまう。それでも、砂埃が原因でエンジンが故障したり傷んだりするよりはマシである。

ヘリコプターの異物吸い込み対策

今のヘリコプターはみんなタービン・エンジン(ターボシャフト・エンジン)を使っている。そのエンジンを、ギアボックスやローター・ヘッドとひとまとめにするほうが無駄がない。

だから大抵の場合、ヘリコプターのエンジンは胴体の上に載っている。地面からは遠いので、FODの心配は少なそうに見える。

ところが、開けた場所があればどこでも(?)発着できるヘリコプターは、FODにつながるゴミの排除がちゃんとできていない場所で発着するとか、ダウンウォッシュで砂塵が舞い上がるとかいった可能性がある。また、運用環境によっては氷や雹などを吸い込む可能性もついて回る。

そこで機種によっては、胴体の上に載っているターボシャフト・エンジンの空気取入口に、異物吸入を防止する策を講じていることがある。よくあるのは、金網をかぶせる方法と、遮蔽用の板を用意する方法。

  • イギリス海軍のシーキング・ヘリコプター。エンジン前面に衝立みたいな板を立ててFOD対策にするのは、英海軍のシーキングによく見られる手法

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。