飛んでいる飛行機のパイロットが現在位置を把握できれば、とりあえず迷子にはならない。だが、それだけでは十分ではない。衝突回避という課題もあるからだ。山に衝突する事故もあれば、他の飛行機と衝突する事故(いわゆる空中衝突)もある。

計器飛行と計器飛行方式

ということで今回は、安全に飛ぶための2種類の方式について。管制にも関わる重要な話である。キーワードは「計器飛行」。

計器飛行とは読んで字のごとく、各種の計器から得られる情報だけを頼りにして行う飛行のこと。計器によって機体の状態や現在位置を把握して、進むべき針路を決めたり、上昇・下降したりする飛行の形態を指す。ちなみに航空法では「航空機の姿勢、高度、位置および針路の測定を計器のみに依存して行う飛行をいう」とある(第一章「総則」の「第二条(定義)」以下、第16項)。

計器飛行を行うためには、所定の訓練を受けて試験に合格して、計器飛行証明という名の免許を取得する必要がある。計器に頼って飛ぶということは、計器の読み方・使い方を正しく知っていなければならないということだから、そうなる。

ずいぶん昔の話だが、日本航空のパイロット訓練生が計器飛行の訓練を行うために、外が見えないように頭の上からバイザーを被って操縦している写真を見たことがあった。上半分はまるごと覆われた状態で、目の前の計器盤だけが見える。その計器盤に並んだ計器だけを頼りにしなければならない状態を物理的に作り出しているわけだ。

  • 米空軍の救難ヘリ、HH-60Gペイブホークの計器盤。ここに並んだ計器から、速度、高度、機体の姿勢、エンジンの動作状況、針路などに関する情報を得ることができる

ややこしいことに、計器飛行に加えて計器飛行方式(IFR : Instrument Flight Rules)という言葉があって、この両者は別物である。

計器飛行方式のキモは、「事前に飛行計画書(flight plan)を提出して」「航空管制官の指示に従いながら飛行する」点にある。つまり、計器を使うことはもちろんだが、航空管制官による衝突回避・間隔調整のための指示が加わるところが、計器飛行方式のポイントとなる。

その際に位置の把握や針路の測定を行う必要があるが、それは計器だけでなく、目視による周囲の状況把握も併用している。衝突回避についても同様である。もっとも、その目視による監視が罠になって、雲上を飛行していた2機の旅客機が衝突した事故があった。

管制官は、正しく高度差をつけて飛行経路を指示していた。ところが片方の飛行機のパイロットが周囲を見たところ、同じように雲上を飛びながら接近してくる別の機体を発見。「雲上にいるのだから同じ高度だろう」と判断して高度を変換してしまったのだ。その結果として高度差がなくなって、2機は衝突した。「雲にスレスレのところを飛んでいるもの同士だから同じ高度」という勘違いが生んだ事故である。

空中衝突防止装置(TCAS : Traffic Collision and Avoidance System)の指示に従わなければならない、という話にも似たところがある。人間の感覚というのは意外とアテにならず、錯覚を起こしやすいので計器を信じるように、とはよくいわれるところである。

有視界飛行方式

計器飛行方式があれば、そうでない飛行方式もある。それが有視界飛行方式(VFR : Visual Flight Rules)。読んで字のごとく、位置の把握や航法を目視に頼る。飛行計画書の提出は必要ないし、管制官の指示を受けるのは混雑している空域だけである。それ以外は自由に飛んでよいことになっているが、高度は定められている。

航空法の定義では「有視界飛行方式とは、計器飛行方式でない飛行の方式」ということになっている。計器飛行方式を構成する条件が満たされていなければ有視界飛行方式であり、自分の目で安全を確保して、行くべき場所に向かわなければならないということになる。

有視界飛行方式で飛ぶことができるかどうかについては、ちゃんと条件が決まっていて、それを有視界気象状態(VMC : Visual Metrorogical Condition)という。当然のことだが、夜間、あるいは悪天候で視界が悪い状況下では、有視界飛行方式では飛べない。

定期便の旅客機・貨物機みたいに、計器飛行方式で飛ばなければならないと定められている場合もある。しかし、計器飛行方式でも有視界飛行方式でも飛べる、という場合もある。グライダーみたいに、計器飛行の資格設定がないので結果的に有視界飛行でしか飛べない、というものもある

巡航高度の使い分け

管制業務の基本は「間隔調整」と「衝突回避」だが、管制官の指示による衝突回避だけでなく、巡航高度の使い分けによる衝突回避もある。針路が0~179度(つまり東に向かう機体)と、180~359度(つまり西に向かう機体)とで、巡航高度を分けようというものだ。

ただし、単純に上下に分けると、どちらか一方の高度が低いところに固まってしまって具合が悪い。巡航高度が低いと燃費が落ちるし、東向きと西向きが切り替わるときの高度変換が大変だ。

そこで、高度をフィート単位で示した時の、千の位の数字で分けている。まず、高度29,000フィート以下の場合だが、東向きは千の位が奇数で、西向きは千の位が偶数。そして両者の高度差は1,000フィート。例えば、東向きが25,000フィート、西向きが26,000フィートといった具合になる。

これらは計器飛行方式で飛ぶ場合の数字で、有視界飛行方式で飛ぶ場合には500フィートずらす。例えば、東向きが25,500フィート、西向きが26,500フィートといった具合になる。

高度29,000フィートを超えると、高度差は2,000フィートに広がる。起点が29,000フィート(千の位が奇数だから東向きだ)だから、その上は西向きとなり、2,000フィート上乗せして31,000フィート。その上は東向きとなり、33,000フィート。その上も同様に2,000フィート差で東西が交互になる。

これらもまた計器飛行方式で飛ぶ場合の数字で、有視界飛行方式で飛ぶ場合には1,000フィートずらす。例えば、東向きが33,000+1,000=34,000フィート、西向きが35,000+1,000=36,000フィートといった具合になる。

なお、同一方向に向けて飛行する機体が前後に並ぶ場合は、飛行時間にして10~15分の間隔を空ける。一方、同一方向に向けて飛行する機体が左右に並ぶ場合は、8~10海里(14.8~18.5km)の間隔をとる。

能書きより実物。「Flightradar24」で太平洋上を飛んでいる飛行機の列を見てみていただきたい。