この連載を開始した頃に、PDFファイルを縮小する方法を紹介しました。しかし、PDFを作成したアプリケーションによっては、なかなか小さくならないこともあります。今回は、PostScriptファイルとDistillerを使ったサイズの縮小方法について紹介します。
ファイルサイズが小さくならないIllustratorで作成したPDF
この連載を開始してすぐの、第2回から、4回にわけてPDFのファイルを小さくする方法について紹介しました。
PDFのファイルサイズを小さくするには、以下がポイントとなります。
- 新しいバージョンで保存
- 画像の解像度を下げる(ダウンサンプルの設定)
- フォントを埋め込まない
- 不要な情報の削除
これらを行うために、Acrobatには、[サイズが縮小されたPDF]や[最適化されたPDF]といった機能が[ファイル]メニューに用意されています。
私事ですが、先日、10MBを超えているパンフレット用のPDFを、Webで配布するために2MB以下にする必要があり、いろいろと作業するうちに見つけた方法を紹介します。
今回、この原稿用に用意したIllustratorで作成したPDFは、ファイルサイズは26MBとかなり大きいです。
このPDFをAcrobatで開き、[ファイル]メニューの[プロパティ]で、「文書のプロパティ」ダイアログボックスを表示し「概要」タブを開きます。このダイアログボックスで、PDFを作成したアプリケーションや、PDFへの変換を何で行ったかを確認します。 「アプリケーション」の表示で、PDFを作成したアプリケーションが「Adobe IllustratorCC(Windows)」であること、「PDF変換」の表示で「Adobe PDF Library 11.00」を使って変換されていることがわかります。
PDFが「Illustrator」で作成されており「Adobe PDF Library」で変換されていると、これから紹介する方法でPDFのファイルサイズ縮小はかなり有効となります。
「Illustrator」とは、デザイナー御用達のグラフィックアプリケーションです。元々、PostScript対応のフォント生成ツールから進化してきたアプリケーションで、美しい曲線を表現できることなどから、多くのクリエイターに愛用されています。
Illustratorの、PDFの保存機能で作成したPDFは、かなりファイルサイズが大きくなってしまうようです。
カタログやパンフレットなど、比較的ページ数の少ない印刷物は、クリエイターさんはIllustratorで作成することが多いと思います。
ビジネスの現場では、このようなPDFをWebサイトに資料として掲載したり、メールで送ったりすることは頻繁にあると思います。
もし、ファイルサイズを小さくできずに困っているなら、今回の方法を試してみてください。
ちなみに、このPDFを[ファイル]メニュー→[その他の形式で保存]→[最適化されたPDF]を使い、プリセット「標準」で最適化したところ、ファイルサイズは16MBまでしか縮小できませんでした。
PostScriptファイルで保存する
ファイルサイズ形式を小さくするためには、一度PDFファイルからPostScriptファイルに書き出します。
[ファイル]メニューの[その他の形式で保存]から[その他のオプションション]→[PostScript]を選択します。
「名前を付けて保存」ダイアログボックスが表示されるので、元のPDFと同じ場所に保存します。ファイルの拡張子は「.ps」となります。
「設定」ボタンで設定を変更できますが、デフォルトのままでかまいません。
PostScriptファイルが書き出されました。ファイルサイズは、元のPDFよりも大きくなっています。
通常、PostScriptファイルは、元ファイルよりもファイルサイズが大きくなるので、気にする必要はありません。
Acrobat DistillerでPDFに変換する
Acrobat Distiller(以下Distiller)を起動します。
現在ではあまり使用されないので、知られていませんがDistillerは、PostScriptファイルをPDFに変換するためのアプリケーションで、Acrobatをインストールすれば同時にインストールされます。
Distillerを起動すると、下のような小さなウィンドウが表示されます。
DistillerもPDF生成アプリケーションなので、PDFの変換時の画面解像度やフォントの埋め込みなどの「Adobe PDF設定」を設定できます。ここでは「デフォルト設定」を「標準」のままにします。
書き出したPostScriptファイルを、Distillerのウィンドウ上にドラッグ&ドロップします。
下のダイアログボックスが表示されます。
DistillerはPostScriptファイル名と同名のPDFを書き出します。PostScriptを書き出したPDFがAcrobatで開いているために表示されたダイアログボックスです。
そのまま[OK]をクリックしてください。
なお、同名のPDFがあり、Acrobatなどのアプリケーションで開いていない場合、自動で上書きされてしまいます。元のPDFを残しておくには、必ずコピーを取っておいてください。
「PDFファイル名の指定」ダイアログボックスが表示されるので、ファイル名を指定して[保存]をクリックします。これで、PostScriptファイルは、「標準」のPDF設定でPDFに変換されます。
PDFへの変換が始まると、Distillerの画面にステータスバーが表示されます。
PDFが作成された、ファイルサイズを見てみましょう。
このテストで使用したPDFは、かなりサイズが小さくなり、1/10以下の約2.5MBまで縮小されたことがわかります。
Distillerで作成したPDFの「文書のプロパティ」を見てみましょう。
「アプリケーション」の設定はそのままですが、「PDF変換」の表示が「Acrobat Distiller11.0」に変わりました。
PostScriptとDistiller
さて、今回の操作で使用したPostScriptとDistillerについて、かなり大雑把ではありますが説明しておきます。
PostScriptとは、現在では商用印刷で当たり前になっているDTPの根幹技術です。ページ記述言語と呼ばれ、アプリケーションで作成したデータを、PostScript対応プリンタから美しい出力をするために記述される言語で、PostScriptファイルとは、本来プリンタに送られるデータをファイルで保存したものです。
このPostScriptを、印刷用途だけでなく、画面出力に応用したのがPDFです。Distillerは、PostScriptファイルをPDFに変換するためのアプリケーションです。
PDFやAcrobatが登場した頃は、高品質なPDFはアプリケーションからPostScriptファイルを書き出して、Distillerで変換していました。
私の経験としては、このPostScriptファイルの書き出しがなかなかうまくいかず、Distillerでの変換でエラーを起こしたり、思ったようなPDFが作成できなかったこともしばしばありました。
やがてAcrobatが進化し、PostScriptファイルを生成しなくても、アプリケーションから直接PDFを作成するための「PDF Library」が登場しました。現在ではほとんどのPDFがPDF Libraryを使用して作成されています。
PDFによってはファイルサイズが大きくなることもある
今回は、Illustratorで作成したPDFを使って説明しました。
もちろん、PostScriptファイルとDistillerでのPDF生成は、他のアプリケーションで作成したPDFでも利用できます。
ただし、ファイルサイズが小さくならないこともあります。
Illustratorで作成したPDFは、ほとんど、今回の方法でファイルサイズが小さくなりました。
しかしWordから生成したPDFでは[最適化されたPDF]で最適化したほうが小さくなりました。
また、Distiller経由で作成したPDFは、「しおり」がなくなるなどの、使い勝手が悪くなることもあります。
読み手があってのPDFですから、TPOを考えてファイルサイズを縮小することを心がけてください。
Distillerの設定
最後ですが、Distillerの操作について簡単に説明します。
DistillerでPDFを生成するには、PostScriptファイルをDistillerにドラッグするだけです。
PDFの変換は、デフォルト設定で選択されたプリセットが使用されます。プリセットは、AcrobatやMicrosoft Officeアプリケーションで作成したプリセットと共通なので、使い慣れたものを選択できます。
また[設定]メニューの[Adobe PDF設定の編集]で、設定内容を編集できます。
[設定]メニューの[セキュリティ]で、PDFのセキュリティを設定できます。