ビジネスの現場でPDFファイルは、文書を配布する際に利用されています。昨今はスマートフォンやタブレット端末などのモバイルデバイスでもPDFを閲覧できるようになり、ますます利用シーンが広がりました。PowerPointなど画像を貼り付けることが多いOfficeアプリケーションのファイルでは容量が大きくなりすぎてメールで送りづらい……といった場合にも、PDFにすることで軽量化ができるほか、編集や印刷をされないようにしたい場合にも多く用いられています。
Adobe AcrobatをインストールするとWordやExcelなどのOfficeアプリケーションに自動的にPDF作成機能が追加されるため、普段は何気なく「PDFを作成」している人も多いと思います。実はPDFは、「軽量化したい」「編集されないようにしたい」「長期保管できるようにしたい」など、用途に応じて詳細な設定を行うことができます。連載1回目は、この「設定」をマスターして、より便利にPDFを活用するための方法を紹介しましょう。
作成時に「PDF設定」してますか?
Acrobatのユーザーの多くがWordやExcelなどのMicrosoft OfficeアプリケーションからPDFを作成する際に、リボンの「Acrobat」タブから[PDFを作成]をクリックしていると思います。しかし、その横にある[環境設定]の内容を確認しているでしょうか?
「環境設定」をクリックすると「Acrobat PDFMaker」ダイアログボックスが表示されます。のダイアログボックスで、作成するPDFに対してさまざまな設定が行えます。
特に重要なのが「設定」タブの「PDF設定」です。「PDF設定」は、作成するPDFに含まれる画像の品質、使用されているフォントの埋め込み、カラーモードなど、文書からPDFを作成する際の詳細な設定のプリセットで、用途に応じた品質や規格に合うように簡単に作れるようにしてあります。
メニューにはたくさんのプリセットが表示されますが、ビジネス用途として使用するのは「標準」「高品質印刷」「最小ファイルサイズ」の3つと考えてよいでしょう。ちなみに「PDF/A」は長期保存を目的とした規格であり、「PDF/X」や「プレス品質」は商用印刷を目的とした規格、「オーバーサイズページ」は、200×200インチ以上の図面用です。
これ以外にも、独自のプリセットを定義することもできますが、それについては別の機会に説明します。
PDFのファイルサイズは、作成時に選択した「PDF設定」によってかなり変わります。特に、画像を多く含む文書の場合は、その差が大きくなります。「PDF設定」のデフォルトは「標準」になっていまするが、これを「高品質印刷」や「最小ファイルサイズ」に変更してPDFを作成してみてください。文書に写真などの画像が入っている場合は、ファイルサイズはかなり変わるはずです。「高品質印刷」で作成したPDFはフィルサイズが大きく、「最小ファイルサイズ」で作成したPDFはファイルサイズが小さくなります。
ファイルサイズは画像の画質によるところが大きい
「PDF設定」のプリセットによる画質の違いは、PDFを拡大表示するとよくわかります。
下のサンプルは、「高品質印刷」「標準」「最小ファイルサイズ」の3つのプリセットを使って作成したPDFを200%に拡大した画面です。
このように、「PDF設定」のプリセットによって、画質は大きく変わります。
「高品質印刷」は画質がよくなりますが、ファイルサイズは大きくなります。「最小ファイルサイズ」は画質は悪くなりますが、ファイルサイズは小さくなります。「標準」は、2つのプリセットの中間となります。
PDFのファイルサイズは、画像の品質とトレードオフの関係であることを覚えておきましょう。
プリセット | 画像の品質 | ファイルサイズ |
---|---|---|
高品質印刷 | 高い | 大きい |
標準 | 普通 | 普通 |
最小ファイルサイズ | 低い | 小さい |
コンテンツの内容に応じて使い分けることが重要
どのプリセットを使うのがよいかとなると、とても難しい選択となります。
メールや配布する場合、スマートフォンなどのモバイルデバイスではファイルの上限が設定されている場合もあるので、ファイルサイズは小さい方がよいでしょう。しかし、画像が重要な文書であれば、「標準」や「高品質印刷」を使ってPDFを作成する方がベターとなります。
PDFにする文書の内容を見て、画像の品質がそれほど重要でなければ、できるだけファイルサイズを小さくする「最小フィルサイズ」を選択するのがよいことになります。画像が重要であれば「標準」や「高品質印刷」を選択すればよいでしょう。「最小ファイルサイズ」で作成したPDFを実際にプリントアウトして、確かめてみるのもいいでしょう。
また、特定の人にメールでPDFを送信するなら、ファイルサイズの小さなPDFを送り「ファイルサイズを小さくするために画質を落としていますが、必要なら高画質版も用意できる」などの断り書きを入れておいたり、画質優先のPDFを送ったりするのであれば「画質を優先したいのでファイルサイズが大きくなる」などの断りのメールを入れるとよいでしょう。
Webで配布する場合は、高画質版と低画質版というようにPDFを別に用意しておき、配布時に選択できるようにするなどの配慮をすることも重要です。
作成方法によって異なる「PDF設定」の設定場所
ここまでは、Microsoft Officeの「Acrobat」タブからPDFを作成する際の「PDF設定」のプリセットの選択方法について説明しました。
PDFの作成方法には「Acrobat」タブの「PDF作成」以外にも、Acrobatから元文書を選択してPDFに変換したり、Windowsエクスプローラーの右クリックによるコンテキストメニューから作成したりする場合などもあります。これらの方法で作成する場合、Microsoft Officeアプリケーションの「Acrobat」タブの「環境設定」ではなく、「Acrobat」本体の[環境設定]で設定します。
Acrobatを起動し、「編集」メニューから「環境設定」を選択します。「環境設定」ダイアログボックスが表示されるので、「分類」から「PDFへの変換」を選択します。ダイアログボックス右側が「PDFへの変換」に変わり、リストが表示されます。ここで元文書となるファイル形式やアプリケーションを選択します。Wordなら「Microsoft Office Word」を選択します。「設定を編集」をクリックすると「Adobe PDF設定」ダイアログボックスが表示され「Adobe PDF設定」で「PDF設定」のプリセットを選択できるようになります。プリセットの内容は、Microsoft Officeの「Acrobat」タブの「環境設定」をクリックして表示した「Acrobat PDFMaker」ダイアログボックスの「PDF設定」と同じです。
要するに、Word、Excel、PowerPointなどのMicrosoft Officeの文書をPDFに変換する場合、作成方法によって適用される「PDF設定」の設定場所が以下のように2カ所あるということです。
Microsoft Officeアプリケーションの「Acrobat」タブから作成する場合(Microsoft Office2010の場合「ファイル」メニューの「Adobe PDFとして保存」も含む) | 「Acrobat」タブの「環境設定」をクリックして表示した「Acrobat PDFMaker」ダイアログボックスの「PDF設定」 |
---|---|
上記以外の方法で作成する場合(Acrobatの「ファイルから作成」など) | 「Acrobat」の「環境設定」の「PDFへの変換」 |