この連載では、国際標準の電子文書フォーマットである「PDF」と、PDFの開発元であるアドビが提供するPDFツール「Adobe Acrobat」ファミリーを活用して、テレワークや「業務のデジタル化」をよりスムーズに進め、生産性を上げるためのヒントを紹介しています。今回のテーマは「文書のレビュー」です。

「メール添付」の習慣を見直してみませんか?

仕事の中で、自分が作成した企画書や提案書を、チームの他のメンバーにレビュー(チェック)してもらうことがあります。その際、レビューしてほしい人(レビュアー)に依頼のメールを書き、そのメールに文書ファイルを「添付」するという方法をとることが多いと思います。この方法は、たしかに手軽ではありますが、レビュー後の修正や、文書を管理する工程までを考えるとデメリットもあります。

レビュアーが1人だけならば、それほど問題にはなりませんが、もし複数名に同時にレビューを依頼した場合、レビューの結果は人数分の文書ファイルとして手元に戻ってきます。依頼者は、複数のファイルに別々に書き込まれたコメントや修正履歴などを突き合わせながら、漏れのないように元文書に反映して、最終版の文書に仕上げなければなりません。経験したことがある人には分かると思いますが、この作業はかなり面倒で、ミスも起こりがちです。

また、複数の人に「メール添付」で文書を送るという行為は、元となる文書ファイルの「コピー」を多数作ってしまうことにつながります。レビュアーが多くなればなるほど、また、レビューの回数が増えれば増えるほど、最終版以前のさまざまな段階にある文書のコピーが、多くの人の手元で増えていくことになります。すべてのレビュアーが手元できちんと文書のバージョンを管理できていればいいのですが、そうでない場合、うっかり以前のバージョンの文書を参照してしまうようなミスも起こりやすくなります。

そのため、近年では文書のレビューにクラウドを使うケースが増えてきています。アドビが提供しているAdobe Acrobat DCにはクラウドサービス(Document Cloud)が付いており、クラウドに保存したPDF文書の共有やレビューを効率的に行うことができます。

文書の共有やレビューに、Document Cloudを利用すると、先ほどの「メール添付」によるレビューにあったような「レビュアー数分の文書ファイルを突き合わせてコメントを確認しなければならない」「レビュアー数や回数が増えるごとに、異なるバージョンの文書のコピーが増えていく」といったことがなくなります。

  • Document Cloudで文書レビューの工程やレビュー後の作業を効率化する

Acrobat DCからクラウド経由で文書レビューを依頼

では、実際に「Acrobat DC」を使ったレビューを試してみましょう。まず「レビューを依頼する人」については、「Acrobat DC」もしくは、「Acrobat Reader」を利用するためのAdobe IDを持っている必要があります。(この機能は、無償版のAcrobat Readerと有償版のAcrobat DCのどちらでもご利用いただけます)

この連載の第1回で紹介したiOS/Android向けのアプリ「Adobe Scan」を利用した場合、Adobe IDでログインすれば、無償ライセンスでも「Adobe Scanを使ったPDFの作成」と「Document Cloud上へのPDFの保存と共有」は可能です。ただし、オフィスアプリケーションで作成した文書のPDF化や編集、他のオフィスファイルへの変換といったビジネス向けの機能をフル活用するためには、Acrobat DCの有償ライセンスが必要になります。

Acrobat DCの個人向けライセンスは、サブスクリプション形式となっており、すべての機能を使える「Pro版」が1580円/月、PDFの差分比較といった一部の機能が省かれた「Standard版」が1380円/月からとなっています(いずれも年間契約の場合)。Adobe IDを取得すれば、7日間の無料トライアルも可能ですので、もし、これから紹介する機能を試してみたい場合には、それを利用する方法もあります。

ここからは、レビューを依頼する人がPC向け「Acrobat DC」(ProあるいはStandard)の画面を使って説明いたします。(*Acrobat Readerでも同様の機能がご利用いただけます)まず、Acrobat DCの「PDFを作成」機能で、レビューしてほしい文書のPDFを作成します。

Acrobat DC上にPDFが表示された状態で、ウインドウ右上の「このファイルを他のユーザーと共有」アイコン(画像内赤枠)をクリックしてみましょう。すると、レビュアーの「メールアドレス」と「依頼文」を入力する画面が現れます。

  • PDFを開いた状態で「このファイルを他のユーザーと共有」をクリック

ここに、レビュアーのメールアドレスを入力します。もし、レビュアーが複数人いる場合は、人数分のアドレスを入れてください。入力欄の下にある「注釈を許可」スイッチがオンになっていることを確認したら「送信」ボタンを押します。

  • 依頼したいレビュアーのメールアドレスと依頼文を入力する

すると、Acrobat DC上で開いているPDFがDocument Cloud上にアップロードされ、そのリンク先URLと、先ほど入力した依頼文が、Document Cloudから依頼先のユーザーに送信されます。レビュアーには、以下のようなメールが送信され、「開く」をクリックすると、Document Cloud上のPDFを見ることができます。

  • レビュアーに「Document Cloud」からリンクの入ったメールが送られる

依頼されたレビュアーには「Acrobat」も必要ない!

ここからはレビュアーのターンです。依頼されたレビュアーにはライセンスは必要なく、ブラウザーもしくは、無償の「Acrobat Reader」から文書にコメントを追加することができます。

ここが「Document Cloud」のユニークな点なのですが、レビュアーがPCを利用している場合、送られてきたメールのリンクをクリックするとWebブラウザーが立ち上がり、ブラウザー上で文書の内容を確認しながら、レビュー用のツールを利用することができます。

  • PCのWebブラウザーでレビュー用のPDFを開いた状態。コメントの確認や入力などは、Webブラウザーだけでもできてしまう

もちろん、PCに「Acrobat Reader DC」や「Acrobat DC」がインストールされていれば、画面上にある「Acrobatで開く」ボタンをクリックすることで、Acrobat上でレビューすることもできます。ちなみに、モバイル版のAcrobat Reader DCがインストールされているiOS/Android環境で、メールのリンクをクリックすると、自動的にAcrobat Reader DCが起動し文書が開かれます。

  • Android用の「Acrobat Reader DC」でレビュー用のPDFを開いている。コメントの入力ももちろんできる

レビュアーが、依頼者が入力したメールアドレスと同じAdobe IDでログインしていれば、Acrobatの通知領域に「レビューを依頼された」旨のメッセージが届き、そこから直接、レビューする文書を開くこともできます。

  • レビュアーがAcrobat Reader DC、Acrobat DCにログインしていれば、文書がレビュー用に共有されたことが通知される

レビューに利用できるツールは、ブラウザーとAcrobat Reader DC(PC版/モバイル版)、Acrobat DCで同等です。ツールは文書が表示されている領域の上部中央(モバイル版では下部)にアイコンとして並んでおり、「ノート注釈を追加」「テキストのハイライト表示」「テキストへの下線追加」「テキストへの打ち消し線追加」「描画」といった機能が利用できます。

  • PC、モバイル、Webブラウザーの、どの環境でもレビュー用のツールは同じものを利用できる

コメントは「ノート注釈を追加」アイコン(左端の吹き出し状のアイコン)をクリック(タップ)した状態で、コメントを残したい部分をクリック(タップ)することで入力でき、依頼者や他のレビュアーと共有されます。他のレビュアーが残したコメントへの「返信」の形でコメントを残したり、Twitterのように「@」を付けたユーザー名を使って、ユーザー指定のコメントを入力したりすることもできます(メンション機能)。もし依頼者が新たなレビュアーを追加したくなった場合は、コメント画面上でメンション機能を使ってメールアドレスを追加し、招待メールを送ることもできます。

レビュアーは、それぞれに作業を終えたら「完了」のボタンを押します。依頼者は、Acrobatの画面上で招待したレビュアーが文書を開いたかどうか、最終アクセスの日時がいつかなどを確認できるようになっていますので、全員のレビューが済んだら共有を解除します。その後は、全レビュアーのコメントをまとめて見ながら、最終版となる文書を仕上げていくことができます。

  • 文書に付けられた全レビュアーによるコメントを一覧できる

現在、こうした「クラウドによる文書レビュー」が可能なサービスは多数あります。Document Cloudならではのメリットとしては、PDFの開発元であるアドビの技術を生かし、PC、モバイル、Webブラウザーなど、どの環境からアクセスした場合でも、高い再現性、同一性でPDFの閲覧が可能な点が挙げられるでしょう。特にレイアウトやデザインの再現性に意味のある文書の共有やレビューに威力を発揮します。

また、Document Cloudでレビューを行うにあたり「レビュアーには、ライセンスやAcrobatが必要ない」点を意外に感じた人もいると思います。理想的には、作業に関わるすべての人がPDFの作成や編集、レビュー依頼を自由にできるライセンスを持っていることが望ましいのですが、それが難しい場合、例えば、ライセンスを持たない社外の人にレビューをお願いしたい場合などにも、Document Cloudを使うことで効率的にレビューが進められるケースは多いはずです。

  • レビュアーはAcrobatとブラウザーのどちらからでもPDFを確認できる

デリケートな情報を含むPDFの共有時に使いたい「墨消し」

今回、文書のレビューを行う際に便利な「Acrobat DC」のクラウドサービスを使った機能を紹介しました。OSやデバイスなどの環境を問わず閲覧できるPDFは、社内だけでなく、社外の人とのコラボレーションにも使い勝手が良いフォーマットです。しかし、特に社外の人と作業する場合には「文書上のここにある情報は見せたくない」ということもあると思います。その際に利用できるのが「墨消し」です。この「墨消し」は、フル機能版の「Acrobat Pro DC」でのみ適用できます。

まず、Acrobat DC上でPDFを開き、「ツール」タブの「墨消し」のアイコンをクリックして呼び出します。墨消しツール内にある「テキストと画像を墨消し」をクリックし、PDF上の消したい部分を範囲選択して「適用」ボタンを押すと、選択した部分が黒く塗りつぶされ、見えなくなります。この機能のポイントは、単に表示上で見えなくなっているだけでなく、PDFの内部からも、該当する範囲の情報が完全に消去される点です。

  • 「墨消し」はAcrobat Pro DCでのみ適用できる機能

  • 「テキストと画像を墨消し」をクリックして、消したい部分を選択する

  • 「適用」をクリックすると、表示が黒く「墨消し」され、該当部分のデータがPDF内部からも消去される

第1回で紹介しましたが、Acrobat DCにはPDFを「編集」する機能があります。そのため、PDF内に部分的に見せたくない個所がある場合、その上に「黒い画像」を張り込んで保存し、「墨消し」の代わりにしているようなケースもまれに見受けられます。この方法では、見かけ上は見えなくなっていても、文書自体が持っているデータは消去されていません。PDFを閲覧する人がAcrobat DCを持っていれば、再度「編集」することで、画像の下にある情報を見ることができてしまうのです。もし、そうしたデリケートな情報を含む文書をPDFとして外部に出すのであれば、必要に応じて、忘れずにAcrobat Pro DCの「墨消し」機能を使い、漏えいを防ぎましょう。

次回は、社内での申請や稟議のような業務プロセスを、PDFとAcrobat DCを使って効率的に進める方法を考えます。

立川太郎

アドビ株式会社 マーケティング本部 キャンペーンマーケティングマネージャー

アドビにてドキュメントクラウド製品のマーケティングを担当。アドビ製品の使い方や裏技を教えるためのセミナーを社内外で開催。