第一章では、「EMCとはそもそも何か?」と用語の意味について紹介した。ラジオやテレビといった家庭内での受信障害を始まりとし、世界各国で受信障害を無くすためにEMC規制が開始された経緯とその後のEMC問題もすでに述べた。第二章では、EMCの規格にはどのようなものがあり、どのように決められているかを説明していきたい。
EMC規格には、一般的にEMCの測定方法、測定機器の仕様、試験結果の合否判定の基準が記されている。規格は下記の4種類に分類されている。
製品に規格を適用する際、法律や業界などによって指定された適用規格がある場合とない場合がある。製品に指定された製品規格があればそれを優先し、ない場合には製品群規格、共通規格、基本規格の順に使用する規格を選択する。
次に、国際規格と地域規格について紹介したい。
国際規格
EMC規格の多くは、IEC及びCISPRで作成、発行されている。IECとは、International Electrotechnical Commission (国際電気標準会議)の略称で、電気・電子の技術分野における標準化と国際協力を目指して1908年に発足した審議組織である。ここではEMCだけではなく、さまざまな分野の規格を制定しているが、EMCに関連する規格は、その中でもTC77というIEC組織内の専門委員会(TC: Technical Committee)で制定される。
一方、CISPRは正式名称をInternational Special Committee on Radio Interference(国際無線障害特別委員会)と言い、名前の通り、無線障害に関する国際的な合意および国際貿易の促進を目的に設立されたIECの特別委員会である。主に高周波妨害の規格を制定している点で、イミュニティ基本規格、低周波妨害のエミッションに対する規格を制定しているIECTC77とは役割が異なる。またCISPRに関しては、内部に小委員会を持ち、製品群別の規格を発行している。(下組織図参照)
地域規格・規制
これまで説明してきたIEC、CISPRのような国際規格とは別に、地域規格・規制も存在する。主な地域規格は文末の表で紹介しているが、中でも代表的な欧州、アメリカ、日本について説明する。
・欧州(EU)
EU市場では1996年1月よりEMC指令への適合が強制化された。EMC指令とは、製品分野ごとに、「必須要求事項」と呼ばれる要求を規定したものであるが、指令の要求事項に適合した製品であれば、EU域内での自由な流通が認められる。必須要求事項は詳細な技術要求ではなく、製品がEMCの技術基準を満たすことと、適合を表示する手段としてCEマーキングを用いることなどを記載している。技術基準としては、一般的に国際規格を参照した欧州整合規格(EN規格)が使用される。
・アメリカ
FCC(Federal Communications Commission:米国連邦通信委員会)がCFR47という規則を発行し、無線周波機器またはそれらの構成部品に対し技術基準を規定している。CFR47はPart0~Part90に分かれ、主なEMC関連規定に、Part15「無線周波装置」、Part18「ISM機器」、Part2「無線周波数機器一般規定」などがある。また、各パートの中にサブパートがあり、機器の種類別に規定がされている。
参考までに、下にFCC Part15の構成を記す。
・日本
日本での使用を意図した一般向け電気製品の多くを対象として規制しているのは電気用品安全法である。特定電気用品(112品目)と非特定電気用品(340品目)として指定された品目に対して、製造者や輸入者は製品が規格へ適合していることを確認し、ひし形PSEまたは○型PSEのマークを表示させるなどの義務がある。その際使用される規格は、IEC国際規格に基づくものが認められる。
また、法律以外では、情報処理機器に対し、VCCI(情報処理装置等電波障害自主規制協会)がEMCに関して自主的に規制を行っている。製造者による自主的な団体ではあるが、加入製造者に対してはVCCIの要求を満足することが要求される。VCCIの技術基準は、国際規格CISPRを参照している。
次回は、EMC試験についての基礎知識を紹介していきたい。
参考文献:
主要国EMC規制と試験概要 (UL Apex Co.,Ltd)
EMC入門講座 電子機器電磁波妨害の測定評価と規制対応 (山田和謙、池上利寛、佐野秀文)
「世界のEMC規格・規制」(2014版)I.各国規格・規制の位置付け (VCCI協会 内田由紀夫/村田製作所 伊藤 陽一郎)
国際標準化(ISO/IEC)・地域標準化活動 https://www.jisc.go.jp/international/index.html (日本工業標準調査会)
著者紹介:UL Japan
2003年に設立された、世界的な第三者安全科学機関であるULの日本法人。現在、ULのグローバル・ネットワークを活用し、北米のULマークのみならず、日本の電気用品安全法に基づく安全・EMC認証のSマークをはじめ、欧州、中国市場向けの製品に必要とされる認証マークの適合性評価サービスを提供している。詳細はUL Japanのウェブサイトへ。