前回は、オムニチャネル化の流れの中で必須となるPOSとの連携とその利便性、またショールーミングなどの特徴的な流れについて述べた。今回は、顧客の離脱抑止や顧客体験の向上などに重要な役割を果たす「アプリ接客」について、各企業がアプリ内で実現している特徴的な接客機能について説明したい。
「アプリ接客」とは何か?
ECサイトにおいて、商品選定やフォーム入力時の離脱を防ぎコンバージョン(購入)を増加させるための施策として、サイトへのクーポン表示やチャットによるサポート、ユーザー毎のメッセージングを実現させるためのツールを総称して「Web接客ツール」と呼ぶ。
もっとも、既に集客を目的に構築された店舗の公式アプリでは、これらの機能は実装されているケースがほとんどである。とするならば、「アプリ接客」とは一体どのような機能を指すのだろうか。
答えは、スマートフォンやアプリ特有の機能を活用し、「これまでアナログな手段で行われていた接客フローをデジタル化し、より顧客の利便性を向上する機能」「アプリ上でなければ享受できない限定的なオファーや機能」の2つと言える。
以下、それぞれの機能について、実際のアプリ上における機能の実例から、ねらいや効果について見ていきたい。
「集客」の後の「接客」をフォローし、不可欠な存在へ
前者の機能の例として、「塚田農場」と「ZARA」を紹介しよう。
塚田農場
本連載第7回でも触れた「塚田農場」のアプリは、店内での接客フローの電子化を主眼に作成されている。
具体的には、顧客それぞれが「名刺」を持参し、来店回数に応じて「役職」が昇格する。顧客の「役職」や来店状況などに応じた情報発信が可能であるほか、アプリの閲覧内容や顧客の注文内容などをデータ化し、嗜好に合わせた情報発信を可能としている。
塚田農場に限らず、ポイントカードは顧客がなくす・忘れるなどして、実際の利用時に保持していないケースが多く、店舗・顧客それぞれの機会損失となってしまう。
そこで、データを電子化すれば、故意にアプリをアンインストールしない限り、かさばらずに名刺を保持していることになる。また、アプリ内のアンケートにより顧客サービス時の詳細な嗜好を店舗スタッフが取得でき、「ジャブ」と呼ばれる顧客へのサービスにも生かされている。
ZARA
前回の連載で「ショールーミング」について述べたが、ZARAの公式アプリもショールーミングを意識し、バーコードによる商品情報の読み取りが可能となっている。
例えば希望のサイズ、カラーが欠品の場合や、持ち帰りの手間を省きたい場合など、店頭の商品バーコードを読み取って情報を保存し、最終的にECサイト(アプリ)経由で購入することも可能だ。また、平日はカスタマーサポートとのチャットも用意されており、チャネルを問わず購入することが可能となっている。
顧客の来店意欲を高める期待感のあるオファーや機能
後者の機能を実現しているアプリとしては、「Club J.LEAGUE」と「相鉄フレッサイン」を紹介しよう。
Club J.LEAGUE(Jリーグ公式アプリ)
リーグ発足から四半世紀を過ぎ、J3のクラブ組織まで含めれば実に50近くのチームが加盟しているプロサッカー・Jリーグだが、J1所属の鹿島などの人気クラブ以外に、下部のリーグでは動員に苦戦するクラブが存在する。
経営難に見舞われたJ2・Vファーレン長崎が、ジャパネットたかたを日本有数の企業に育て上げた高田明社長により急激な成長を遂げJ1への昇格を決めたのは最近の話だが、それだけ経営に窮するクラブがあることも事実である。
その中で、Jリーグの各クラブサポーター向けとして制作された同アプリは、リーグ公式アプリとしてよりも、各クラブのオフィシャルアプリとしての色合いが強いと言える。
スタジアムへのチェックインや、提携パートナーのイオン店舗へのチェックインで「メダル」と呼ばれるポイントが貯まり、ポイント数に応じてキャンペーンへの応募などが可能となっている。また、スタジアム内ではアプリ経由でのみ閲覧可能な動画が再生されており、試合観戦の傍ら楽しむことができる。
単純に特定のクラブの動員だけでなく、アウェイとしてライバルクラブの本拠地で観戦することも想定されたチェックインプログラムとなっている。
相鉄フレッサイン
大手私鉄の相模鉄道のグループ企業で、神奈川県内だけでなく東京都内などに積極的な出店を行っているビジネスホテル・相鉄フレッサインの公式アプリでは、チェックイン後客室のドアにアプリをかざすとドアを解錠できる仕掛けが備わっている。
スマートホテルキーの機能は、世界最大のホテルチェーンであるマリオット・インターナショナルの公式アプリでの導入例があるが、ビジネスホテルチェーンでの導入はまだ珍しい。チェックインの煩わしい手続きを排し、スムーズな利用を促すことで顧客満足度の向上が図られている。
「集客」「接客」のバランス良い運用がアプリの活性化を生む
店舗の公式アプリにおいては、クーポンやスタンプカードなどの特典施策や、イベント・キャンペーンなどの継続的な告知が重要だが、この数年で多くの店舗でアプリなどによる再来店の告知が普及し、店舗への送客を図るだけではアプリの役割としてはもはや不十分と言える。
「アプリ接客」とは店舗滞在時の顧客体験を飛躍的に向上し、顧客の「常連化」を促すために欠かせない機能といえる。「集客」と「接客」をバランスよく盛り込み、長期的なPDCAによる運用がアプリの活性化、ひいてはリピート顧客を生み出すのである。
著者プロフィール谷内 亮介
GMO TECH株式会社 O2O事業部 メディアプロデュース部 マネージャー。大学卒業後、私立大学事務局や広告代理店などの勤務を経て、2013年に株式会社ぐるなびへ入社、ビッグデータ・O2Oを用いた販促商品企画に携わる。2016年3月に当社入社。O2Oアプリ作成ASPサービス「GMOアップカプセル」の企画・プロモーション・アライアンスを担当。