「IoT」や「AI」、これらのキーワードは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現において、密接なつながりを持つキーワードの一つです。そして、最近では「5G」といった無線の技術についても、DX実現の要素として注目を浴びています。企業はこれらのテクノロジーを用いることで、自社のDX実現に向けて、各種施策を進めていることでしょう。

本連載では「製造業におけるデータ利活用」をテーマに、これからのビジネスを支えるために必要不可欠となるIT基盤とは何か、そのシステムに求められるポイントについて紹介します。

Appleが開発するARヘッドセットなど、昨今なにかと話題のスマートグラス。こと製造現場においても、働き方改革の一環としてスマートグラスを検討する企業が、ここ数年でかなり増えてきています。

お試しのデバイス導入で終わらせることなく、スマートグラスでDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現していくには、どのような観点での検討が必要になってくるのでしょうか。今回は、第3回として「スマートグラスと製造DX」をテーマに内容をお届けします。

コロナ禍で注目されるスマートグラス

もともとスマートグラスは、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などのテクノロジーの側面から、トレーニングや製品開発・現場の人材育成など、将来的な業務活用が期待される分野でもありました。

しかし、コロナウイルスが蔓延し始めた2020年頃より、海外渡航の規制、国内移動の制限や、感染対策として密を回避するため、離れた場所から従来の業務(あるいはそれらの支援)を行うといった、これまでにはなかった新たな必要性が出てきました。

今後、このような困難が多い不安定な時代に対応していくためにも、企業は早急な働き方改革の対策が求められています。その手段として、スマートグラスを活用した遠隔支援が注目されたことは自然な流れのように思えます。

スマートグラスはソフトとハードを組み合わせて使用

スマートグラスと一概に言えど、片目でディスプレイを見る「スカウター」タイプや、サングラスのように両目でディスプレイを見る「シースルー」タイプがあり、また用途を見てもコンシューマー向けのものや、防水防塵に対応した産業用のものなど、その種類は多岐にわたります。

加えて、スマートグラスには専用のソフトウェアもあり(例えば、遠隔で作業指示を行うためのものや、ARコンテンツを開発・利用するためのものなど)、実際の業務利用においては、これらのソフトウェアとスマートグラス本体(ハードウェア)を組み合わせて使用することになります。

それぞれのハードウェア・ソフトウェアが得意とする技術領域、またハードウェア・ソフトウェアの組み合わせも数多くあるため、実際にスマートグラスの検討を進める際には、利用目的に合わせいくつかのパターンを比較検討することが必要になってきます。

  • スマートグラスの種類と構成

Web会議システムとスマートグラス専用ソフトウェアの違い

Microsoft TeamsやCisco Webex Meetingなど、一般的なWeb会議のアプリケーションをスマートグラスで利用することも可能です。しかし、これらのアプリケーションは会議などでの利用を想定されたコミュニケーション機能がメインのため、現場業務への活用を想定すると少々機能が不足します。

特に遠隔での業務支援において、口頭で細かい作業を指示するには限界があるため、「支援を行う側」からするとポインターや描画で指示が行えるスマートグラス専用ソフトウェアの方が、痒い所に手が届くと思います。

  • Web会議システムとスマートグラス専用ソフトウェアの違い

製造業DXの実現にはどのような検討が必要か

ここまでスマートグラスの概要についてお伝えしましたが、製造現場から見るとスマートグラスもPCやタブレットのような、単なる1つのデバイスに過ぎません。

他のデバイスとの違いを生かし、実際に製造現場でスマートグラスを活用するためには、下記の3つの観点を押さえながら検討していくことが重要だと考えます。

(1)スマートグラスのユースケースを想定する (2)スマートグラスから取れるデータの活用を考える (3)スマートグラスを利用するうえでのITインフラを整える

  • スマートグラス検討において重要な3つのポイント

「(1)ユースケースを想定する」については、スマートグラスメーカーからの国内外の事例も参考にしながら、まず直近はどの業務で検証し利用してみるのが良いか、将来的にはどの業務に活用ができそうなのか、想定されるユースケースの検討が非常に重要です。

このユースケースの想定は多くの企業が既に検討されているかと思いますが、加えて製造現場での活用のためには、(2)と(3)の観点も外せない検討の要素となります。

「(2)データの活用を考える」について、部門を超えた全社的なデータ活用の実現となると、組織間の連携など一般的に多くの課題もあり、一足飛びでは実現が難しいかと思います。そのため、まずは(1)でスマートグラス利用を想定した業務の範囲から取り組んでいきます。

スマートグラスを利用すると作業中の画像、映像、タイムスタンプなどの作業ログが取得できるため、これらの取得したデータを「どう製造現場の業務に還元していくか」という観点が重要です。

そして(1)と(2)で検討したことを実現するため、「(3)ITインフラを整える」でスマートグラスを有効活用できるような通信環境、工場ネットワークやデータ活用の基盤を含めたITインフラ全体でアーキテクチャーを検討します。

特にネットワークは、現場の映像がどれだけ鮮明に見えるか、音声が途切れずクリアに聞こえるか、それらの通信にどれだけ遅延が発生するかなど、遠隔支援の品質を大きく左右するITインフラとなってきます。しかしながら多くの場合、映像や音声など通信の品質が悪いと「スマートグラス自体があまり良くない」という印象になってしまいがちです。

この問題は、前述の(1)と(2)のポイントとITインフラ、特にネットワークの設計・構築を同期せず個別で検討しているため、既設のインフラありきでスマートグラスを評価してしまうことから発生します。

以上、今回は「スマートグラスと製造DX」をテーマに、スマートグラスを活用するために本当に必要な3つの検討ポイントをご紹介しました。「本当に必要なアーキテクチャー」の全体像を検討することが、DX実現に向けた一助となると考えております。

製造業におけるスマートファクトリーの実現に向け、当社のサイトで情報をご提供しております。こちらをご覧いただけると幸いです。

次回は、「製造現場のセキュリティ」をテーマに、安心、安全な製造DXを支えるネットワーク,セキュリティについてご紹介します。こちらもお楽しみに。

著者プロフィール


高橋 拓志(タカハシ タクシ)


ネットワンシステムズ株式会社 セールスエンジニアリング本部 市場戦略部


データ活用・システム運用関連の独立系ソフトウェアメーカーに新卒入社。インサイドセールス、フィールドセールスを経験したのち、2020年にネットワンシステムズへ入社。以来、スマートファクトリー領域における顧客支援、市場調査、ソリューション企画、デジタルマーケティングなど幅広い業務に従事。