前回、全日本空輸(以下、ANA)の整備部門では、Kaseyaを利用し、Windows PC、全2,500台の設定変更をリモートで行うプロジェクトを成功させたことをお伝えした。今回は、このプロジェクトの実際の作業を行ったANAシステムズの担当の方に、プロジェクトを成功に導くポイントを伺ったので紹介しよう。

ハードウェアトラブルやエンドユーザーとの意思疎通がカギ

ANAの整備部門では、もともと独自のシステムを構築し運用していたが、システム更新に伴い、ANAグループ共通のシステムにアクティブディレクトリ(AD)のドメインを統合することになり、各PCの設定を変更する必要に迫られた。実際の作業は、Kaseyaのスクリプトを実行することで、リモートから自動で行ったという。

同社が移行作業を行う中で障害となったのは、エンドユーザーとの意思疎通だったという。

ANAシステムズ サービス推進部 国内統括チーム リーダー 小林明弘氏

「たとえば、どの端末の処理が終わっているのかどうかがわかりづらい、という指摘がありました。オンサイト作業ならば端末操作をしている人がいるので、一目でどの端末が完了したのかがわかりますが、リモート作業だとそれがわかりづらい面があります。実際は作業中に画面の色が変わるようにしてあったのですが、そのあたりも全員にうまく周知できず、リモート作業中にエンドユーザーが使い始めてしまったケースもありました」と、ANAシステムズ サービス推進部 国内統括チーム リーダー 小林明弘氏は語る。

また、Kaseyaでの自動化作業を行うためには、あらかじめ端末の電源を入れておく必要があるが、業務終了後に電源を入れたままにしておいて欲しいという要望が伝わらず、普段どおりに電源を落とされてしまうこともあった。

「ハードウェア的なトラブルで作業中に再起動をかけたら起動しなかった、というようなこともありました。障害発生時、翌日対応では厳しい部署に関してはオペレーターに現場で待機してもらい、様子をみながら作業しましたが、電源が入っていない、再起動できないというようなハードウェア面での問題が出るとKaseyaではどうにもできません。スムーズな作業のためには、そうした事前通知が重要だと感じました」と小林氏は振り返る。

同社では、業務に影響を与えないように、夜間に作業を行ったが、最終的には、1日あたり100~150台の端末を処理していた。この台数は、トラブルが発生した場合でも、対応可能なある程度余裕をもった数字だという。ただ、実際の作業でのシステム起因のエラー率は数%だったという。

1,000台規模、800台規模の別プロジェクトでもKaseyaを活用

ANAシステムズでは、今回のプロジェクトでの実績を踏まえ、他のシステム移行にもKaseyaを活用している。実は、整備端末の移行作業中にも、別のグループ会社の統合によるクライアントPCの設定変更作業があったのだ。同社では、ここでもKaseyaを使い、整備部門のシステム移行で利用したスクリプトを修正し実行することで、1,000台の端末の設定変更を1カ月弱で完了させたという。

ANAシステムズ サービス推進部 国内統括チーム シニアエキスパート 萩平吉彦氏

同時並行作業のため、数名の人員追加は行いましたが、実際の移行作業そのものは10日程度で完了させることができました」とANAシステムズ サービス推進部 国内統括チーム シニアエキスパート 萩平吉彦氏は語る。

すでに整備部門のシステム移行プロジェクトの半ばまで進んでいたため、十分なノウハウを持って作業できたことが短期プロジェクト成功の鍵となった。

また、整備部門のシステム移行プロジェクトを終えてからも、800台ほどの端末設定変更も必要となったが、これもKaseyaを活用することでスムーズに実施できたという。

「作業期間中については、日常的に発生する、アプリケーションをインストールして欲しい、特定端末の設定を変更して欲しいというような要望にも、Kaseyaで対応しました。従来のオンサイト作業と違い、遠隔地からもすぐに対応できるのは非常にいいですね」と萩平氏。

自動化のポイントは明確な要件定義と事前のテスト作業

萩平氏は、自動化作業を成功させるためには、いくつかのポイントがあると指摘する。

「まず重要なのは、どこまでやるのか、いつまでにやるのかといったことを決定することです。そこをはっきりさせれば、作業自体はKaseyaを使って行えると感じました。逆に人力に頼ったプロジェクトだと、曖昧な仕様でも要望をくみ取ってもらえたりしますが、ツールを使った自動化ではそういうことはありません。依頼部門と要件をしっかり決めておくことが、効率化の第一歩です」と萩平氏は語る。

さらに、現場のエンドユーザーとしっかりコミュニケーションをとり、電源を投入しておくことなどの指示を、確実に伝えられればトラブルはかなり抑えられるという。このあたりは伝達のルートや方法を工夫する必要がありそうだ。実際、ANAシステムズでもこの点の見直しを行うことで2回目、3回目の自動処理でエラー数を減らすことができたという。

また、同社によれば、自動化のメリットは、時間やコストが抑えられる点以外にもあるという。

「データ移行などは手動でやるとどうしてもミスが出やすくなる部分ですが、Kaseyaの自動化ならばそういう心配はありません。ただ、誤った設定をしてしまえば全端末にそれが適用されてしまいますので、モデルケースを抽出してテストを行い、問題がないことを十分検証してから行う必要があります」と萩平氏。

ANAシステムズではKaseyaでの自動化のメリットを十分に感じられたことから、今後も大きなプロジェクトが行われる際には、Kaseyaの活用を検討していく予定だという。