IHS Markit主催の「IT/5G産業分析セミナー」において、IHS Markitシニアアナリストの杉山和弘氏が、「IoT や自動車市場をめぐる半導体」と題して講演し、「携帯電話からスマートフォン(スマホ)への移行で起きたのと同じことが、自動車用半導体でも起きている」と述べた。
モバイル市場では、スマホの登場で主役がNokiaからAppleに移ったが、自動車用半導体市場では安全・安心機能の普及や自動運転の実現に向けて、NXP Semiconductors、Infineon Technologies、ルネサス エレクトロニクス、ST Microelectronics、Texas Instrumentsといった既存の車載に強い半導体メーカーに加えて、Intel、Qualcomm、NVIDIA、Broadcom(旧Avago Technologies)といった新興勢力が存在感を強めてきている。
杉山氏は「既存メーカーはマイコンなどCPUの処理能力を高めたシングルタスクで自動車メーカーの要望に対応しているのに対し、新興勢力はメモリを多用した並列処理をベースにした新たなアーキテクチャで勝負している。現状では画像処理を取り込むアーキテクチャを自動車向けにうまく生かしているといえる。加えて、新興勢力は、クラウドからエッジまでの全領域を垂直統合し、プラットフォーム化しようという意図が見える」として、各車載半導体メーカーの状況について次のように一言ずつコメントした。
- Infineon:車載向けLiDAR/レーダーを拡充している。日本の自動車メーカー向け車載半導体に注力しており、トヨタ自動車広瀬工場やデンソーから品質について表彰されている
- ルネサス:車載の制御系から情報通信系変身を図ろうとしている。トヨタ自動車が2020年に実用化を目指す自動運転車に同社のR-Car Socとマイコンが採用されることが決定している
- 東芝:コネクティッドカー/自動運転車対応のソフトウェアプラットフォームやディープラーニングを低消費電力で実現する脳型プロセッサ開発が注目される
- STMicroelectronics:電気自動車向けバッテリ制御システム開発で中国メーカーと協業を開始。STはEV車載半導体を欧州ではなく中国で立ち上げると見ている。豊田自動織機がトヨタのプリウス向けDC/DCコンバータにSTの製品を採用しており、STは日本市場に参入済みである
- Qualcomm:NXP Semiconductorsを380億ドルで買収し、車載半導体に本格参入する。Snapdragonがフォルクスワーゲンの2018年モデルに採用され、携帯ビジネスから車載ビジネスへの変身を図る
- NVIDIA:Teslaが自動運転用AIチップとして採用するほか、メルセデスベンツとAIチップ開発で提携、トヨタが自動運転システムで提携するなど、GPUベースのAIチップは自動運転車に続々採用されようとしている
- Intel:Mobileyeを153億ドルで買収し車載半導体に本格参入。5Gインフラを車々間通信に使おうとしている
フラット化する自動車業界のサプライチェーン
自動車業界は、従来のピラミッド型のサプライチェーンから、構造がフラット化しつつある過渡期にある。自動運転とEV化の進展に伴い、自動車のシステムアーキテクチャが今後大きく変わる。これには、半導体メーカーとTeir 1の競争だけでなく、5G通信の実用化といったインフラの変化も密接に絡んでくる。これについて杉山氏は「技術とコストのバランスをどう取るかも重要だ」と指摘していた。
また、自動車用電子システム(Tier 1)の売り上げランキングは、トップが独Continental、2位が独Bosch、3位がデンソー、4位にパナソニックと続く。Tier にはシステム全体を見ているという強みがあり、安全・安心機能を実現するうえで最も重要な役割を果たしている。グローバル調達力やECUのプラットフォーム化、ソフトウェアによるアップデートといった戦略面でも強い。自動運転やコネクティッドカーサービス実現にむけて自動車業界は幅広く協業体制をとるため、従来のピラミッド型のサプライチェーンから、構造がフラット化しつつあり、いまはその過渡期にある」とも同氏は指摘していた。
(次回は1月18日に掲載します)