前回は本則課税の事業者が行う仕入税額控除の要件が、インボイス制度でどのように変わるかをみてきました。仕入税額控除の要件変更は、現状のまま受け止めてしまうと事務処理が煩雑かつ増大することになってしまいます。インボイス制度開始後に混乱しないためにも今からどのような準備をしていくかが大事になります。
今回は買手の課題となる煩雑になる仕入税額控除へ効率的に対応するために準備しておきたいことをみていきましょう。
仕入税額控除の経過措置への対応
インボイス発行事業者以外の事業者との取引では、原則仕入税額控除ができなくなりますが、2023年10月1日から6年間は経過措置により、通常税額の一定割合を仕入税額控除できます。インボイス制度開始後もインボイス発行事業者以外の事業者との取引を継続する場合は、この取引をインボイス発行事業者との取引と区分して管理できるようにしなければなりません。
仕入や外注などの取引先への対応
【インボイス発行事業者の登録確認】
仕入先や外注先などの継続的な取引先に対しては、まずインボイス発行事業者の登録の有無を確認して取引先の状況を的確に管理できるようにしておきましょう。登録の有無について確認した内容により以下のような準備をしていきましょう。
インボイス発行事業者になる取引先については登録番号を通知してもらい、取引先ごとに確認できるようにしておきましょう。その上で、課題は「登録予定なし」の取引先への対応になります。
2023年10月1日から3年間は経過措置により、インボイス発行事業者以外からの課税仕入でも通常税額の80%は控除できますので、今後も取引を継続したい取引先についてはそのまま取引を継続するという選択もあります。
ただし、同じ取引額であれば、今より納税額が増えることになります。だからといって一方的に取引条件を変更したり取引を打ち切るようなことをすると、独占禁止法などにより問題になる場合もあります(※1)。「登録予定なし」の取引先への対応については、丁寧なコミュニケーションをとった上で取引を継続するかどうか決定し、相手の合意も得られるように伝えることが大事です。 (※1)詳しくは公正取引委員会などが作成した「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7などをご確認ください。
【取引先のインボイス対応状況の確認】
インボイス制度開始後はインボイス発行事業者となる取引先からは、課税仕入に際してインボイスを受領することになります。受領したインボイスが記載事項を満たしていなければ、仕入税額控除の要件を満たすことができません。インボイス制度が開始されてから、このようなケースが発生すると、取引先に修正インボイスを発行してもらうなど手間がかかることになります。
こうした事態への対策として、あらかじめ取引先が交付する予定のインボイスの内容を確認し、インボイスの記載事項が満たされているかどうかを事前確認しておくと、安心してインボイス制度への対応準備を進めることができます。
現状では取引先の大半がインボイス準備中で、現時点で取引先のインボイスの内容を確認することは難しいと考えられます。10月まで時間がありますので、この時間を活用して準備ができた取引先から順次インボイス対応内容を確認できるようにしておくことが大事です。
経費での取引先への対応
【経費の内容から取引先を分類する】
仕入税額控除の対象となる取引には通常経費となる取引も多く含まれます。まず経費として処理している内容とその取引でインボイスが必要かどうかや主な取引先がわかるように以下のように整理してみましょう。
この表では事業者で発生する経費の一部を書き出してみました。
インボイスが必要なケースで主な取引先が特定でき、その取引先が大企業の場合は特に事前確認は必要ないでしょう。ただし、接待で利用する飲食店や給油のため利用するガソリンスタンドなどで利用頻度が高い取引先については、仕入先などと同様にインボイス発行事業者の登録確認や可能であればインボイス対応状況を事前確認しておきましょう。
その上で課題となるのは、取引先を特定できないケースです。タクシー代などは領収書をもらって初めてその事業者がインボイス発行事業者かどうか分かることになります。 こうしたケースも起こりうることを前提にインボイス制度に備えていく必要があります。
【社員への周知】
経費の大半は社員が支払い、経費精算により事務処理されることになります。まず、インボイス制度に対応した経費精算を行うために以下のようなことを社員に周知しておきましょう。
・仕入税額控除するためにはインボイスの保存が必要になるため、領収書やレシートは必ず受領し提出すること
・インボイス発行事業者以外からの購入など取引は避けること
・帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引でも所在地を帳簿に記載しなければならない取引については所在地の情報も提出すること
このうち2点目については、あらかじめ取引先がインボイス発行事業者かどうかわかっていないとできないことです。
インボイス制度開始直後は、経費精算の際に提出された領収書やレシートなどにインボイス発行事業者の登録番号があるかどうかを確認して初めてインボイス発行事業者との取引なのかどうかが判明するケースが多いと予想されます。インボイス発行事業者以外であっても取引する価値のある取引先は別にして、それ以外の取引先からの購入などはやめるように順次周知していくことが現実的な対応になると考えられます。
取引先管理を効率的に行うことが準備のポイント
インボイス発行事業者の登録の有無などを取引先に確認することは、インボイス制度で仕入税額控除をスムーズに処理するための大事な準備作業となります。すでに、売上先からこの件での確認メールなどを受け取った事業者の方もいらっしゃると思いますが、中小企業では仕入先などへの確認作業はこれからという事業者も多いと思われます。 本則課税の中小事業者にとっては売上先との関係から売手として準備しなければならないことが優先せざるをえないなかで、買手として仕入税額控除の課題は後回しにせざるをえない状況ではないでしょうか。
そのような事業者の方にお勧めしたいのは、freee請求書 インボイス取引先管理です。 取引先がインボイス発行事業者として登録しているかどうかなどアンケートにして取引先に送付、インターネットで回答してもらえば取引先の登録状況を一気に確認することができます。アンケートの回答により、取引先の登録番号やインボイス準備状況など一元管理することができます。取引先のインボイス準備状況によっては、無料のfreee請求書で取引先のインボイス対応を支援することもできます。
次回はインボイス制度で煩雑になる仕入税額控除の事務処理をシステム活用でより効率的に行う方法について解説します。