インボイス制度では、本則課税の事業者が行う仕入税額控除の要件が変わります。最もインパクトのある変更は、インボイス発行事業者以外からの課税仕入は原則仕入税額控除ができなくなる点でしょう。その他、帳簿のみの保存で仕入税額控除できる取引についても現行制度から大幅に縮小されます。
本則課税の事業者には、基準期間(前々事業期間)の課税売上高が5,000万円超の事業者が該当します。大企業はもちろんですが中小企業でも該当する事業者は多く、企業規模が小さくなるほど本則課税での仕入税額控除の要件変更は重くのしかかってきます。
今回は、本則課税での買手の課題となる仕入税額控除の変更内容の詳細についてみていきましょう。
インボイス制度で変わる仕入税額控除
インボイス制度下の仕入税額控除は、一定の記載事項を満たした帳簿およびインボイスとなる請求書や領収書などの保存が要件となります。
免税事業者などインボイス発行事業者以外の事業者は、インボイスや簡易インボイスを発行できないため、これらの事業者からの課税仕入ではインボイスの交付を受けることができません。このため、これらの事業者からの課税仕入では仕入税額控除の要件を満たすことができず、原則仕入税額控除ができません。
ただし、インボイス制度開始から一定期間は、インボイス発行事業者以外からの課税仕入であっても、本来の仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。経過措置を適用できる期間および仕入税額とみなされる割合は以下の通りです。
そして、期間に応じた経過措置の内容をまとめたものが以下の図になります。
上図の説明にもある通り、この経過措置の適用を受ける場合は請求書などの保存に加えて、その旨を帳簿に記載する必要があります。そして、控除できる仕入税額も本来の仕入税額とは異なります。
例えば、帳簿に記載する仕訳の内容が税込110,000円(税率10%)の課税仕入の場合、インボイス発行事業者からの課税仕入と比較例示すると以下のようになります。
上記のような帳簿での処理を可能にするためには、以下のような事務処理が必要となります。
・インボイス発行事業者からの課税仕入とそれ以外の事業者からの課税仕入を区分
・通常の税率(10%または軽減8%)に経過措置割合を掛けて控除できる仕入税額を算出
現状で10%と軽減8%が混在した仕入の場合は税率ごとに区分して仕訳計上しているのに加えて、以上のような事務処理が新たに発生しますので、これに対応するための準備が必要となります。
帳簿保存だけで仕入税額控除できる取引の縮小
現行の制度では「3万円未満の課税仕入」や「請求書の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」は、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができますが、インボイス制度ではこれらの規定は廃止されます。こうした規定が廃止される一方で、以下の取引については帳簿の保存のみで仕入税額控除できます。
(1)インボイスの交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
(2)簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除きます)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(<1>に該当するものを除きます)
(3)インボイスの交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
(4)インボイスの交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス (郵便ポストに差し出されたものに限ります)
(5)従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び 通勤手当)
※引用:国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問92」(特定の事業者が行う取引は外しています)
また、2023年度税制改正では中小事業者の事務負担を軽減するためとして「1万円未満の課税仕入」について、帳簿の保存のみで仕入税額控除できることになりました。以下の図はこの措置について説明した財務省の資料です。
これに該当する中小事業者の場合、帳簿のみの保存で仕入税額控除できる課税仕入は以下のように整理できます。
・1万円未満の課税仕入(2023年10月1日から6年間適用可能)
・1万円以上の上記の(1)~(5)の課税仕入
では、帳簿のみの保存の場合、帳簿にはどのような事項を記載しなければならないのでしょうか?帳簿への記載事項は以下の通り規定されています。
- 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
- 課税仕入れを行った年月日
- 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)
- 課税仕入れに係る支払対価の額
これらの記載事項は現行制度と同様で、インボイスなどの請求書を保存する場合の規定です。上記の(1)~(5)の課税仕入の場合は、これに加えて以下の事項の記載が求められます。
・帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる課税仕入である旨
・上記の(2)および(3)の取引の場合、仕入れの相手方の住所又は所在地
もともと「3万円未満の課税仕入」に該当する取引は経費となるものが多いと考えられます。現状の経費精算でどのように対応しているかをベースに、帳簿保存だけで仕入税額控除できる取引の変更点への対応を考えておく必要があります。
次回は、煩雑になる仕入税額控除の事務処理の課題への対応するための準備について解説します。