"エコ製品"と"省エネ製品"は同じではない。消費電力が従来より小さいとしても、製造に膨大なエネルギーが必要で、なおかつリサイクルも難しい製品は"省エネ製品"であり、"エコ製品"とはいえない。そこで、今回は、セイコーエプソン神林事業所を訪ね、インクジェットプリンタの"真のエコ度"を確認してみよう。

セイコーエプソン神林事業所。同事業所によると、真に環境に配慮した製品を作るには、設計段階からリデュース、リユース、リサイクルを考慮することが重要。

小さくすれば、それだけで環境負荷を少なくできる

セイコーエプソン神林事業所 地球環境推進部 市川武治氏。「小型化するだけでも、環境負荷の削減につながるんです」という

5年前と比べて、プリンタの大きさそのものが小さく、薄くなっていることにお気づきだろうか。実は、小型化するだけでも環境負荷を大きく減らすことができる。そもそも生産に必要な素材の量が少なくてすむ。また、輸送による環境負荷も削減する事ができる。たとえば2003年に発売されたエプソンのPM-A850と2008年発売のEP-801Aを比べてみよう。いずれも家庭用複合機のエントリーモデルだ。サイズが小さくなった分、同じトラックで1.5倍のプリンタを運ぶことができる。1,000台のプリンタを輸送するためには、従来は4.2台の20フィートコンテナトラックが必要だった。しかし、サイズの小さくなった現在では2.7台ですむ。その分、当然使う燃料も少なくなるわけだ。

2003年に発売された「PM-A850」(左)と2008年発売の「EP-801A」(右)。プリンタサイズの小型化は輸送による環境負荷の軽減に繋がる

CISモジュールキャリッジ部品を一体化。小型化し、部品点数を削減することで、必要な材料も少なくなる

スキャナや液晶パネルの光源はLED化。水銀フリーとなるので、小型化・省エネ化だけでなく有害物質削減効果も得られる

この小型化に大きく寄与したのが、オフキャリッジ方式の採用だ。従来のプリンタは、プリントヘッドの上にカートリッジが載るオンキャリッジ方式で、印刷をするときは、ヘッドとカートリッジが一体となって左右に移動する。一方で、オフキャリッジ方式は、ヘッドとカートリッジを分離し、カートリッジは固定され、そこからチューブでヘッドにインクを供給、印刷時にはヘッドだけが移動する。動く物体が小さくなったため、その分の空間をとる必要がなくなり、全体のサイズを小さくできるのだ。さらに、振動も少なくなり、静音性も向上した。

オフキャリッジ方式は、プリンタのヘッドとカートリッジを分離し、チューブでインクを供給する。印刷時にはヘッドだけが移動するので、移動用に確保しなければならない空間が小さくなり、プリンタが小型化できる。さらに、低振動など、さまざまなメリットが生まれた

エコと高級感を両立させる光沢成形

現在のリサイクル技術は大きく進歩しており、ほとんどの素材がリサイクルできるようになっているという。しかし、問題は不純物の混入だ。たとえば、プリンタの本体であるプラスチック素材は、本来はほぼ100%リサイクル可能だ。しかし、そこに紙ラベルなどが貼ってあると、異なる素材が混じって不純物となり、リサイクル素材の質が下がってしまい、再利用の幅が狭くなってしまう。大抵のプラスチック製品には塗料が塗られているが、このような塗料も不純物となる。また、同じプラスチック素材ではあっても、部位により強度や加工しやすさの問題から、別種のプラスチックが使われていることもあり、これが混ざってしまうと、やはりリサイクル素材の質を下げてしまうことになる。

バラバラに分解されたプリンタ。現代の技術では、プリンタはほとんどの部分が再資源化できるという

部品には、六価クロムや鉛といった有害物質をなるべく使用しないよう、配慮されている

プリンタの底面にセットされているインク吸収材。従来は破棄されていたが、現在はリサイクル可能

プリンタを分解し、分別して各リサイクル処理へ

工場でのプリンタを分解している様子。第一段階の分解作業は人手で行われている

プラスチック素材と金属の混合素材の粉砕。人手による分解が難しいものは、破砕処理を施してから分別処理を行う

破砕後の素材。素材ごとに分別し、リサイクルされる

そこで、そういった問題を回避するために、エプソンのプリンタには3R設計が取り入れられている。3R設計とは、リデュース(削減)、リユース(再使用)、リサイクル(再資源化)を考えた設計のことだ。たとえば、最新のプリンタは塗料の使用を必要最低限としており、外装部分は光沢成形という技術で、表面がピカピカになるように成形されている。いかにもツヤ塗装されているように見えるが、これはプラスチック素材そのものの色で、表面が非常に滑らかなのでツヤが出ているように見えるのだ。塗料という不純物を削減しているので、質の高い素材にリサイクルできる。

ツヤ塗装されているように見えるが、実は塗装ではなく、表面を滑らかに成形する光沢成形技術が使われている。塗料という不純物を削減しているので、質の高い素材にリサイクルできる

ステッカーを使わず、成型によって表示されたCAUTION表示。ステッカーの剥がし残しや粘着物が混入するのを防いだり、ゴミを削減するための配慮だ

また、プリンタの内部をよく見ると、パーツの目立たないところに不思議な記号が浮き彫りされていることに気がつく。これはパーツに使われている素材情報で、この記号を見て分別すれば、純度の高いリサイクル素材となるわけだ。一般には25g以上のプラスチック部品には、このような材質表示をすることが義務づけられているが、エプソンでは可能な限り小さな部品にも材質表示をしている。

プリンタの内部には、素材分別の目印として、素材情報を示す記号が記載されている。材質別に分別することで、質の高いリサイクル素材となる

素材別に分別されたプラスチック部品。分解後、素材情報に沿って分別される

プラスチック部品部分のリサイクル処理。プリンタのボディ等を破砕処理し、その後ペレット状に。プリンタ部品の資源として再利用する

プリンタから再びプリンタへ。純度の高いリサイクル素材故のクローズドリサイクル

神林事業所の工場見学の前半では、リデュース、リユース、リサイクルにこだわり、質の高いリサイクルを実現する3R設計の様々な配慮をご覧いただいた。後半では、電子基板やACアダプタなど、ボディ以外の部分リサイクルの様子や、プリンタをリサイクルしやすくするための工夫などについても紹介する。

(つづく)