前回に引き続き、今回も「Google翻訳」と「DeepL翻訳」の拡張機能を比較・検証していこう。今回は、英語以外の言語を日本語に翻訳する場合について、それぞれの翻訳精度を比較してみる。「マイナーな言語も正しく訳せるか?」を探るための参考にして頂ければ幸いだ。
フランス語を日本語に翻訳
最初に例として紹介するのは、フランスにあるルーブル美術館の公式サイトだ。このサイトには、英語、フランス語、スペイン語、中国語といった4つの言語表示が用意されているが、日本語には対応していない。今回は、フランス語でWebサイトを表示した状態で翻訳実験を試していこう。
フランス語はメジャーな言語の一つなので、それなりの精度で日本語に翻訳してもらいたいものだ。実際の例を見ながら検証していこう。
以下の図は、ルーブル美術館の公式サイトに掲載されていた記事の一部を「Google翻訳」と「DeepL翻訳」で翻訳した例だ。
比較しやすいように、それぞれの翻訳結果を“文字”として掲載しておこう。
どちらも十分に意味の通じる日本語訳になっているが、ある程度、翻訳の仕方に差があるようだ。特に文章の冒頭が特徴的だ。Google翻訳が「これまでに保存されている」と訳している部分を、DeepL翻訳はシンプルに「現存する」と訳している。その結果、文章が短くなり、内容を理解しやすい日本語になっている。
続いては、同じページ内にある「メンバーシップ特典」の部分を翻訳してみた例だ。それぞれの翻訳結果は、以下の図のようになった。
こちらも、それぞれの翻訳結果を“文字”で掲載しておこう。
どちらも十分に意味は理解できるが、DeepL翻訳の方がスムーズに読み進められる文章になっている。Google翻訳では「アクセスできます」となっていた部分が、「ご覧いただけます」になっている、などの工夫も見られる。
特徴的なのは、Google翻訳で「私たちのプログラムのいずれかに参加すると、」と訳されていた部分が、DeepL翻訳ではバッサリと省略されていることだ。
この部分はなくても意味が通じるので、「とにかく内容を知りたい」という方にとっては親切な配慮といえるだろう。一方、「原文を忠実に訳して欲しい」という方にとっては信頼性を疑問視する問題となりかねない。今回の例のように、省略しても意味が通じる場合はよいが、状況によっては省略したことが裏目に出てしまう危険性がある。
前回の連載でも触れたように、「Google翻訳」は原文を忠実に翻訳する、「DeepL翻訳」は“わかりやすい日本語”になるよう翻訳する、という傾向があるようだ。
続いては、エッフェル塔の公式サイトを「Google翻訳」と「DeepL翻訳」で翻訳した例を見ていこう。このサイトには、日本語を含めた9つの言語表示が用意されているが、あえてフランス語のまま翻訳実験を試してみる。
以下の図は、「営業時間と料金」のページに記されていた補足事項の一文を翻訳した例だ。
こちらも、それぞれの翻訳結果を“文字”で掲載しておこう。
どちらも十分に意味は通じるが、やはり「DeepL翻訳」の方が読みやすい日本語になっている。「障害者」を「障がい者」と記している箇所があるなど、日本語ならではの配慮も感じられる。
参考までに、公式サイトの表示を「日本語」に切り替えた例も紹介しておこう。
公式サイトの日本語表示よりも、むしろ「DeepL翻訳」の翻訳結果のほうが内容をスムーズに理解できる文章になっている。上部にあるチケット情報の見出しが「チケットの階段+リフト」となっていることから推測するに、公式サイトの日本語表示も機械翻訳により作成されているのかもしれない。人の手で翻訳したのであれば「階段+リフトのチケット」などの記述になっているはずだ。
近年、日本語表示が可能な海外サイトも増えているが、その日本語は機械(AI)により翻訳されたものかもしれない。そうであるなら、“公式の日本語表示”よりも“拡張機能の翻訳”の方が読みやすいケースも十分に考えられる。日本語表示が可能なサイトであっても、あえて原文を日本語に翻訳して読む、という使い方もアリだろう。そういう意味でも「翻訳の拡張機能」は追加しておいて損のない機能といえる。
少しマイナーな言語を翻訳した場合(カタルーニャ語)
続いては、スペインのサクラダ・ファミリアの公式サイトを使って翻訳結果の例を紹介していこう。
スペイン語は、スペイン国内をはじめ、メキシコやコロンビアといった中南米の国々でも公用語になっているメジャーな言語だ。ただし、このWebサイトの標準言語はスペイン語ではなく「カタルーニャ語」となっており、それ以外に選択可能な言語として、英語、スペイン語が用意されている。
カタルーニャ語はスペインの一部の地域とその近辺でのみ使用されている言語で、スペイン語に比べると、かなりマイナーな言語となる。ということで、今度はカタルーニャ語でWebサイトを表示した状態で翻訳を試してみよう。
以下の図は、ミサについて紹介するページの冒頭を「Google翻訳」と「DeepL翻訳」で翻訳した例だ。
こちらも、それぞれの翻訳結果を“文字”で掲載しておこう。
Google翻訳の結果は、日本語として十分に理解できる内容になっている。一方、DeepL翻訳の結果は、「市立図書館」や「2つの日」、「前夜祭」など、少し違和感を覚える単語が並んでいて意味を理解しづらい。
それもそのはず。どうやら、DeepL翻訳は「カタルーニャ語」に正式対応していないようだ(理由は後述)。にもかかわらず、「それっぽい文章が表示されるのは凄い」とも言えるが、「中途半端な翻訳は、かえって混乱を招く」とも考えられる。いずれにしても、マイナーな言語に関しては「Google翻訳」の方が優れているようだ。
参考までに、公式サイトの表示を「英語」に切り替えた例も紹介しておこう。ある程度、英語を読める方なら「Google翻訳」の方が適切な翻訳であると実感できるはずだ。
少しマイナーな言語を翻訳した場合(タイ語)
最後に、タイ語のWebページを翻訳した例を紹介しておこう。以下の図は、タイ国鉄の乗車券を販売するWebサイトを表示した例だ。表示可能な言語として英語も用意されているが、タイ語のまま翻訳を試してみよう。
タイ語については、文字の読み方すら知らない方が大半を占めるだろう。筆者もそうだ。よって、画面上部に並ぶメニューが「何を示しているのか?」すら理解できない。この部分から翻訳してみよう。
結果は上図に示した通り。Google翻訳によると、「ヘルプセンター」へのリンクであることを理解できる。一方、DeepL翻訳の結果は原文をそのまま表示しただけ。これでは何も理解できない。
リンク先のページへ移動して、適当な一文を翻訳した例も紹介しておこう。
「チケットを予約する前に」の文字が最後に配置されているものの、Google翻訳の結果は十分に内容を理解できる日本語といえる。一方、DeepL翻訳は原文をそのまま表示しただけで、翻訳機能としての役割を果たしていない。
それぞれの拡張機能が対応する言語は?
これまでに紹介してきた例のように、対応している言語であれば、「DeepL翻訳」の方が日本語として読みやすい翻訳結果を返してくれるようだ。ただし、対応する言語の数は「Google翻訳」の方が圧倒的に多い。“日本語らしさ”よりも“原文を忠実に訳してくれる”という点にメリットを感じる方もいるだろう。
ここで問題となるのが、「どの言語に正式対応しているか?」が明示されていないことだ。「DeepL翻訳」の拡張機能を紹介するページには「30以上の言語」と記されているが、サンプル画面には「26種類の言語に対応」と表示されており、どちらが本当なのか判断できない。
よって、この記事では、それぞれのオプション設定で対応言語を判断している。拡張機能のオプション設定は、以下の図のように操作すると表示できる。
以下の図は、「Google翻訳」のオプション設定で「メインの言語」の一覧を表示したものだ。「ア」から始まる言語だけでも相当な数の選択肢が用意されている。この中には「カタルーニャ語」も「タイ語」も含まれていた。
対して、「DeepL翻訳」のオプション設定は以下の図のようになっている。選択可能な言語に「カタルーニャ語」や「タイ語」は含まれていない。よって、これらの言語には正式対応していない、と本記事では判断している。
このように、対応言語数では「Google翻訳」の方が圧倒的に優れている。ただし、マイナーな言語を翻訳する機会は少ないと思われるので、「メジャーな言語に対応していれば十分」というのであれば、どちらを選んでも問題はない。
前回の連載を含めて、これまでの話をまとめると、それぞれの拡張機能には以下のような特徴があると考えられる。
【Google翻訳】
・原文を忠実に翻訳する傾向がある
・対応する言語数が多く、マイナーな言語にも対応している
・長文を翻訳するには、別の操作が必要(前回の連載を参照)
【DeepL翻訳】
・読みやすい日本語に翻訳してくれる傾向がある
(ただし、原文の一部を省略して翻訳するケースもある)
・対応する言語数は少なめだが、メジャーな言語は網羅している
もちろん、翻訳の試行回数が少ないので、これらの評価は絶対的なものではない。あくまで「今回の実験で試した例では……」という条件下での評価として見て頂きたい。
なお、それぞれの拡張機能には、Webに掲載されている文章の翻訳以外にも、いくつかの機能が用意されている。次回は、付随する機能やオプション設定について詳しく紹介していこう。