これまで3回にわたり、Cookie(クッキー)の利用規制による影響は既に起きていることを説明した上で、その具体的な対策としてどういった手法があるのかを整理してきました。今回は最終回として、きちんと対策を実装することによってどの程度のリカバリーが見込めるのかについて紹介します。

対策をすることで、どの程度のリカバリーが見込めるのか

改めて、現状のApple社の規制によって起こっていることを整理してみましょう。

影響については、大きく技術面の規制とポリシー面の判断に分けることができます。ここまで見てきた通り、アプリ領域と異なりブラウザ領域においてはATT(App Tracking Transparency)/PCM(Private Click Measurement)による直接的な影響は現時点では出ていません。したがって、ITP(Intelligent Tracking Prevention)による影響という観点で整理できればと思います。

本連載では技術面の問題を中心に紹介してきましたが、もう一つ重要な論点としてポリシーの問題が挙げられます。技術面をクリアするような対策を適切に実装したとしても、ポリシー面で無効化されることも起きうるため、ポリシー面での影響も見ていくことが必要になります。

具体的には、技術的には計測できていたとしても、Apple社のポリシー上の制約を受けるために、Apple社のポリシーを遵守する場合には計測した情報を捨てる必要がある、というケースがあります。

また、このApple社のポリシーは、明確にどこまでOKでどこまでNGなのかが定義されているわけではなく、またアプリと異なりWeb領域においてはペナルティの記載も不明瞭なので、広告プラットフォームごとにどこまで対応するかには濃淡があるのが現状です。以下の記載はあくまで本稿執筆時点での一般論であることをご留意いただければと思います。

まず技術的な観点からは、正しく対策を実装することで、クリック後24時間以降のコンバージョンや、非クリック経由の来訪者といったユーザーのコンバージョンがカバーできるようになります。

入札最適化も同様で、コンバージョン計測ができてさえいれば最適化の材料としても利用可能となり、自動入札の精度向上が期待できます。リターゲティングは、サーバログに対応しているプラットフォームは現状では少ないですが技術的にはカバー可能なので、今後の開発が待たれます。フォーム入力情報については、メールアドレスや電話番号をもとにして配信できるメニューが存在する広告プラットフォームでは引き続き配信可能となります。

一方でポリシー面については、広告プラットフォームごとのApple社ポリシーをどう解釈するかの判断によって変動するため一概には言えません。厳しめに解釈した場合、サーバアクセスログでATTの許諾を取れていないユーザーは、PCMの仕様に準拠して、優先度の高いコンバージョンイベントの場合のみ利用できる、ということになりそうです。

フォーム入力情報は、もともとオフラインのコンバージョンと同様のマッチキーとなるため、オフラインコンバージョンとして解釈すればATTによる規制の対象外と言えます。リターゲティングも、配信すること自体は個を特定しての利用にはならないため、規制の対象外と言えると考えられます。

このあたりは、個別の広告プラットフォームの判断によって解釈が分かれるポイントなので、最新の情報は各プラットフォームからのアナウンスもご確認ください。

いま対策を実装すべきなのか

それでは、Cookieフリー対応のための実装は喫緊の課題として進めるべきなのでしょうか。

ここまで紹介してきたような話をすると、フォーム入力情報はともかく、サーバアクセスログだけを実装しても、24時間以降のコンバージョンしかひもづかないのであればインパクトが小さいのでやらなくていいのでは、とコメントいただくことが多々あります。

ここで改めて強調したいのが、ITPによる3rd Party Cookie(サードパーティ・クッキー)の即時消去と、計測目的の1st Party Cookie(ファーストパーティ・クッキー)の有効期限の24時間への短縮というのは1年以上前から起こっている、ということです。

実際にどの程度の改善が見込めるのかについて、Meta (旧Facebook)社での実装の結果を紹介したいと思います。

この結果によれば、フォーム入力情報を使った方がより大きく改善するものの、アクセスログだけでも15%前後の改善幅が見込める、ということが分かると思います。

これは計測ツール上の見た目のコンバージョン件数が増えただけではなく、実際のコンバージョン件数も増えていることを示しています。「計測ツールでコンバージョンが各媒体とひもづかないだけで、クライアント側でのトータルのコンバージョン件数は変わらないのでは?」と、質問をいただくことも多いのですが、この見方は短期的には正しくても、中長期的には間違っています。

短期的には各媒体にひもづくコンバージョン数が減るだけで、実際のコンバージョン件数自体は変わりませんが、その状態が続くと各媒体で誰がコンバージョンしたかという情報の精度が落ち、自動入札の学習精度が落ちます。その結果、同じ効率で獲得できる件数も減少するため、中長期的には実際のコンバージョン数も減っていくことになります。だからこそ、喫緊の対策が必要だと言えます。

今後さらなる規制緩和や計測に対するApple社のポリシー強化によって、仮にユーザーの許諾を取っていたとしても、計測できる情報がさらに減っていく可能性は否定できません。

しかし、だからといって対策が無意味かというとそうではなく、少しでも計測できる情報を増やすことで、各広告プラットフォームのコンバージョン予測の精度が向上し、結果として、入札最適化のアルゴリズムもより効率的な獲得ができるように学習する、というサイクルが回るようになります。

計測や最適化はAll or Nothingではなく、少しでも計測できる領域を広げることで、少しでも正しい計測に近づけ、少しでも効率的な入札最適化を実現していくべきということです。そしてそのためには、タグを貼って終わりではなく、計測環境を維持するための自助努力が求められている、という状況です。

私はこのことをよく、雨の日の傘で例えています。

現実にすでに雨は降っている(ITPなどの影響で正しく計測できていない)以上、まず必要なことは傘をさす(対策する)ことです。

今後ますます雨は強くなり(PCM)、雨がやむことはないので、傘を準備して損になることはありません。だからこそ、Cookieフリーへの対応は喫緊の課題として、今から進めることが必要だと言えるでしょう。