昨今急速に言葉が浸透してきたDX(デジタルトランスフォーメーション)や生成AI(人工知能)。さまざまな分野において人の負担を軽減できることから研究や実際に導入している企業も増えてきています。

一方、効率性を重視した企業活動が活発化することと並行して、顧客へ提供する価値や体験の満足度を向上させていこうとする「CX」というワードも注目されています。CXとは一体何者なのでしょうか。本連載では3回に分けて、あまり知られていないCXの本質に迫ります。

「CX」とは?

CXとは、顧客が企業やサービスと関わる過程において得られる体験や価値、メリットなどのことです。過程とはサービスを知るところから購入して活用し続けるところまでと、顧客との関係構築におけるすべてのポイントを指します。

読み方としては「カスタマーエクスペリエンス」と呼ばれ、日本語では「顧客体験」や「顧客経験」「顧客体験価値」と訳されることが多いです。

CXが注目される背景

CXが注目されている背景としては、インターネットの普及による顧客のデジタルシフトがあります。

従来の顧客との接点としては、テレビや新聞などのマス広告、飛び込み、テレアポなどの新規営業やルート営業、実店舗への来訪、知り合いからの紹介が中心でした。つまり、企業やサービス側からの発信がないと顧客は情報を得ることができませんでした。

時代が進みテクノロジーが進歩しことで、「ウェブ検索」や「SNS」といったインターネットを介する顧客行動が生まれました。企業やサービス側からの発信を受け取る必要がなく、自身で情報を得ることができるようになったのです。つまり、これまでより顧客との接点が多岐にわたり、かつ顧客とサービスとの関係構築が複雑化していきました。

そのような状況のなかで、多くの顧客が自社のサービスを利用するためには、情報発信を強化するだけでなく、顧客との接点のなかで得られる体験や価値を向上させていくことが必要になってきました。

CX向上につながる活動とは

上述した通り、サービスを知り、購入して使い続けるまでのすべての過程がCX向上につながります。ここでは一般的な業務でのどのような活動がCXの向上につながるのかを解説いたします。

  • 製品・サービス
    顧客に提供する製品やサービスの改善活動はCX向上の原点ともいえます。要望や不満といった顧客の声から改善活動につなげることで、製品・サービスの価値は高まるでしょう。また、実際に意見を出す顧客にとっても「自分の意見が製品に反映される」という特別な体験から、より価値を感じることができます。このような顧客のニーズを理解して製品・サービスに改善を加える方法を続けていくことで、よりCX向上につながるでしょう。

  • プロモーション
    製品・サービスの魅力は人やモノを介して顧客に伝えていくことになるのですが、プロモーションは魅力を伝えるファーストコンタクトの役割を担っています。顧客がどのような情報に価値を感じて、行動に至るのか、を常に意識した顧客視点の企画を展開する必要があります。また、プロモーションの時点でも顧客と相互にコミュニケーションを図ることも重要です。昨今、プロモーションの重要なチャネルに位置付けられているSNSは、顧客からの反応がみえる、そこに製品・サービス側が応じる、といった双方向のコミュニケーションが盛んに行われています。このような活動によって、購入段階の前段でも顧客と製品・サービスとの関わりを深めていくことができるのです。

  • 営業
    主にBtoBで製品・サービスの魅力をダイレクトに伝える重要な役割です。購入までの段階にある顧客の不安をひとつひとつ取り除いていくことで、信頼関係を築くことができます。その過程は顧客にとっては価値のある体験とも言えます。そういった体験はCXの向上にもつながります。また、副次的には担当者が知り合いに紹介してくれたり、転職した会社でも購入の際に声をかけてくれたりといった顧客からの能動的な行動で返ってくることもあります。

  • カスタマーサービス
    購入に至った後のカスタマーサービスはCX向上のなかでも大きな役割を果たします。実際に製品・サービスを使っていくなかで、不明点や不具合の発生などでカスタマーサービスを活用するケースは多くあります。その際の対応として①迅速かつ丁寧に②顧客のニーズや感情を理解し③最適な解決策を提案していくか、を意識することが重要です。カスタマーサービスの対応はその製品・サービスから顧客が得られる体験に直結します。上述の要素を意識した対応をすることで、CXの向上につなげることができます。

CX向上は「当たり前の活動の蓄積」

ここまで製品・サービス購入から活用までの業務におけるCX向上につながる活動を述べてきました。

重要なことは、ニーズを理解したり、製品・サービスの正しい価値を伝えたり、顧客のニーズに応える施策を展開したりといった顧客と相対する際の基本的な活動ばかりです。つまり、CXの向上とは「当たり前の活動」=「顧客にとって製品・サービスから得られる体験やメリット」が蓄積された結果なのです。

逆にいうとこの当たり前の活動ができていないと、顧客にとっては求めている体験が得られていないので購入に至らなかったり、解約につながったりします。では、具体的にどのような活動が顧客にとって当たり前と思われているのでしょうか。

顧客が思う当たり前の活動とは

顧客にとっての当たり前の活動は以下3点に集約されます。

  • 最低限のマナー
  • 誠意を持った対応
  • 迅速かつ丁寧な行動

最低限のマナーに関しては、挨拶をキチンとする、言葉遣いは丁寧に、約束は守る、不備があれば謝罪する、といったことです。このマナーは活動の土台と言えます。マナーを守れていないと、どれだけ対応に誠意があり、迅速な行動ができたとしても、顧客の求めている体験やメリットを与えることはできませんので、実際に顧客と接する場面になる前に身につけておきましょう。

誠意をもった対応とは、顧客の話を丁寧に聞き、顧客自身が感じる課題に共感し、顧客の立場に立って解決方法を考える、といった顧客起点での対応のことを指します。この顧客視点を意識し、実践することで、誠意が伝わり、信頼関係を築くことができます。

また、迅速かつ丁寧な行動を心がけることで顧客のストレスを軽減することができます。この行動を求められる場面の多くが問題発生時や疑問からなる問い合わせ時になりますが、対応スピードが遅かったり、正確性が欠けていたりすると、顧客のストレスはどんどん上昇していきます。このストレスの蓄積こそが顧客体験の損失に直結してしまうので、なるべくストレスを上昇させないよう迅速かつ丁寧な行動を心がけましょう。

これらの対応は上述の通り、顧客のとっては「当たり前」の対応と言えるでしょう。ただし、これらの活動を継続することによって、顧客は製品・サービスのメリットを感じられ、CXの向上につながっていきます。

顧客の当たり前は、時として現場の負担に

CX向上に重要なのは、ニーズを理解したり、製品・サービスの正しい価値を伝えたり、顧客のニーズに応える施策を展開したりといった顧客と相対する際の基本的な顧客対応ばかりです。

とはいえ、この基本的な顧客対応が時として現場では大きな負担になることもあります。そこで次回は、現場で感じる顧客対応の課題から、顧客対応を効率化するポイントについてご紹介します。