3GPPは、2015年に5Gの開発を開始することを発表しました。そのとき、ネットワークのあらゆる側面に関連する多くの性能目標を提案しました。最終的に、3GPPは、eMBB(Enhanced Mobile Broad Band)、URLLC(Ultra Reliable Low Latency Communications)、mMTC(Massive Machine Type Communications)の3つの異なるユースケースを対象としてさまざまな測定基準を抽出しました。

eMBBのユースケースについては多くの著作物が発行されました。mMTCについても、それほど多くはありませんが、デバイスのスマート化やIoTの普及への期待から、いくつかの著作物が発行されています。URLLCのユースケースはそれほど注目されていません。しかし、実際には、他の2つのユースケースよりも影響が大きいかもしれません。

URLLCでは遅延が少ないことが極めて重要な要素になります。高い信頼性と短い遅延は、ある意味で直交する可能性のある目標だとも言えます。例えば、Wikipediaを見ると、遅延について「刺激から応答までの時間。もっと一般的に言えば、観測しているシステムにおける物理的変化の発生原因から結果までの時間として定義される」と記述されています。

物理レイヤの研究者は、遅延の正確な定義について異なる意見を持っています。ただ、一般的には、あるスロットに含まれるトランスポートブロックが基地局(BTS)から送信され、同ブロックの最初の信号にUEが応答したときからの往復時間が遅延だとされています。これは狭義の定義です。ただ、研究の観点から言えば、規格の基本レベルではその定義によって対応できます。この定義に即した場合、物理レイヤの設計者は遅延に影響を及ぼすすべての変数を制御することができます。未完成の3GPP Release 15や、最初の5G NSA(Non-Standalone)フェーズ1のリリースの段階で、3GPPのメンバーは、最適化によって物理レイヤでの遅延に対処しました。以下、これについて概要を説明します。

まず、柔軟性のあるフレーム構成の下では、サブフレーム(1ミリ秒)内のスロットを、アップリンク、ダウンリンク、またはそれらの組み合わせとして定義することができます。そのスロット長には柔軟性があり、サブキャリア間隔(SCS)に依存します。3GPPは、周波数帯と帯域幅に応じ、SCSについて複数の選択肢を規定しています。各スロットは14個のOFDMのシンボルに相当し、各サブフレームは、下表に示すように、スロット長にスケールすることができます。

SCS スロット長
15 kHz 1000マイクロ秒
30 kHz 500マイクロ秒
60 kHz 250マイクロ秒
120 kHz 125マイクロ秒

URLLCのケースでは、スロット長が短いことが重要です。3GPPはタイミングをさらに2、4、7シンボルに削減したミニスロットを定義しました。それにより、上の表のタイミングを線形にスケールできるようにしています。最後に、3GPPは、Self containedサブフレームモードも定義しました。このモードでは、UE側からの送受信は完全に1つのサブフレーム内で行われます。Self containedサブフレームは、理論上は大幅な遅延の削減を可能にするHARQ(Hybrid ARQ)を含んでいます。一般に、HARQのタイミングはリンクの質に依存してアクセス時間を増大させます。結果として遅延も大幅に長くなります。

ネットワークの研究者らは、物理レイヤや、フルスタック(すなわちRAN)における改善は、遅延の問題の一部にすぎないと指摘しています。ビットデータは1つのUEから送受信されるはずです。しかし、送信しているデバイスが地球の裏側に存在しているとしたら、最小の遅延目標を実現するのは困難でしょう。距離に基づいた伝搬は物理学によって規定されます。最高速のネットワークであっても、この課題に取り組まなければなりません。

研究者は、このタイプの遅延をエンドツーエンド(E2E)の遅延と呼びます。E2Eの遅延を短縮するには、中核となるネットワークの変更、ネットワークのスライシング、MEC(Mobile Edge Computing)ノードの導入が不可欠です。規格の中で制御とユーザプレーンを分けることで、3GPPはネットワークのスライシングを可能にする新たなネットワークトポロジへの扉を開きました。より重要なのは、ある種の分散ネットワークの制御手法が必要とされているという事実です。その手法とは、ネットワークが最短のパスで演算機能を備えたノードにパケットを直接送信し、E2Eの遅延を効率的に削減するというものです。

3GPPは、5Gネットワークにおいてさらに遅延を抑えるための基礎を築いています。eMBBとmMTCのユースケースに対しては物理レイヤの改善が実現されることになりますが、URLLCに対する潜在力は残っています。ただし、URLLCと、本当に遅延の小さいアプリケーションについては、2018年12月にリリース予定の5G Core Networkにおいて上位レイヤが定義されるのを待たなければならないかもしれません。

著者プロフィール

James Kimery
National Instruments(NI) RF研究/SDR担当ディレクタ

今回の記事は「Microwave Journal」の筆者によるブログ(2017年11月30日に掲載)を邦訳したものです