前回、5Gによるモバイルアクセスの話題を取り上げました。特に、ミリ波帯の使用に関するいくつかの側面について触れ、まだ検討の最中にある難易度の高い課題を紹介しました。2017年8月21日から25日にかけてプラハで開かれたRAN1のミーティングでは、ビームの問題が浮上しました。その結果、5Gの物理レイヤについて、ビームの制御と管理に対応するための規定が設けられました。

このコンセプトについてご存じではない方もいるでしょう。3GPPは、5Gの実装(デプロイ)に向けた選択肢の1つとして、ミリ波帯を正式に採用しました。このレベルの周波数で伝送を行う際には、自由空間における伝搬損失に対応するために、フェーズドアレイアンテナ(以下、PAA)が使用されます。PAAは、現在の4G(LTE)システムで使用されている従来のアンテナ技術とは性質が異なるものです。PAAでは、5Gの信号を取得/送信するビームを形成するために複数の素子を使用します。

3GPPは、ビームフォーミングの手法として少し工夫を凝らしたものを採用しました。ミリ波の利用に向けて、5Gのシステムでは、ユーザー端末(UE)とNR(New Radio)の基地局(gNB)の両方に対し、アナログとデジタルを組み合わせから成る技術を適用します。この技術はハイブリッド型のビームフォーミングと呼ばれています。PAA内には、位相シフタを用いたアナログのビームステアリング機能が組み込まれており、これによってベースバンドサブシステム上でビームの方位角と高さをアナログ制御できるようになります。また、アナログ制御によってラフな方向に設定されたビームの微調整を行うために、デジタルビームフォーミングが併用される見込みです。

UEとgNBには、ビームの制御機能と管理機能が設けられます。それらにより、ビームの状態が常に監視されます。使用するビームは指向性が高く、UEやgNBのメーカーは、さまざまな形状のビームに対応しなければなりません。それらのビームの制御は非常に重要です。言い換えれば、どのようなビームをいつ使用し、その後いつビームを変更して通信品質やスループットを高めるかということが重要になります。

最初のステップとして、gNBはあるエリアのUEをスキャンするために幅の広いビームを送信します。より弱いスキャニング用のビームを受信したUEは、gNBに対してビームを送信してリンクの確立を試みます。リンクが確立したら、gNBは、UEと通信を行うためにゲインが高く幅の狭いビームに切り替えます。gNBは対象となる各UEのビームの特性を監視し続け、絶えずランク付けを行います。ビームの特性は常に変化しており、gNBは、いつビームを切り替えるのか、あるいはいつUEに切り替え命令を出すのか、またはそれら2つをどう組み合わせるのかという判断を実施します。UEが移動するモバイル型のユースケースでは、ビームの切り替えは迅速かつ連続的に起きるはずです。

システムの条件として考慮すべきことがあります。ビームの指向性は、自由空間の通信経路で生じる損失に打ち勝つために必要な高いゲインを生み出します。同時に、それは対象物がビームをブロックする可能性があるということを意味します。ビームが遮られたとき、gNBはその状態をどのように判断するのでしょうか、また、gNBとUEはそうした状況からどのようにして回復するのでしょうか。

4Gのシステムも複雑なものでした。ただ、ミリ波帯を組み合わせる5Gでは、システムとネットワークの複雑さは桁違いのレベルになります。3GPPはそうした課題の解決に向けて取り組みを続けています。それらの取り組みは、通信システムの設計を新境地に導き、今後数年間にわたってイノベーションをもたらすことになりそうです。

著者プロフィール

James Kimery
National Instruments(NI) RF研究/SDR担当ディレクタ

今回の記事は「Microwave Journal」の筆者によるブログ(2017年8月29日に掲載)を邦訳したものです