2017年春、OTAでのMassive MIMOが現実に - ブリストル大学とBTが5Gのフィールドトライアルで提携
Massive MIMO(大規模MIMO)は、5Gの仕様への適用が検討されている技術の1つです。実験室のレベルではすでに大きな進展を見せています。そのコンセプトについて、あまり詳しくないという方もいるでしょう。Massive MIMOは、数百本のアンテナを使用する基地局によって空間多重をフルに活用しようというものです。多くのデータストリームを同じ周波数を使って同時に送信することで、MIMOの有用性を極限にまで高めます。理想的には、低コストのアンテナを数百本使用することによって基地局を構成することができます。現在は、カバレッジを拡大し、電力効率を改善し、周波数利用効率を高めるために、セクタに分割された高出力のRRH(Remote Radio Head)が広く使われています。これに代わる手段が、Massive MIMOによって誕生するということです。
2016年に、英国のブリストル大学とスウェーデンのルンド大学の研究者らが、128本の受信アンテナと128本の送信アンテナを搭載した[Massive MIMO対応基地局のプロトタイプを使ってデモを実施しました]( https://www.fiercewireless.com/tech/bristol-lund-claim-record-5g-spectral-efficiency )。そのデモでは、わずか20MHzのチャンネル幅で146ビット/秒/Hzという驚くべき周波数利用効率の記録を達成しました。感動的なマイルストーンであることには間違いありませんが、当然のことながらこのデモは管理の行き届いたラボの環境内で実施されたものです。
この取り組みに注目したのが、英国最大の通信事業者であるBT(BT Group)社です。同社は、Massive MIMOのプロトタイプをさらに厳しい環境でテストするために、ブリストル大学のMark Bench教授とAndrew Nix教授に働きかけを行いました。管理されたラボではなく、屋内と屋外の両方の条件を含むさまざまなシナリオでシステムのテストを行うよう依頼したのです。
そこで、ブリストル大学の研究チームは、BT社のアダストラル・パーク構内にシステムを設置しました。ここでは、大規模な展示場を使って初期の実験が行うことができました。最初のテストでは、3.5GHz帯を使用し、20MHz幅の単一チャンネルによって12本のデータストリームを扱いました。このような条件下で、10本の異なるビデオストリームをリアルタイムで送受信しました。また、別の2つの空間チャンネルも加え、システムがサポートする空間多重に十分に余裕があることを実証しました。屋外のテストでも、20mの距離で同様の結果を得ることができました。
このプロトタイプは別の実験にも使われました。その実験とは、OTA(Over-the-Air)ですべてのモデムを同期させ、同じ無線チャンネル上で、64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)を使用する24のユーザに対してアップリンクのストリームを同時にサポートするというものです。この実験では、100ビット/秒/Hz未満の周波数利用効率と、20MHz幅の単一チャンネルで2ギガビット/秒に近いアグリゲート容量が達成されました。2016年に、ブリストル大学とルンド大学がラボで行ったデモの結果にはおよびませんでしたが、Massive MIMOの将来性とワイヤレスネットワークの潜在的な能力を十分に証明できています。
産学の連携は、先進的な研究を進めるうえで極めて重要です。BT社とブリストル大学の取り組みは、Massive MIMOの理論を具現化するために行われた連携の好例です。5Gが実用化に向けて進展するなか、このような協調関係がより多く見られるようになることを期待しています。
著者プロフィール
James Kimery
National Instruments(NI) RF研究/SDR担当ディレクタ
今回の記事は「Microwave Journal」の筆者によるブログ(2017年3月14日に掲載)を邦訳したものです