ダッソー・システムズは6月18日~21日の4日間、アメリカ・ボストンにて”サイエンス”をテーマとした年次グローバルイベント「SCIENCE IN THE AGE OF EXPERIENCE 2018」を開催した。本連載では、同イベントで行われたセッションや、現地でのインタビュー取材の様子をお届けする。

第1回となる今回は、同イベントにおいて語られた、ダッソーが5月24日に発表した英国の材料情報技術専門企業であるグランタ・デザインとの協業についての詳細についてを紹介する。

「SCIENCE IN THE AGE OF EXPERIENCE 2018」
ダッソーが”サイエンス”をテーマとして開催する年次グローバルイベント。
ダッソー・システムズが提供する、シミュレーションソフトウェアの「SIMULIA」ブランド、ライフおよびマテリアルサイエンスの「BIOVIA」ブランドのユーザーを中心とし、エンジニアや研究者、企業関係者、学術関係者などが集い、現代社会において科学が果たすべき役割についての最先端の知見や事例を共有する会で、2018年で3回目の開催となる。

グランタ・デザインは、ケンブリッジ大学発のベンチャー企業。材料の情報を管理するシステム「GRANTA MI」を製造業者や研究機関などへ提供しており、そのシステムがダッソーの3DEXPERIENCEプラットフォームと統合することになったことがすでに発表されていた。

これによって、ユーザーが3DEXPERIENCEプラットフォーム上で製品の設計やシミュレーションを行う際のサービスクオリティが向上する、ということだが、具体的にはどのようなことができるのだろうか。グランタ・デザインで製品の管理や戦略的方向付けを担当している、Najib Baig氏に話を聞いた。

  • グランタ・デザインのプロダクト・マネージャーを務めるNajib Baig氏。積層造形やシミュレーション、複合材料を含む、グランタ・デザインの材料イノベーション製品の管理を行っている

「今回の統合によって、プロダクトチームは3DEXPERIENCEプラットフォーム上から、企業の材料データベースにある情報を直接利用できるようになる」とBaig氏。

製品開発をするうえで、適切な材料の選定は重要だ。より軽量で高速な航空機や自動車をはじめ、柔軟性のあるハイテク機器、スマート衣類、3Dプリントで作成する医療機器など、どれをとっても、開発には材料が必要となる。

しかし、肝心の製品開発チームと材料情報を担当するチームがそれぞれ独立して活動している場合、その情報が適切に伝わらない場合が少なくない。例えば、材料チームがプロダクトに最適な材料があることを知っていても、その情報が共有されていない場合や、その情報を開発チームが探すのに時間やコストがかかってしまう場合がある。

そこで、設計やシミュレーションを行うチームが簡単にかつ迅速に適切な材料を選択できるようにするために今回の統合に至ったという。つまり、3DEXPERIENCEプラットフォームと企業の持つ材料データベースを管理するGranta MIを結びつけることによって、異なる部署・チーム間でも簡単に適切な材料の情報を得られるようにしようという考えだ。

  • 3DEXPERIENCEとGranta MIの統合によって実現される製品のライフサイクルイメージ。企業が持っている材料のデータベースと、グランタ・デザインが提供するデータを材料情報管理システム『Granta MI』上で統合し、3DEXPERIENCEプラットフォームからアクセスが出来るようにすることによって、デザイナーやエンジニア、シミュレーション担当者、プロダクトマネージャーなどの、各工程の担当者が適切に、かつ迅速に情報を得ることが出来るようになる

”デジタルスレッド”で上市までの期間を短縮

設計から製造(さらにはその先の工程まで)の製品のライフサイクル全体をデジタル化することを「デジタルスレッド」という。実際の製品をバーチャルに表現・維持してパフォーマンスを予測するという考え方の「デジタルツイン」と同じく、製造業において注目されているトレンドの1つだ。

  • IoT、デジタルツイン、Industry4.0を加速させるために必須となる「デジタルスレッド」。GRANTA MIと3DEXPERIENCEが統合したことによって、ユーザーは、製品の設計やシミュレーションなどを行う工程において、材料データに容易にアクセスすることが出来るようになった

今回のシステム統合によって、製品のライフサイクル全体で材料データベースが共有されることとなった。

これにより、例えば設計、シミュレーション段階でさまざまな材料のデータを活用することで、部品の品質に材料の変化がどのような影響を与えるのかを把握できるようになる。異なる材料を用いた場合の部品の品質について、「Abaqus」を用いて比較する、などといったことも可能だ。

グランタ・デザインとダッソー・システムズの両社は、今回のシステム統合によって設計から開発、製造に至るまでの全プロセスを通じて材料データへのアクセス性を向上させ、その一貫性を高めていくことで製品の市場展開までに必要な時間を短縮させると同時に、製品の設計エラーや性能低下に関するリスクを削減させることを目指す。

なお、同ソリューション(Granta MIと3DEXPERIENCEを統合させたもの)をテスト導入している企業はあるのか、という質問には、企業名をあげることは出来ないが、と前置きしたうえで「航空宇宙系で積層造形(アディティブ・マニュファクチャリング)に力を入れている企業や、同じく積層造形に特化したサービスプロバイダ、アメリカの一部の大学などが導入している」とのことであった。

それでは、実際にこのソリューションを導入するにあたって、企業はどのような作業をする必要があり、またどれほどのコストがかかるのか?構成できる材料のデータベースとはどのようなものなのか?次回は、これらの疑問についてのBaig氏の回答を紹介する。