あけましておめでとうございます。お正月は暖かかったのにその後は寒い連休となり、体調を崩しやすい気候ですが、みなさまいかがでしょうか?我が家は唯一の暖房器具であるエアコンが年末に壊れてしまい、実は寒いお正月でした。というか買い替え品が届くまで寒さが続きます…。

さて、年末にご紹介した公差の話を続けていきたいと思います。前回は、すべての公差の基本である普通公差を中心にお話しました。今回は「はめあい公差」についてです。

「はめあい」とは、例えば軸と穴といった「嵌めて合わせる」部品間の関係性のことを指します。そして、その合わせる部分のサイズに対する公差を「はめあい公差」と呼びます。このはめあい公差は、軸と穴だけではなく、相対する2つの平行平面にも適用できます。

例1: 軸と穴

例2: 相対する2つの平行平面

はめあいは、その製品の機能によってある程度の隙間を必要とするケース、逆にはめたらもう動かないようにしっかりとはめたいケースなど設計する製品の仕様によって条件はさまざまです。そこで、JIS(JIS B 0401-1)でははめあいの状態を以下の3つの「公差域クラス」を設けて各々の場合で公差を定義しています。

  • すきまばめ:穴と軸とを組み立てた時に、常にすきまができるはめあい。
    使用例=キーとキー溝、ピストンリングとリング溝など、組み合わせた状態で動かすことが前提の組み立てで使用するケースが多い。
  • しまりばめ:穴と軸とを組み立てた時に、常にしめしろができるはめあい。
    使用例=歯車と軸の固定、継ぎ手と軸の固定などに使用。一度はめたら部品を壊さないと外せないぐらいの固定が必要なもの。
  • 中間ばめ: 組み立てた穴と軸の間に、実寸法によってすきままたはしめしろのどちらかができるはめあい。
    使用例=継ぎ手フランジ間のはめあい、リーマボルトなど、固定する必要がある組み立てで使用するケースが多い。

では、この図の寸法を例に、はめあい公差の基本について説明してみましょう。穴の直径寸法がこのように表示されています。これがはめあい公差を表現する一例です。

拡大してみましょう。この寸法表記は大きく4つのパートに分かれています。

1) 穴の大きさを示す、いわゆる基準値です。
2) はめあいのサイズ許容区間をアルファベットで示す識別文字です。穴は大文字、軸は小文字と決められています。ちなみに2016年のJIS B 0401-1の改定により、従来「公差域」と呼んでいたものを「サイズ許容区間」と呼ぶようになりました。ほとんどの方には「公差域」と表現した方がピンとくると思います。

サイズ許容区間は、基準寸法に対しての許容差の範囲を定義しています。イメージは下図のようなものです。基準値に対しての許容差の範囲が決められています。

アルファベットは実際にはAから始まり、ZCまであります。図の例では、AからHまでは基準寸法よりも+寄りに仕上げることになり、J以降の場合は-に仕上げます。JSはちょうど中間です。0の位置が穴や軸の中心位置と考えるとわかりやすいかもしれません。

例1: 穴のサイズ許容区間のイメージ図

軸のサイズ許容区間のイメージ図

3) 基本サイズ公差等級番号といい、基準寸法に対して設定する許容差の範囲を数値で示します。この番号ごとの許容差はJIS B 0401-2で詳細に定義されています。ここではその一例を示します。

この表により、直径20mmに対してH7の公差を設定するということは、公差値の上限が+0.021mm、下限は0mmということがわかります。

4) 直径20mm に対してH7というはめあい公差を設定した場合の実際の公差値を記載しています。JISの製図ルールでは、基準寸法値とはめあい公差の表記があれば公差値は上記のような表により、おのずとわかるので表記しなくてもよいことになっていますが、この図面を使用する人がJIS本を開いて公差値を確認しないといけないことになるので、書いておくと親切です。

以上ははめあい公差のほんの基本です。精密なものを設計する場合には、非常に重要なものになりますのでこれから設計を学ぶ方は少なくともこのような基本は学んでおくとよいでしょう。

なお、上にも少し書きましたが、製図に関連するJISの項目の内容が、2016年に大きく変わりました。特に寸法の配置方法に大きな変更があります。従来から設計に携わっている人たちが認識している寸法には、大きく2種類あります。

  • 形状の大きさを示すための寸法
  • 形状の配置位置を示すための寸法

この図での穴に関しては、配置位置を決める50mmと30mm、そして直径寸法によって、どの位置にどのぐらいの大きさの穴を空けるのかがわかります。製造工程に設計データ(2D3D問わず)を渡す場合には、この2種類の寸法、つまり情報を入れることが必須となります。

3D CADを使用している場合、相手の加工業者によっては2D図面を作らず3Dデータを渡す場合もありますが、その場合でもこのような情報を入れることが必要です。ほとんどの機械設計向け3D CADには、3Dモデルに対して公差を記入する機能があります。

ところでこの「形状の配置位置を示すための寸法」ですが、実はその2016年のJISの改定で、このようなタイプの寸法は記入しないというように変更されました。位置については「寸法」で表現するのではなく、「幾何公差」で表現すると変更されました。 この幾何公差を使用して位置を定義する方法は世界的な流れであり、寸法で配置位置を示しているのはもはや日本ぐらいでは?という説もあるそうです。

ということで、次回はその幾何公差についてお話していきたいと思います。

では、今年も今さら聞けない設計やCADの基本的なことをご紹介していきたいと思っておいます。よろしくお願いします!

著者紹介

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。