こんにちは。今さら聞けないCAD関係の基礎知識を、こっそり読んで身につけていただく手助けとして役立てていただきたいこの連載も、なんだかんだとすでに第7回目となりました。
またちょっと架空の3D CAD製品の説明文を作ってみました。
この製品は、機械設計のための機能的なツールを搭載したフィーチャーベースの3D CADソフトウェアです。この製品を使用することで、より良い製品をより早く、より低コストで市場に投入することができます。
3D CADの世界に足を踏み入れると必ず遭遇するこの「フィーチャー」というものについてちょっと掘り下げてみようと思います。ちなみに「フィーチャー」です。「フューチャー」ではないですよ。英語のスペルは"feature"、機能とか特徴という意味です。
現在、ほとんどの機械設計向け3D CADは、「フィーチャーベース モデリング」というモデリング手法を取り入れています。第4回で「パラメトリックモデリング」についてお話しましたが、これはフィーチャーベース モデリングを取り入れているCADで使用します。
フィーチャーベースのモデリング手法は、「フィーチャー」と呼ばれるまさに機能や特徴を表した形状を積み重ねて部品形状を作り込んでいく手法です。
こちらの図は、Autodesk Inventorで部品を作成しているところです。
画面左側の背景が白い領域には、「押し出し」、「穴」、「フィレット」、「面取り」、「シェル」と表示されているのが見えます。この各々のことをフィーチャーと呼びます。この部品は、これらを組み合わせて作成されました。
こちらの図は、Solid Edgeで作成した部品です。先ほどのAutodesk Inventorとまったく同じ形状の部品を作ってみました。左側のツリー状のリストの中を見ると、「突き出し」、「穴」、「丸みづけ」、「面取り」、「側壁」と表示されているのが見えます。
Inventorの「押し出し」と、Solid Edgeの「突き出し」は、まったく同じ意味合いのもので、メーカーが異なるために表現が異なっているだけです。同様に、Inventorの「フィレット」とSolid Edgeの「丸みづけ」、Inventorの「シェル」とSolid Edgeの「側壁」も、各々まったく同じ機能です。
このように、フィーチャーというものを組み合わせて思いどおりの形状に作り込んでいきます。この部品の場合、以下のように作り込んでいます。
「押し出し(突き出し)」フィーチャーは、平面に描いた図形を平行移動して高さを設定して立体形状を作るというフィーチャーなので、どのような形状も作れます。この例の場合は長方形を描いて平行移動した結果、箱形状になりましたが、円を描けば円柱ができあがるということです。
「穴」はその名のとおり、穴を空けるためのフィーチャーです。その際、CAD製品によって詳細に違いはありますが、このフィーチャー1つで穴の深さ、穴の口元にざぐりや面取りを入れるかどうか、その穴がネジ穴なのか、ネジ穴ならどの規格のネジなのかなどを決定し、定義します。
このように、穴フィーチャーがとても典型的ですが、ただ形状を作るのではなく、その形状の属性も含めてモデリングできるようになっていることが「フィーチャー」と呼ばれる所以です。
「フィレット(丸みづけ)」は、いわゆる角Rを作成するためのフィーチャーです。図面では“R10"などと表現する箇所ですね。
「面取り」は、その名のとおり面取りを作成するためのフィーチャーです。C面取り(角を形成するエッジを45°にカット)、変則長さの面取りの両方に対応しているのが一般的です。
「シェル(側壁)」は、現在の部品形状全体を均等の肉厚にするというフィーチャーです。ただし、最低限1つの面は開ける必要があります。どのような機能の部品だとしても、開口部が必要だからですね。
フィーチャーベースモデリングは設計変更の時に便利
ところで、次の図は部品を真ん中で切断した状態の表示です。このように、3D CADには作った部品をあらゆる方法で検証するためのツールが搭載されています。
ここでこの部品をよく見ると、中央の円筒に追加した穴の側面もシェルの処理が施されてパイプ状になっています。
元々このように作りたかったのであればいいのですが、この穴はパイプ状にする必要はなく、下の図のように単に貫通させたかったのだとしたらどうしましょう?
形状の一部をカットするようなフィーチャーを使用して取り除きますか?
いいえ、そのような必要はありません。フィーチャーベースのモデリングは、作成過程が履歴化されているので、新しく追加するフィーチャーはその時点の最新状態をベースに追加される仕組みになっています。そのため、部品を作成していく手順を考慮すればよいのです。
ではこの下側の図のようにしたかったという場合はどうすればよかったのでしょう?答えは、穴フィーチャーをシェルフィーチャーよりも後に作ればよかったのです。
では、穴フィーチャーを一旦削除して新たに作り直せばよいのでしょうか?というと、その必要はありません。
フィーチャーベースモデリングでは、履歴を入れ替えることができるようになっています。入れ替えるだけでできあがる形状が変わります。
このようにフィーチャーベースモデリングは、形状に意味を持たせたり、履歴をコントロールすることで設計意図を伴ったモデリングが可能となります。この履歴を遡って修正することができるので、設計変更が入った時にはさらに効果を発揮することができます。
なお、このように履歴を伴ったモデリング手法は、受け止め方によっては面倒に思う方がいらっしゃるのも事実ですが、何より設計変更時に最大の威力を発揮します。作り始める時にきちんと部品の仕様や機能を確認して作り始めれば、設計変更が非常に簡単に短時間で行えます。
筆者はずっと、このフィーチャーベース モデリングを取り入れているCADのベンダーに所属していたので、こちらの方がより馴染みがあるのですが、ダイレクトモデリングも長所がありますので、次回以降にお話したいと考えています。
ではまた次回も楽しみに!
著者紹介
草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。